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第四話 『牙剥く担任教師』

2013-05-25

 プールにおいて熾烈な男子女子戦争が行われていた頃……。フェンスの外に出て、まさしく『蚊帳の外』になっている二つの人影があった。
 甲守耶美と明石士郎だ。
 どちらも水着姿のまま、バスタオルも羽織らずに林の中を歩いている。
「おい、どこまで行くんだよ甲守。そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか? 何だよ、俺に頼みたい事って」
 士郎は水泳キャップを脱ぎ、濡れた髪を乱暴に手で解きほぐしていった。実は士郎は耶美に連れ出されて、わざわざプールの外のこんな所まで歩いてきたのだ。
「念のために言っておくが、俺はもう戦死した身分だぜ? 罠にかけるつもりなら人違いだと思うんだがなぁ」
 清司と忠一が桃香を倒すために男子更衣室に行った後、プールでは生存メンバー二名ずつによる膠着状態が続いていた。郷里礼門と犬飼虹輝。宇崎みどりと甲守耶美。最初にその均衡を破ったのは礼門だったが、同時に耶美もまた行動を起こしていた。みんなが礼門の行動に注目している中、士郎に接近し、「頼みたい事があるからついてきてほしい」と持ちかけたのだ。
 士郎が生存メンバーなら、こんな危険な誘いにおいそれと乗ったりはしない。けれど彼はもう有り余るほどの恥ずかしい写真を女子に握られていた。今さら何を恐れる必要があるというのか。礼門とみどりが衝突を起こしている最中に、わざわざプールを離れる耶美の真意も探りたかった。
「今ごろ宇崎の奴、郷里に酷い目に遭わされてるかもなぁ」
「……そうね。そう仕向けたのは私だし」
「え?」
 立ち止まると、耶美がくるりと振り返る。
「郷里はみどりと話をしながら、チラチラと私の反応を窺っていたわ。私が『みどりを見捨てるつもり』だって事を確認するかのようにね」
 耶美は無表情・無感動な少女だ。どんな状況になっても沈着冷静さを失わない。今も、とんでもない事を口走っているにもかかわらず、その表情や口調は実に淡々としていた。狼狽しているのはむしろ士郎の方だ。
「ちょ、ちょっと待てよ……。どういう事だ? お前は女子軍だろ? それなのに何で宇崎を見捨てなきゃならないんだ?」
「彼女が桃香派の女子だからよ。私は姫乃派だもの。桃香の取り巻きなんて戦死してくれた方がいいに決まっている」
 それは確かにそうなのだが……。
 元々、男子女子戦争はその名の通り、五年二組の男子と女子の間で起こった戦争だった。男子は士郎、女子は姫乃を中心に結束し、互いに性的イタズラと写真撮影を繰り返す、血で血を洗う凄惨な戦いが繰り返された。
 しかしやがて男子の間にも女子の間にも、大きな派閥が生まれていった。士郎派と礼門派、それに姫乃派と桃香派だ。男子軍と女子軍が対立しているという状況だからこそ、これらの派閥は結束して敵軍と戦っている。
「でも、そろそろ限界ね。五年二組でいま生き残っているのは、全部で七人……いえ、五人かしら。犬飼と郷里、それに私と姫乃と桃香。つまりもう、男子軍と女子軍の戦いと同時に、互いの派閥の生き残りをかけた主導権争いも佳境に入っているのよ」
 たとえ自軍が勝ち残ったとしても、その自軍の中で自分の派閥が勝ち残らなければ意味がない。そのためには一時的に自軍が不利になったとしても、自分の派閥の利益を優先すべき局面も出てくるのだ。
「五人……って? お前計算間違いしてるぞ? いま生き残ってるのは六人じゃないか。清司と忠一が数に入ってないし、桃香は……」
「桃香は生きてるわよ。男子更衣室で戦死するのは、鷲尾の方。だって根墨は桃香に降伏して、恥ずかしい写真を撮られて奴隷になった――女子軍のスパイだもの」
「何だってッ?」
 それは士郎にとって寝耳に水だった。忠一が敵のスパイ? という事は、彼と共に桃香を倒そうと男子更衣室に乗り込んでいった清司の運命は……。
「くそ、何てこった!」
「待って明石。どこに行くの?」
「決まってるだろ! 清司を助けに行く!」
「無駄よ。もう遅いわ。それにあなたは戦死した立場……生存メンバーの私に逆らえると思っているの?」
 言いながら、耶美はスクール水着のゼッケンの裏側に指を差し入れた。ここはマジックテープで加工したポケットになっているのだ。取り出したのは防水用紙にプリントした写真の束。虹輝が転校してきた日、女子に敗北した士郎が晒した、恥辱の姿が克明に記録されている。
「黙って私の話を聞いて。嫌だと言うのなら、この写真を学校中にばら撒くわ。一応、顔にはモザイクをかけてあるけど」
「お前……」
 士郎が息を呑む。好戦的な桃香たちならいざ知らず、耶美がこんな強引な手を打ってくるとは思っていなかったのだ。今この林の中にいるのは二人だけ。耶美の手から強引に写真を奪い取り、男子更衣室まで戻る事も不可能ではないが……。
「――わかったよ。俺は戦死したんだからな。大人しく女子の命令には従うよ」
 士郎は観念したように両手を上に挙げた。これは戦争なのだ。清司が敵の罠に落ちたというのなら、戦死する事もやむを得ないだろう。むしろ彼の死を無駄にせず、男子軍を勝利に導く方法を考えなければならない。いま士郎がすべき事は、耶美の話に耳を傾け、情報を収集する事だけだった。
「忠一がスパイだって事は、みんな知ってたのか?」
