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第二十四話 『開廷、軍事裁判』

2018-04-15

 その日、『国立青少年交流の家』の第二視聴覚ルームは異様な雰囲気に包まれていた。この視聴覚ルームは、雨天時など野外の活動ができない際、利用者がビデオ鑑賞等を行うための施設である。第一と第二の二部屋が存在し、午後からの自然教室反省会のため、今日は五年一組が第一視聴覚ルームを、五年二組が第二視聴覚ルームを使用していた。
 昼食を終え、各自荷物をまとめて午後一時までに集合する決まりである。反省会を終えた後はそのまま帰りのバスに乗る。そのため、昼休みの間に宿泊棟の部屋を全て片付けなければならないのだ。
 部屋の掃除を終えた順に、五年二組の生徒たちが第二視聴覚ルームに集まっていくと、いくつかの違和感が彼らを困惑させた。室内は普通の教室とさほど変わらない。正面右側に大型スクリーンと、天井にいくつかのモニターが設置されているだけで、机と椅子が並べられたちょっと大きめの教室といった印象だ。しかしその机は大半が後ろに集められ、逆に前方に大きなスペースが作られていた。
 教卓の前に机が一つだけ。両脇に、机と椅子が一セットずつ。まるで裁判所のような配置になっているのだ。
 机を並べたのは鮫島だろうか? 彼は誰よりも早く第二視聴覚ルームに来ており、荷物を持って集まってきた生徒たちを、後ろの席に着くよう促していった。ただし性別によって座る位置は決められている。男子が前、女子が後ろだ。
 何より決定的な違和感は、正面左側に置かれた衝立である。白い屏風……という表現がぴったりなそれは、教卓と左端の机の間をすっかり覆ってしまっていた。いったい何のためにあんなものを広げているのだろうか?
 その答えはすぐに察しが付いた。何故なら、午後一時を過ぎても一向に姿を見せない生徒たちがいたからだ。
 白鷺姫乃。
 羽生桃香。
 甲守耶美。
 宇崎みどり。
 暮井祢々子。
 この五名はいつまで経ってもやって来なかった。自然教室では班行動が原則だが、今回に限っては、鮫島が直々に特別許可を与えている。昼食を取っていた時に、この五人の元を訪れ、早めに昼食を切り上げて自分の荷物だけまとめて視聴覚ルームに向かうよう言いつけていたのだ。もっとも、戦争に負けた女子たちの食欲は一様に低く、特に姫乃はほとんど食事に手を付けていなかったが。能天気に食事を楽しんでいたのは祢々子くらいなものだった。
 つまり、同じ班の女子たちより早く視聴覚ルームに来ているはずの五人の姿がどこにもない。担任の鮫島はそれを気にする様子もない。そして教室の前方には不自然な衝立が置かれている。となれば、導き出される結論は一つしかなかった。
「――よし、全員揃ったみたいだな」
 視聴覚ルームを見渡し、鮫島が言い放つ。例の女子五人がいないにもかかわらず、だ。
「ではこれより自然教室の反省会を行う。とはいえ、実質的には男子女子戦争の反省会と言った方が正しいかな? 同じクラスメイトだというのに、男子と女子がいがみ合い、お互いを傷つけるための凌辱行為が繰り返されたのは実に嘆かわしい事だと思う。この戦争が無事終了したという事実が、今回の自然教室最大の収穫だな。どうしてこうなったのか、その原因をみんなで話し合い、二度とこんな事が起こらないようにしっかりと議論してもらいたい」
 教え子たちを見回し、いかにも教師らしい言い回しで演説を打つ。だが何の事は無い。鮫島は男子が勝ち、女子が負けたという戦争の結果を、そのまま追認しているに過ぎなかった。つまりそれは、これから五年二組が解散するまで、女子が男子の奴隷になる事を黙認するという宣言でもあるのだ。
「では後は君たちの自主性に任せよう。反省会は午後二時半まで……一時間三十分ある。好きなように使うといい」
 鮫島はそう言って教卓から離れ、最後尾の席へと移動していった。入れ替わりに席を立ったのは、郷里礼門と鷲尾清司、それに明石士郎の三人である。
「よーし。んじゃあ、お言葉に甘えて好きにさせてもらおうか」