「いいえ。桃香以外は誰も知らなかった。……表向きはね」
「白鷺は薄々感付いていたってわけか」
「その通り。だから姫乃は私に命令して、麻婆豆腐の皿を入れ替えさせたの。あなた達は下剤を仕込んだ給食で祢々子を陥れるつもりだったんでしょうけど、桃香は忠一からその情報を得ていた。そして忠一は皿を入れ替えて祢々子を助けたわ」
「ところがお前がもう一度皿を戻したから、結局暮井は罠に落ちた。桃香はピンときただろうな。自分が男子軍のスパイを飼っているのと同じように、男子軍も女子軍の中にスパイを忍ばせているんじゃないかって」
 そこで桃香は二つの策謀をプールの時間に仕掛ける事にした。一つは、忠一を利用し、清司を男子更衣室で倒す作戦。もう一つは、みどりを捨て駒にして、スパイを暴きだす作戦だ。
「祢々子が戦死した今、みどりも男子軍に負ければ、桃香は手足を失うわ。これで桃香派は実質桃香一人だけ。対して姫乃派は、姫乃と私の二人。女子軍の中での派閥勢力がひっくり返るのよ」
 だから耶美はスパイとしての正体が露見する危険を承知の上で、みどりを見捨て、士郎と共にプールを離れた。桃香は礼門と共闘しているようだから、後は放っておいても彼がみどりを始末してくれるだろう。
「ヘヘ……白鷺の奴、大人しそうな顔して結構えげつない事考えやがるな。作戦が成功すれば、男子軍の生存メンバーは虹輝と郷里の二人だけ。生き残っている面子を派閥単位で数えれば、士郎派・礼門派・桃香派がそれぞれ一人だけなのに対し、姫乃派だけが二人になって頭一つ抜けるって寸法だ」
 礼門にとっては邪魔な清司を倒せるし、彼と共闘すれば、桃香もまだまだ戦える。誰がスパイなのかハッキリ分かるのなら、みどりを犠牲にしても十分メリットはあると桃香は判断したのか。或いは礼門に対する『共闘の見返り』として、みどりは生贄にされたのかもしれない……。
 もはやこの局面においては、男子軍と女子軍の戦いという構図は意味を持たなくなっていた。礼門派と桃香派の連合軍と、それに対峙する士郎派と姫乃派という構図だ。
「当然、士郎派と姫乃派も手を結ばないと、敵の連合軍には太刀打ちできないだろうな」
「物分りが良くて助かるわ。これが、私があなたに頼みたい事。どう? 私たちと同盟しない?」
 士郎は腕を組み、思案を巡らせた。
 確かに耶美の言っている事は一理ある。嘘をついているとも思えない。勝利のためなら同盟もやぶさかではなかった。
 しかし、だ……。
「問題はその後だな」
 士郎の言葉に、かすかに眉を動かす耶美。
「仮に俺たちが同盟して、郷里と桃香を倒したとして……それでメデタシメデタシにはならないよなぁ? 郷里と桃香はどうせお互いを信頼しちゃいない。頃合いを見計らって裏切る気マンマンだろ? 白鷺だってそうさ。いいように虹輝を利用して、用済みになったらポイするつもりなんじゃないか? そこら辺をハッキリさせないと、とても同盟なんてできやしねぇ」
「つまり……姫乃がこの男子女子戦争を、どう終わらせるつもりなのか。それが知りたいって事ね」
「物分りが良くて助かる」
 今度は耶美が思案を巡らせる番だった。表情はほとんど変わっていないが、何か迷っているのは間違いない。士郎のこの切り返しは想定の範囲内だろう。問題は、その『答え』を教えてしまっていいものかどうか……。そこを悩んでいるらしかった。
「……わかったわ」
 逡巡の末、結論を出す。
「あなたになら、教えてもいいと思う。姫乃が何を思ってこの男子女子戦争を戦っているのかを。ただし、他言無用。特に生存メンバーの犬飼にはね」
「虹輝に? どうして?」
「彼は素直すぎる。思っている事がすぐ顔に出るもの」
 耶美の言葉に、士郎はなるほどと、肩をすくめるのだった。




 プールでの戦争のため、担任教師である鮫島を連れ出した姫乃は、彼に連れられて保健室を訪れていた。足がつったと嘘をつき、上手く鮫島をプールから離れさせたのだ。鮫島が姫乃に対して歪んだ欲望を持っていたからこそ成功した作戦である。
「おや? 保健の先生はいないみたいだなぁ。これは困ったぞ」
 保健室のドアを開け、室内を一望した鮫島は、それほど困ってもいないような口調で呟いた。むしろ喜んでいるのが見え見えだ。姫乃は内心ため息を漏らした。
 桃香から「鮫島先生は姫乃が好きみたいだから、きっと上手く連れ出せる」と言われた時はまさかと思っていたのだが……どうやら本当に鮫島は、教師にあるまじき感情、大人の男性としてあるまじき感情を、教え子たる姫乃に抱いているらしかった。まだ姫乃は子供だというのに、一体何を考えているのか。いや子供だからいいのか? 変質者の気持ちなどとても推し量る気にはなれなかった。
「仕方ない。とりあえず奥のベッドで休むか?」
 鮫島は努めて冷静な振りをしながら、肩を貸している姫乃を保健室の奥へと連れ込んでいく。
「あの、鮫島先生……。ベッドはいいです。そこの椅子で構いません。私まだ身体も水着も濡れていますから、シーツを汚してしまいます」
「何を言う。シーツなんかいくらでも換えればいいんだ。足が痛むんだろう? もしもの事があっちゃいけない。何も遠慮する事はないぞ」
 強引にベッドの方へと足を進めていった。自分の教え子を、怪我にかこつけてどうしようというのか。姫乃は鮫島が発する異様な空気をひしひしと感じ取っていた。保健室まで連れ出すのは計画のうちだったが、保健の先生が席を外していたのは計算外である。このままでは自分自身の身体に深刻な危害が及ぶかもしれなかった。
 とはいえ足が痛むという演技を続ける限り、無理に鮫島を振り払う事は難しい。姫乃はされるがままにベッドに腰を下ろした。鮫島が戸棚から新品のタオルを取り出して、彼女の隣に腰掛ける。
「いくら夏だからと言っても、濡れたままじゃ風邪を引くかもしれんな。先生が身体を拭いてやろう」
「そ、それくらい一人で……」
「いいからいいから。先生に任せなさい」
 姫乃の抵抗が弱い事につけ上がったのだろう。鮫島はどんどん大胆になっていく。タオルを広げ、濡れた姫乃の手や足を丹念に拭き取っていった。水泳キャップも脱がして、ヘアピンで留められていた長い髪を振り解き、水滴を吸収する。艶やかな姫乃の髪を、まるで一本一本愛でるように、指先で執拗にその感触を味わうのだ。
 鮫島の息が耳元をくすぐり、その煙草臭い口臭に全身の鳥肌が立った。さしもの姫乃も嫌悪感が表情から滲み出てしまう。
「――し、白鷺は好きな男子とか、いるのか?」
 呼吸を荒くする鮫島。教え子が嫌がっているのが分からないのだろうか。それとも気付かない振りをしているのか。無神経な質問を平然とぶつけてくる姿には、教師としての資質を疑わざるを得なかった。
「どうして先生にそんな事を答えなくてはいけないんですか?」
 普段は相手を気遣う言動に留意している姫乃も、あまりに非常識な鮫島の前では怒気を隠し通せない。自然と言葉の節々に棘が見え隠れしてしまっていた。
「教え子の事をよく知りたいと思うのは、教師として当然だろう?」
「私には、興味本位で訊いているようにしか思えません」
「心外だなぁ。先生は本当に白鷺の事を心配しているんだぞ? お前ほど可愛らしい外見の女子なら、言い寄ってくる男子は山ほどいるはずだ。変な男に騙されて、傷物にされたら可哀想じゃないか。こんな綺麗な身体をしているんだから……」
 髪を一通り拭き終えた鮫島は、姫乃の白い肩を撫でながら、今度はスクール水着の水気を拭い始めた。まずはお腹の辺りにタオルをあてがう。それからゆっくりと、じっくり感触を味わいながら、徐々に徐々にタオルを胸の方へと押し上げていった。
 そしてとうとう、鮫島の手がタオルと水着越しに、姫乃の胸の膨らみに触れようとしたその時……。
「も、もう結構です!」
 思わず姫乃はベッドから立ち上がってしまった。
「ま、待て白鷺! どこへ行くつもりだ!」
 反射的に彼女の手首を掴み、鮫島が引き止める。姫乃の両足に力が入った。
「白鷺……お前、どうして足が……?」
 まずい、と姫乃は思った。鮫島のあまりの暴虐に耐え切れず、つい立ち上がってしまったのだが……今の姫乃は足が不自由でなければならない。もし嘘がばれたら、男子女子戦争の秘密が鮫島に露呈してしまうかもしれないのだ。
 混乱した姫乃が思わず両足の力を抜いたのと、鮫島が彼女の手首を強く引いたのが、不運にも全く同じタイミングだった。
「あ……」
 ふらりとバランスを崩し、姫乃がベッドに倒れ込む。同時に鮫島も、予想外の手ごたえのなさに後ろのめりになってしまい、自分自身もベッドにひっくり返ってしまった。
 そして気がつくといつの間にか――。
「せ、先生……」
「白鷺……」
 鮫島は、姫乃をベッドに押し倒すような格好になっていた。スクール水着姿の姫乃が仰向けにベッドに倒れ、その上から鮫島が正面を向いて覆い被さっている。小さな姫乃の身体は、逞しくもないが中肉中背の大人の男性である、鮫島の大きな身体にすっぽりと隠れてしまっていた。
 お互いに好意を持っているなら、まるでラブコメ漫画のワンシーンのような光景だ。しかし残念ながら、相手に好意を持っているのは鮫島の方だけ。姫乃は彼に対して、せいぜい教師としての尊敬の念――それも今やほとんど消え失せているが、その程度の感情しか持ち合わせていなかった。男性としての好意など、一切ない。
「あの……どいて下さい、鮫島先生」
 困惑と、怒気を含んだ口調で言い放つ。だが鮫島は動かなかった。その表情からは徐々に理性が霧散しようとしている。瞳に宿る狂気の光。
「どいて下さい、先生!」
 さらに大きな声を絞り出す姫乃だったが、もはや鮫島の耳には届いていないようだった。
「し、白鷺……。先生は……先生はなぁ。ずっとお前の事を見ていたんだ」
「何を言って……」
「四年! 四年以上だ! お前が入学して来た時からずっと、先生はお前だけを見ていたんだぞ! お前が五年生になって、とうとう担任になれて、俺がどれだけ喜んだ事か……」
「知りません! そんなの、先生の一方的な感情じゃないですか!」
「白鷺ぃ! 先生はずっと前からな、お前の事が! お前の事が……。す、好きだったんだ!」
 もはや鮫島は自分で自分をコントロールできないようだった。欲望の赴くまま、姫乃を我が物にしようと、彼女の唇に自分の唇を近づけていく。
 狭い保健室に、凄惨な悲鳴が響き渡った。




 同じくプールでも、耳をつんざく悲鳴が轟いていた。
 声の主は宇崎みどりだ。耶美に見捨てられ、礼門と虹輝の二人がかりで恥ずかしい写真を撮られようとしている。礼門が背後から彼女を羽交い絞めにしつつ、その豊満な胸の膨らみを、水着越しに乱暴に揉みしだいていた。
「へへ、たまんねぇな。中学生でもこれだけ大きい女はそういないぜ? 俺もこのサイズを触るのは初めてかもしれねぇなぁ」
「やめて、触らないで! みんな! 見てないで助けてよっ!」