 礼門は黒い暗幕のようなものを両肩に羽織っていた。教卓の後ろの椅子に陣取り、卓上の木槌を手に取る。カンカン、と軽く打ち鳴らした。
「これより、男子女子戦争軍事裁判を開廷する。一同、静粛に」
 仰々しく言い放つ礼門。彼が裁判官役である事は明白だった。女子に敵対する男子の中でも、言わば最凶最悪の礼門が裁判官を務める……これだけでも、この裁判がいかに不公平で不公正かがよく分かるというものだ。小道具の数々は、恐らく鮫島が施設の人たちから借りた物だろう。形から入るタイプか。
 正面から見て、左側の席には清司が腰かけた。特に決まりがあるわけではないが、日本の裁判所では左側に検察官が座る事が多い。この裁判でも彼が検察官の役である。
 そして正面から見て右側……弁護人の席に士郎が着く。こんな形だけの裁判でどれほどの弁護が期待できるのかは怪しいものだが、女子たちにとってみれば、彼だけが唯一味方と呼べる存在であった。
「この軍事裁判では、男子女子戦争の戦争責任を裁く。有罪か無罪かの判断、および量刑は全て裁判官であるこの俺が担う。陪審員だの裁判員だのはこの裁判には無ぇからそのつもりでな」
 分かり切っていた事だが、女子たちはこの裁判には一切関われないという事だ。雑魚男子たちと同じく、ただ傍聴席から裁判の進行を眺める事しかできない。もっと正確に言えば、裁判の形をとって行われる、男子軍の陰湿な報復の一部始終を見せつけられるという事だった。
「それでは被告人、前へ」
 礼門の一言が合図だった。
 最前列の傍聴席に腰かけていた雑魚男子たち四人が立ち上がる。前もって打ち合わせしてあったらしい。その動きは実に迅速だった。二人が衝立の左右に回り、折り畳むようにして移動させていく。とうとう、あの衝立で隠されていた場所が白日の下に晒される事となった。
 傍聴席のクラスメイト達がざわめき出す。
 当然だろう。衝立の向こうから現れた光景は、彼らの予想を遥かに上回るものだったのだから。
 もちろん、教室に姿を見せない五人――姫乃たちがそこにいるであろう事はみんな想像していた。彼女たち五人が被告人だという事も、まぁ自然な流れだ。雑魚女子たちを率いて男子女子戦争を戦ってきた中枢メンバーはまさにこの五人である。自然教室反省会の時間が一時間三十分と決まっているのに、ダラダラと女子全員を裁くことはできない。ルックスの悪い女子などより、美少女ぞろいの中枢メンバー五人をじっくりと嬲り者にした方が面白いに決まっていた。
 しかし衝立の向こうから現れた五人の姿は、あまりにも無残であった。
 まず彼女らは横一列に並ばされていた。座席などは当然用意されず、直立不動の姿勢を強要されている。
 そして全員、後ろ手に手錠をかけられていた。姫乃が桃香を拘束した時に使った玩具の手錠だ。姫乃が持っていた物か、それとも男子たちが五つ用意していたのかは不明だが、とにかく五人とも手を後ろに回され、まさしく罪人のように手首を拘束されていた。
 それだけならまだいい。
 衝撃的だったのは、五人全員が、一切の衣服を奪われていた事だ。
 靴と靴下は身に着けているが、そんなものは惨めさを際立たせるスパイスでしかない。姫乃が、桃香が、耶美が、もちろんみどりも祢々子も、全員一糸まとわぬ素っ裸であった。その状態で手錠をかけられているのだから……恥ずかしい身体の秘密の全てが、隠すこともできずに剥き出しとなっているのだ。
「ひどい、いくら戦争に負けたからってあんな格好……」
「可哀そう、丸見えじゃない」
「これって撮影してるの? 最悪じゃん……」
 雑魚女子の一人が言った通り、裁判の様子は根墨忠一がデジタルビデオカメラで逐一撮影していた。横一列にオールヌードを晒す女子軍中枢メンバーの醜態も、余すところなく記録中だ。彼女らは全員、過去に戦死した際一度は裸を見られている。だからと言って誰一人として強制露出に慣れる事は無かった。その表情からは恥辱と屈辱が隠し切れていない。
 いやある意味では、過去に脱がされた時よりも遥かに強烈な羞恥を味わっているのかもしれなかった。何故なら過去に脱がされた時は常に、彼女らは『一人ずつ』裸にされていたからだ。一人ずつ裸にされるより五人一度に脱がされる方が恥ずかしい。何故か? それは雑魚男子たちのひそひそ声に耳を傾ければ瞭然であった。