 みどりはどうにか礼門から逃れようと手足をばたつかせるが、プールの中では身体が浮いてしまい、なかなか振り解く事ができなかった。逆に礼門は、羽交い絞めにしながらみどりの身体を支え、同時にその肉体を弄ぶという離れ業を一人で行う事ができる。水中の浮力さまさまであった。
「フン、無駄無駄。クラスの連中は全員、お前の味方にゃなってくれねぇよ。諦めるこった」
 礼門の言う通り、プールにいるクラスメイトたちは誰一人としてみどりを助けようとはしなかった。男子たちは当然だが、女子でさえ遠巻きに見ているだけだ。礼門とみどり、それに虹輝を取り囲むようにして、男子たちの生垣が円を描き、その外周から女子たちがチラチラと様子を窺っている。哀しそうな表情や悔しそうな表情をしているが、同時にどこかその顔には、何か優越感のようなものが僅かに見え隠れしていた。
 クラスで一番のベストプロポーションの持ち主。ルックスも五本の指に入る美少女。そんな宇崎みどりが、自分たちと同じように男子の手で辱めを受ける。二度と男子に逆らえない弱みを握られる。自分たちと同じレベルにまで堕ちる。それが愉快で愉快でたまらないのだろう。
 女子軍には勝ってもらいたいという善意の心と、自分たちと同じように生き恥を晒せばいいんだという悪意の心。その二つが、様子を窺う女子たちの中で渦巻いているのだった。
「さーて、それじゃそろそろ中身を見せてもらおうとするか。犬飼、しっかり撮れよ」
「う、うん……」
 礼門の両手が、みどりのスクール水着の肩紐にかけられる。
「い、嫌! 写真なんて絶対イヤ!」
 途端に暴れ始めるみどり。さすがにいざ脱がされるとなると抵抗も必死だった。礼門といえども一人では抑えきれない。手を貸した方がいいだろうか……と虹輝が近づこうとした時。
「うるせぇ!」
 礼門がみどりの脳天を押さえつけ、一気に水中にねじ込んでいった。さっき虹輝も受けた仕打ちだ。これをやられると、水中で息が出来ず、手足をばたつかせてもがき苦しむ事になる。
 きっかり三十秒は押さえつけていただろうか。ようやく礼門が手を離すと、みどりは水面から顔を出し、水を吐きながら必死に息を吸い込み始めた。ぜぇぜぇと肩を上下させている。
「宇崎よぉ……どうせこの状況じゃもうお前は助からねぇんだ。抵抗なんかしたって苦痛が増すだけだぜ? 大人しく素っ裸になって、さっさと生き恥晒した方が楽だと思うがなぁ?」
「だ、誰が……あんたなんかの……思い通りに……」
「あっそ」
 みどりが口答えをするや否や、礼門は何のためらいもなく再び彼女の頭を押さえつけ、水中に沈めていった。まだ呼吸が整っていなかったというのに……。連続して二回はかなり苦しいだろう。
 やはり三十秒ほど放置して、礼門は彼女を開放した。水面から飛び上がり、みどりはむせ返りながら死に物狂いで肺に酸素を送る。
「あんま強情張るなよ宇崎。俺もこの歳で殺人犯にはなりたくねぇしな」
 言いながら、三度彼女の頭に手を伸ばす礼門。反射的に身をすくめるみどり。もはやこの場における両者の上下関係は――、揺ぎ無いほどに決定的だった。
「……かった」
 観念したみどりが呟く。
「あん?」
「……わ、かったって……言ったの」
「何が分かったんだよ?」
「だ、だから……。脱がして……いいから……」
 執拗な暴力に屈し、みどりが敗北を認めた瞬間だった。女子軍の中枢の一人として、今まで多くの男子に屈辱を与えてきたみどりだったが、一人になればしょせんただのか弱い少女に過ぎない。屈強な男子の暴力の前には、なすすべもなく蹂躙されるしかないのだ。
 そして礼門は、そんな負けを認めたみどりに、さらなる屈辱を味わわせる。
「脱がしていいだぁ? ったく、言葉遣いがなってねぇな。これだから馬鹿女は世話が焼けるぜ」
 彼女に何やら耳打ちし始めた。屈服したみどり自身に、自分の口から敗北宣言をさせようというのだ。顔を真っ赤にしたみどりがヒステリックに叫ぶ。
「そ、そんな事、言えるわけないでしょ!」
「え? 何だって?」
 即座に礼門はみどりの頭を鷲づかみにして、ダメ押しとばかりに水中に押さえつけた。今度はほんの十秒ほどだったが、それでもみどりが受けたショックは相当なものだ。
「悪いな宇崎。よく聞こえなかったんだよ。お前さっき、何て返事したんだ?」
 白々しく質問する礼門に、逆らう気力はもう、みどりには一切残っていなかった。涙と鼻水を垂れ流しながら、大人しく言われた通りのセリフを復唱する。礼門の命令で、虹輝はそれを動画モードでしっかり撮影していった。
「う……うう……。わ、私、宇崎みどりは……ご、郷里礼門さまに……。水着を脱がして……もらいたい……です」
「へぇ、俺に脱がしてもらいたいのか」
「は……い……。私の……お、おっぱいの大きさ、乳首の色、揉み心地……全部、じっくり確認して下さい」
「何だよ上だけか? 下も脱がしたかったなぁ」
「クッ……。し、下も……どうぞ、素っ裸になるよう脱がして下さい。陰毛の……生え具合も、あそこの色と形も、お……お尻の穴も……。好きなだけ観察して、写真にも……撮って下さい。お願い……します……」
 搾り出すように言い終えると、みどりは声を上げて泣き出してしまった。桃香の取り巻きとしてあれだけ偉そうに振舞って、何人もの男子を裸にしてきた宇崎みどりが、クラス全員の見ている前でここまで醜態を晒すとは。まだしっかりとスクール水着に身を包み、大事な所は一切見せていないにもかかわらず、クラスの誰もがみどりの無様な敗北をまざまざと実感していた。
「うーん、俺の教えたセリフとはちょっと違ったなぁ。あそこ、なんて中途半端な単語は言った覚えねぇんだが……まぁいいか。泣いて頼まれたんじゃ、脱がさないわけにはいかねぇよなぁ」
 礼門は改めてみどりの背後に回り、その水着の肩紐に手をかけた。今度はもうみどりも抵抗しなかった。嗚咽を漏らしながら歯を食いしばって俯くだけだ。その反応に満足気に頷き、礼門はゆっくりと水着を引き下ろしていった。
 水を吸って滑りにくくなったスクール水着が、豊満な膨らみに食い込みながら、徐々に徐々に引っ張られていく。
「ああ……いや……」
 諦念の声と共に、ポロンと二つの果実が水着から飛び出した。高学年にもなって、みどりは明るい太陽の下で、クラスメイトのほぼ全員に見られながら、立派に成長した胸を曝け出してしまったのだ。もちろんその過程は虹輝の手によって、連続写真としてデジカメの中に収められている。彼女が自分で言った通り、おっぱいの大きさも乳首の色も、じっくりと確認することができた。
「へへ、乳首も立派に成長してやがる。暮井みたいな子供の乳首とはわけが違うな。乳輪もちょっと大きめで……なかなかエロい胸してんじゃねーか。お? 乳首立ってるぜ?」
「そ、それは……プールに入ったから」
「身体が冷えて立っただけってか? どうだかなぁ?」
 礼門が慣れた手つきで、背後からみどりの乳首を刺激していく。指先で優しく摘み、コリコリと転がすと、たちまち先端は硬く尖って興奮の強さを露わにしてしまった。
「やっぱり育ちきった胸の方が弄り甲斐があるよな。発育途中の硬い胸なんかより、お前くらいの巨乳の方が……張りもあってたまんねぇぜ」
 何を言われてもみどりは答えなかった。もう答える気力も失せていた。いいように胸の膨らみを蹂躙されながら、涙の雫をプールの水面にこぼしていくだけだ。
「よーし、次は下を見せてもらおうか。犬飼、潜って下から撮影しろ」
「わ、わかった」
 礼門から渡されたこのデジカメは、防水機能付きだ。水中でも問題なく使える。プールの水は消毒用の塩素を使っているから、本当は防水機能付きのデジカメでも使用は推奨されないのだが、まぁこの一回だけ撮影できればいいのだろう。データさえ抜き取れば後は使い捨てだ。虹輝は大きく息を吸って水中に潜り、カメラのレンズをみどりの下半身に向けていった。
 みどりは今、スクール水着の上半身を中途半端に脱がされ、両腕が軽く拘束されていた。礼門が両足をM字に開かせても抵抗はできない。もっとも、さんざん水責めを受けた今のみどりに、抗う精神力など残っているとも思えないが……。
「まずは毛の生え具合を確認、っと」
 礼門が股座のスクール水着に手を伸ばす。相手が抵抗しなければ、背後からM字開脚させ、さらに支えている手で水着を引っ張る事など……水中では造作もない動作だった。股間の紺色の生地が強引に引き絞られる。
 水着の両脇から縮れた黒い陰毛が飛び出し、水の中をゆらゆらと揺れ始めた。水中に響く虹輝のシャッター音。礼門が肩越しに水面を見下ろすと、海草のように揺れ踊るみどりの陰毛をはっきりと確認する事ができた。
「へぇ、お前結構毛深いんだな。手入れとかしてねぇのか? 腋毛は一応剃ってるみたいだが……だらしねぇな、下の毛くらい自分でカットしとけよ」
 わざわざ女の子のプライドを傷つけるような言い方に、これが礼門の虐め方だと分かっていても、みどりは悔し涙を流すしかなかった。毛深い事をずっと悩んでいたのに、それをよりにもよってこんな最低な奴に見られて、馬鹿にされて写真まで撮られてしまうなんて。
「んじゃ、次は具の方を確認だな」
 しおらしく涙を流すみどりの惨めな様子に、礼門は上機嫌でさらに辱めを与えていく。掴み上げた水着の生地を横にずらし、彼女の成熟した性器を晒し者にするつもりだ。世紀の瞬間を直接見届けようと、周りで様子を見ていた男子達も、一斉に水中に潜ってみどりの下半身に視線を集中させていった。
「ああ……お願い、もう許して……」
「ヘッ、許すわけねーだろ、バーカ」
 グイ、と乱暴に引っ張られて、スクール水着は呆気なくみどりの下半身の防御を放棄してしまった。ついにみどりの女性器が白日の下に晒されたのである。水中越しとはいえ、多くのクラスメイトの男子たちが、その毛深いスリットの全てを網膜に焼き付けていった。虹輝も息をするのさえ忘れて、夢中でシャッターを押し続けていく。
「見たかよ宇崎のアソコ?」
「ああ、すっげぇよな、毛がモジャモジャで……」
「他の女子とは全然違ってたよね」
 水中に潜って息が続く限り観察し、水上に上がっては口々に感想を言い合う。遠慮のない男子たちの行動に、みどりは羞恥に震えた。
 これで彼女は恥ずかしい部分を全て晒した事になる。写真にもバッチリ収められた。これで戦死は確定……二度と男子に逆らう事はないだろう。
 満足した虹輝がデジカメの電源を切ろうとしたその時――。
 耳を疑う言葉が礼門の口から飛び出した。
「よーし、後は水着を完全に脱がして、俺の逸物をぶち込んでやるだけだな。おい、誰かこいつの水着、脱がしてやれよ!」
 事態を見守っていたクラスメイトたちの間に、どよめきが走った。水着を完全に脱がすのはまだ分かる。しかし逸物を……ぶち込む? まさかペニスを挿入しようというのか? 今ここで?