「甲守のマン毛、やっぱ濃いよな」
「みどりの奴、また胸でっかくなってねぇか?」
「見ろよ桃香のマン毛。やっぱ他の女子と比べてもマジみっともねぇ生え方だよな」
「暮井ヤバすぎだろ。うちの妹でももうちょっと胸膨らんでるぞ」
「こうして比べてみると、白鷺さんってホント、奇麗な身体してるよね。他の女子とは比べ物にならないよ」
 赤信号、みんなで渡れば怖くない……という考え方は、強制露出の世界では全く通用しない。何十人と一度に脱げば別だが、五人程度では完全に逆効果だった。発育具合や身体つきの違いを如実に見比べられてしまうからだ。胸の大きさや陰毛の生え具合のみならず、ウエストの細さや足の長さ、肌の白さ等々、同年代の女子と比較され、男子にそれを論評される事は思春期の少女にとって耐え難い屈辱であった。
 過去の映像を見比べれば、五人の身体つきを比較することはできる。女子たちも、自分の映像が他の女子と比較されている事は百も承知だろう。だがこうして一堂に女子を集め、全員の衣服を剥ぎ取り、本人たちの目の前で好き勝手に見比べる事は、彼女たちに決定的な精神ダメージを与えていた。裸を見られる事だけでも死に勝る屈辱だというのに、それを他の女子の裸と比較されて馬鹿にされる。これほどの辱めが他にあるだろうか。
 今回の裁判で女子全員を脱がさなかったのもそれが理由の一つだ。時間的制約の他にも、十六人もの女子を一度に脱がせば、羞恥が和らいでしまう危惧があった。それに脱いだ服をどう管理するのかも問題である。服を脱いだり着たりするだけで三十分は浪費するだろう。女子が裸でいる間、視聴覚ルームに他の教師や施設の職員が入ってきたらもう最悪だ。どうあっても言い逃れはできない。
 対策は当然講じてあった。
 二人の雑魚男子によって運ばれた衝立は、目隠しのように出入り口のドアの前に広げられる。これならもし誰かが入ってきても時間稼ぎにはなるはずだ。そして脱がされている女子が五人だけなら、その目隠しが効いている間に彼女らを教卓の下やスクリーンの奥に隠して、どうにか取り繕う事は不可能ではなかった。
 衝立が運ばれていく間、残ったもう二人の雑魚男子たちが動き出す。彼らは言わば刑務官である。被告人を法廷に連行し、逃走しないように見張る役だ。二人はまず祢々子の両脇に立ち、彼女の肩と手首を押さえて被告人席……礼門の目の前の机へと引きずり出していく。
「ちょっと、やめてよ! 触らないで!」
 祢々子は唇を尖らせるが、両手の自由さえ奪われたすっぽんぽん丸出し状態では何の迫力も無かった。礼門に向かい合うように、机の前で立たされる。傍聴席には背を向ける格好になるので身体を隠すことはできるが、逆に礼門には全てを見られる事となった。その上、今まで隠されていた小ぶりなお尻が傍聴人の視線に晒されている。
 そして残った他の四人の女子たちは、礼門の傍らで直立不動のまま、もちろん座席も無ければ手錠も外されずに、素っ裸を見世物にしながら裁判を傍聴しなければならなかった。
 雑魚女子たちは脱がさない代わりに、中枢メンバー五人は執拗なまでに辱める。それが男子軍のやり方であった。提案したのは士郎だ。理由はもちろん、前述の通り時間制約や部外者への隠蔽工作、それに羞恥心を煽るためなど、様々ある。
 だが一番の理由。
 それは、この方法が女子軍を徹底的に壊滅させる一番の近道だったからだ。いま視聴覚ルームにいる人間の中で、その真意に気付いているのはほんの数名だろう。士郎と、清司と、鮫島と……後はせいぜい姫乃と耶美くらいか。他の者が士郎の真意に気付くには、もう少し時間が必要だった。
 ともあれ、いよいよ軍事裁判が始まる。
 裁判の形をした、男子軍の陰湿な報復。女子五人に対する恥辱ショーの幕開けだ。




「では検察官。起訴状を朗読したまえ」
 礼門が木槌を振り回す。木槌はそんな使い方をしない……というか、そもそも日本の法廷では木槌など使わないのだが、まぁ雰囲気を出すだけだから構わないのだろう。本来なら行われる『人定質問』も省略されていた。被告人が暮井祢々子本人である事は疑いようがなく、いちいち質問して確認するまでもないからだ。