「ちょ、ちょっと郷里くんっ?」
 虹輝は慌てて割って入った。
「何だよ犬飼」
「じょ……冗談だよね? まさかこんな所で……その、最後までするなんて?」
「はぁ? 馬鹿かお前。ブス連中のザコ女子や、ガキみてーな暮井ならいざ知らず、こんな美味そうな身体を前にして今さら収まりつくかよ? 写真撮ったらハイおしまい? ガキの遊びじゃねーんだぞ! 俺は最初っからこいつにぶち込んでやるつもりだったんだよ!」
「そ、そんな……」
 男子女子戦争は、今や子供同士の悪戯で済まされるレベルを遥かに超えている。開戦初期なら下着を脱がすか、せいぜい丸裸にする程度だったが、最近では肛門に鉛筆を何十本も挿入したり、目の前で排便させたり、その攻撃方法は明らかに常軌を逸していた。戦争が長期化した上、そろそろ終盤に突入した事で、より羞恥行為がエスカレートしつつあるのだ。
 それでもセックスを行った事は今まで一度もない。そこまで行ったら強姦……明白な犯罪行為ではないか。もし妊娠でもしてしまったら、それこそ男子女子戦争の秘密が大人たちに暴かれてしまう。元も子もないだろう。
「犯罪行為? 笑わせるな、裸にして無理矢理写真撮るのは犯罪じゃねぇのか? 今さらいい子ちゃんぶるんじゃねぇよ」
「それは……そうだけど……」
 それでも越えてはならない一線がある。虹輝はあくまで反対しようとした。
 ところが。
「――いいんじゃねぇか、別に」
 不意に、プールサイドから聞き覚えのある声が飛び込んでくる。
「女子軍の連中はもう同じような事をやったんだ。お返しさ」
 見ると、そこには明石士郎が、鷲尾清司に肩を貸して立っていた。だが清司の様子はどうもおかしい。水着を身に着けているし、身体も綺麗だが、表情はどこか空ろだった。桃香を倒すために男子更衣室に行ったはずだが……何があったんだろう?
「同じような事って……」
「へへ、こいつぁいい。明石、初めて意見が合ったな」
「あんまり合いたくないけどな。いいぜ、宇崎の奴を好きにしてやれよ」
「ちょっと、本気で言ってるの明石くん!」
「ああ本気だぜ。桃香も同じ意見らしいし」
「羽生さん……が?」
 士郎の背後には、スクール水着姿の桃香が腕を組んでいた。その表情は実に愉快そうだ。とても恥ずかしい写真を撮られた後には見えない。
 どうやら、桃香を倒すために男子更衣室に入った清司は、何らかの罠で返り討ちに合ったらしい。そして裸の写真を撮られただけでなく、セックスかそれに匹敵するような辱めを受けた。士郎がこんな事を言っているのも恐らくそのためだ。
「桃香! た、助けて桃香ぁ!」
 これから本当にレイプされると悟ったみどりが、必死になって友人に助けを求め始めた。しかし桃香の反応は冷たい。
「ごめんねぇみどり。助けてあげたいのは山々なんだけど、耶美の姿が見当たらないのよねぇ。男子軍の生存メンバーは、郷里と犬飼くんでしょ。あたし一人じゃどうにもできないわ。姫乃は帰ってこないし、耶美は逃亡するし。あと一人くらい生存メンバーがいれば話は別だけど……それにどうせもう恥ずかしい写真は撮られちゃったんでしょ?」
 白々しくも苦悶の表情を浮かべる桃香。明らかに、彼女はみどりを助ける気が全く無かった。確かに戦略上は、戦死した女子を助ける意味は無い。けれど本気で助けるつもりなら、虹輝の持つデジカメを奪い取って破壊する手もあるはずだ。
「もしかしてみどりって処女? まぁいいじゃない。今どき処女信仰ってキモいし。犬に噛まれたと思って諦めなさい」
「な……桃香……。桃香ぁッ!」
「よし、お前ら! 一気に脱がせちまえ!」
 礼門の号令で、みどりの周囲にいた男子たちが反射的に飛び掛った。正真正銘のレイプを行うという事で躊躇していた彼らも、クラスのリーダー格である士郎や桃香が公認した事で、タガが外れたようだ。後は集団心理。皆で犯せば恐くないというわけだ。
 悲鳴と共に、みどりのスクール水着が脱がされ、宙を舞った。水を含んだそれがベチャリとプールサイドに落下する。同時に礼門も自分の海水パンツをずらし、隆々と勃起した自分のペニスを水中で露わにした。
「しっかり撮れよ犬飼。俺の顔は一応写らねぇようにな」
「う、うん……」
 生存メンバーであるはずの礼門の性器が写真に写ってしまったら、彼も戦死という扱いになってしまう。なってしまうはずなのだが……その逸物は、おちんちんなどという可愛らしいものではなく、まさにペニスと呼ぶに相応しい肉の凶器だった。
 ネットでも見られる無修正画像のような、大人の男性のそれに匹敵する大きさで、もちろん皮はズル向け。赤黒く変色した亀頭は、既に多くの女陰を貫いてきた風格を漂わせていた。毛も根元にしっかりと生え揃っている。こんな性器が写真に写ったとしても、それが礼門の弱みになるとはとても思えなかった。彼を戦死させるには、しっかりと顔を写した上でもっと屈辱的なポーズで撮影しなければならないだろう。
 そんな肉の凶器が、水中でみどりの秘所に狙いを定める。左右から延ばした礼門の指で、既に秘密の花園は全開、はしたないフルオープンとなっていた。
「処女卒業の覚悟はいいか?」
「やめ……お願い……許し……」
「心配すんな。俺は処女なんて喰い慣れてるからな。特に……無理矢理喰うのはよっ!」
 ゴリッ、という音が、水中で聞こえた気がした。
「あああああッッ?」
 水中でシャッターを押し続けていた虹輝の耳に、水上のみどりの悲鳴がハッキリと飛び込んでくる。礼門のペニスは強引にみどりの膣内にねじ込まれ、一気に奥まで挿入されていった。
 凄まじい迫力に、男子も女子も固唾を呑んで見守っている。もはや性的興奮は弾け飛び、生まれて初めて目の前で見る『セックス』という行為に、ただただ圧倒されているだけだ。虹輝以外の男子は、水中に潜って観察する事さえ忘れてしまっている。
「へへ、いーい感じだぜ。宇崎の膣内」
 容赦なく、礼門がピストンを開始する。肉の擦れる感触に、みどりは水泳帽を落とし、髪を振り乱して悶え苦しんだ。
 虹輝は他の男子達とは逆に、浮上するのを忘れる程に夢中で撮影を続けていた。あれほど隆々としたペニスがみどりの身体の中にすっぽり入ってしまうなんて。女性の身体の神秘には驚かされるばかりだ。うっすらと滲み出した破瓜の血が、プールの水に混じって辺りに広がっていた。
 みどりはもはや抵抗はおろか、悲鳴すら漏らさず、ただ人形のようにされるがままに犯されている。そこには女子軍の中枢として、桃香の隣で颯爽と振舞っていたかつての面影は微塵もない。
 どれだけ抽送が続いていたのだろう。それはほんの数十秒だったのかもしれないし、数十分かもしれない。誰もが、始めて見る生本番に固唾を呑み、時を忘れて集中してしまっていた。勝ち誇ったような礼門の言葉にようやく、事の終わりが近づいている事を悟ったくらいだ。
「へへへ……たまらねぇ。そろそろ出すぜ。もちろん中にタップリとな!」
 その言葉にも、もうみどりは反応を見せない。
「安心しな。ウチは産婦人科医だからな。親父に頼めばタダで堕ろしてやるよ。そら、初セックスで初レイプ、おまけに初膣内出しだ!」
 一際ピストンが激しくなったかと思うと、礼門は一気にペニスを膣奥深くに叩き付けた。そのまま恍惚とした表情で痙攣する。みどりの身体の奥深くで、しっかりと射精しているらしい。
 だが残念な事に、生きる屍となった今のみどりは、そんな大変な状況でも全く反応を示さなくなっていた。礼門がペニスを引き抜くと、性器から溢れた精液が水中にこぼれ出していく。
「す、すげぇ……」
 周りで見ていた男子が一言、そう呟く。
 だがそれっきりだ。
 目の前で繰り広げられたあまりにショッキングな光景に、男子も女子も、ただただ言葉を失い、呆然としていた。
 礼門がみどりの身体を解放し、海水パンツを上げると、彼女はぷかりと水面に浮き上がった。もちろん全裸のまま、仰向けに、だ。大きな乳房は重力に逆らってそびえ立ち、蟹股に開いた足の付け根には、陰毛に覆われた性器がぱっくりと口を開けている。そこから流れ出す精液がプールの中を漂う有様は、実に淫靡であった。
 静寂の中、虹輝のデジカメのシャッター音だけが機械的に響いている。
「あれで終わり? ……意外とあっけないのね、セックスって」
 その様子を遠目で見ながら、桃香がつまらなさそうに呟いた。とはいえその声は微妙に上擦っている。
「ひでーな、お前がけしかけたんだろ」
「人聞きの悪い事言わないでよ士郎。言い出したのは郷里の方よ。……でも何かガッカリ。本番のエッチなんかより、服を脱がして裸にしていく過程の方が面白いわね」
 彼女の言い分にも一理はあった。今回は初めて眼前で生セックスを見たことで、クラス全員が圧倒されてしまったのだ。みどりに明確な好意を抱く男子や、逆にみどりが好意を寄せる男子がいなかったのも、やや退屈に見えた原因だろう。好きな相手の目の前で好きでもない異性に犯されたりすれば、もっと面白いショーになるはずだったのだが。
 けれども一つだけ確かな事がある。
 それは今回の一件で、男子女子戦争が大きな転機を迎えたという事。
 敵軍への攻撃に、セックス、そしてレイプが追加されたのだ。クラスメイトたちがかろうじて保っていた自制心、その最後の一線が、跡形もなく消え去ってしまった。次からは目の前でレイプが行われても、誰もそれほど取り乱したりはしないだろう。攻撃方法は何でもありになってしまったわけだ。
 いま生き残っているメンバーに対し、果たしてこれからどんな羞恥行為が加えられるのか。恐らくそれは想像を絶する凄惨なものになるはずだ。
「次の標的は姫乃と耶美の二人ね。姫乃派だけが、四つの派閥の中で唯一、生存メンバーが二人もいるんだから。……フフ、あの子達がどんな顔して裸にされてエッチまでされるのか、今から楽しみだわ。もっとも、姫乃はもう今頃保健室でヘンタイ教師とエッチしちゃってるかもしれないけど」
 楽しそうに笑う桃香。士郎はやれやれと肩をすくめた。
「お前だって人事じゃないんだぜ? 白鷺も甲守も隙がない連中だ。返り討ちにあったら、生き恥を晒すのはお前かもしれないぞ?」
「あんたに言われなくても分かってるわよ。確かにあの子達は頭の回転も早いし、ガードも固い。でも頭の回転が良過ぎるのも考えものでね。特に耶美には一つだけ……致命的な弱点がある。そこを突けば最低でも一人。上手くいけば二人とも仕留められるわ」
「弱点? 何だよそれ?」
 士郎の問いかけを無視して、桃香は背を向けて立ち去ろうとする。
「敵軍のあんたに教えるわけないでしょ。要するに、最後まで生き残るのはあたしって事。そして最後に勝つのは間違いなく女子軍。あたし達よ」
 自信たっぷりに言い捨てる桃香の背中を、士郎は呆然と見送るだけだ。
「まったく……恐い女だねぇ」
 授業終了を告げるチャイムが、校舎の方から鳴り始めた。




 狭い保健室に、凄惨な悲鳴が響き渡った。
 ベッドの上で姫乃に圧し掛かる鮫島。しかし悲鳴を上げたのは、姫乃ではなく鮫島の方だった。何と姫乃は、押し倒されたまま彼の股間を勢いよく蹴り上げたのだ。
 鮫島が絶叫を上げて悶え苦しむ隙に、姫乃は彼を突き飛ばしてベッドから起き上がった。
「――子供だと思って甘く見ていると、痛い目を見ますよ、先生」
 怒気を孕んだ丁寧語を捨てゼリフにして、ドアの方へと走っていく。
「ま、待て! 白鷺ぃ!」
 鮫島も諦めない。なおも食い下がろうと、股間を押さえながら立ち上がった。姫乃がドアノブを掴む寸前に、彼女の肩を押さえて扉から引き離そうとする。
「放して! 放して下さい!」
「なぜ逃げる白鷺! 先生はなぁ、先生はこんなに……」
 さしもの姫乃も、一対一の腕力勝負となれば、大人の男性である鮫島に敵うはずもない。時間が経てば経つほど不利になる。このままでは本当に、担任教師であるこの男に犯されてしまう……。
 姫乃がいよいよ本能的な危険を察知した時、幸運にもドアノブがガチャリと回転してくれた。
 彼女は全くドアに触っていない。外側から、誰かが扉を開けようとしているのだ。姫乃と鮫島の両方が息を呑み、押し黙る。
「……あら鮫島先生。何なさってるんです?」
 ドアを開けて現れたのは、養護教諭の斑鳩美月だった。まだ二十代前半……外見だけなら高校生にも見えかねない、若い女性教諭である。長い髪をうなじで束ね、瑞々しい肢体を白衣に包んでいる。
「い、いや、ちょっと生徒が怪我をしたのでね、手当てをしてもらおうとここに……」
 言いながら、姫乃の肩をつかんでいた事に気付き、鮫島は慌てて手を離した。その動作を見逃さず、美月はシルバーフレームの眼鏡を指で押し上げる。
「怪我? どこも悪くなさそうだけど?」
 尋ねた相手は鮫島ではなく、姫乃の方だ。どうやら鮫島の変態性は、それとなく同僚教師の間でも……少なくとも美月には悟られているようだった。水着姿で教師と女子生徒が密着していたのだ。何もないと考えるのが不自然である。もし悪戯目的で連れ込まれたのなら一大事。姫乃が本当の事を言えなくても、その様子から事の次第を推測できると考えたのだろう。
「いえ、足をくじいただけです。それもしばらく休んでいたら良くなりましたから……授業に戻ろうと思って」
 とはいえ本当の事を話すのは姫乃にとっても都合が悪い。ここで事を大きくするのは、男子女子戦争の秘密を抱える都合、あまり得策ではなかった。
 失礼します……と一礼して、ボロを出さないうちに姫乃は保健室を立ち去っていった。やや引っかかるものを感じながら、残された鮫島を一瞥する美月。
「そ、そうだ。私も授業に戻りませんとな。ああ、斑鳩先生。ベッドに寝かせたのでシーツが濡れてしまいました。申し訳ありませんが、交換しておいてもらえますか?」
 鮫島はあえてベッドの事を美月に話した。姫乃に悪戯しそこねた……もとい、悪戯していないのはシーツを見れば明白だ。後ろめたい事がないのをアピールするために、あえて自分から話したのである。
 保健室を出て行こうとする鮫島に、美月は顔も向けずに声をかけた。
「鮫島先生」
「はい? 何でしょう?」
「『おいた』も程ほどに」
 ピクリと、一瞬鮫島の動きが止まる。
「おや、何の事ですかな。私が何かおかしな事をしたとでも……?」
「いいえ、ただの独り言ですよ。聞き流していただいて結構」
「はは、そりゃどうも。ずいぶんボリュームの大きい独り言ですな」
 互いに背を向けたまま、鮫島は保健室を出て行った。後ろ手にドアを閉める。
 ――危ない所だった。
 もし姫乃の水着を少しでも脱がしていたら……あるいはもっと身体を密着させていたら。さすがに言い逃れできなかっただろう。千載一遇のチャンスに、つい気が焦ってしまった。
 こっちは四年以上も待ち続けたのだ。何が何でも白鷺姫乃を我がものにしなければ、死んでも死に切れない。そう、あの麗しい少女を生まれたままの姿にひん剥き、穴という穴を犯し、身体の奥底に白濁液を注ぎ込む。一生消えないような雄の刻印を、徹底的に刻み込んでやるのだ。
 果たして……芯の強い、潔癖にして利発なあの少女が、どんな表情で泣き、喚き、痴態を晒して屈服するのか。想像するだけでも胸が高まるというものだ。白鷺姫乃の心と身体を征服できたなら、後はもうどうなっても良かった。ブタ箱だろうと地獄だろうと喜んで行ってやろう。
 だが目的を果たすまでは、決して誰にもボロを見せるわけにはいかないのだ。障害物は取り除く。どんな手段を使ってでも。
「新米教師の分際で邪魔しおって……。生意気な女め」
 ボリュームを落として、鮫島はそう独り言ちた。



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