 指名された清司は席を立ち、手元の資料を朗読し始める。
「はい。起訴状を朗読します。……被告人一号、暮井祢々子はこの男子女子戦争において、女子軍の中核として活動し、男子に対して多大なる精神的損害を与えました。彼女に直接辱められた男子は七人、手を出さずとも凌辱行為を傍観していたのは十二人、男子を陥れる計略に参加した回数二十二回。延べ人数にして、実に四十一人もの男子が何らかの被害を被っている計算になります。男子女子戦争の戦争犯罪人の中でもその被害者の数は抜きんでており、彼らの心情を察すれば、厳罰をもって罪を償わせるのが相当と考え、ここに起訴いたしました」
 いつ用意したのか分からないが、原稿をすらすらと読み上げ、事も無げに着席した。平静を装っているものの、祢々子にこっぴどく辱められた男子のうちの一人は、他ならぬ清司である。複雑な感情が心の中を駆け巡っているはずだ。事件の当事者が裁判を行うという特殊な状況ならではの現象だった。
 起訴状の朗読が終わると、礼門は眼前の祢々子に対して宣告し始める。
「被告人には黙秘権が保証されているからな。言いたくない事は言わなくてもいい。それと法廷内での発言は全て証拠になるから注意するように」
 形だけでも一応は裁判の体裁を整える。これも士郎が吹き込んだ事に違いなかった。確かにこれは、裁判の形をした男子軍の報復行為である。通常の司法のような公平さは望むべくも無かった。雑魚男子たちは、起訴された五人の女子がネチネチと辱められる事を期待し、裁判の推移を固唾を呑んで見守っている。
 それでも『裁判の形をしている』事こそが重要なのだ。もしこれが、「裁判なんて関係ないぜ!」「男子軍が勝ったんだから女子に何をしても構わないだろ!」、などと無法地帯になればどうなるか? 雑魚男子たちのタガは外れ、たちまち雑魚女子たちも脱がしにかかるだろう。彼らは昨日の桃香の凌辱には参加したが、今日の姫乃の凌辱はただ傍観していただけだった。ここぞとばかりに好き勝手に暴走するに違いない。
 そんな状態に陥れば、鮫島でさえ事態を収拾させる事は不可能になってしまう。男子女子戦争の秘密も守り切れない。何もかもが御破算になってしまうかもしれないのだ。
 一方の女子たちも、裁判の形をとっていれば無茶はされないという安心感があった。まして起訴されていない雑魚女子たちは、原則として安全圏にいるのだ。仲間が辱められる有様を見せつけられるのは屈辱かもしれないが、それでも無法地帯に放り込まれるよりはましだった。
 男子たち、女子たち、そして教師である鮫島。それぞれの思惑が奇跡的なバランスで保たれた――そんな危うい利害関係の均衡の中で、裁判は粛々と進められていった。
 次は罪状認否だ。
 礼門が再び祢々子に言い放つ。
「今読み上げられた起訴状の中で、何か間違っていることはあるか?」
 通常、罪状認否には『認める』『認めない』『一部否認』『黙秘』などの選択がある。どういう選択をするかは法廷戦術にも関わってくるため、被告人はあらかじめ弁護人と入念に打ち合わせをして、罪状認否に対する答え方も裁判当日までに決めておく事が一般的だった。
 しかし祢々子は軍事裁判が開かれる事も、まして自分が被告人として裁かれる事も、直前まで知らされてはいなかった。当然、弁護人である士郎と打ち合わせする時間などあるはずもない。彼女は感情のままに喚き散らすだけだった。
「間違ってるも何も……男子を戦死させるなんて、みんなやってた事でしょ! なんで祢々子だけ責められるわけっ? 桃香ちゃんに言われた通りやっただけだもん! 祢々子悪くないもん!」
 勢い余って礼門の元に食い下がろうとさえしている。だがこれは裁判だ。あくまで淡々と、事務的に事を進めていかなければならない。被告人席の机を押し倒さんばかりの祢々子の剣幕に、すぐさま刑務官の男子二人が立ち上がり、左右から彼女の身体を抑え込んだ。
「離して! 離してよ! こんな裁判ごっこなんてやってられないよ!」
「静粛に」
「おかしいじゃん、他の女子だって喜んで男子いじめしてたくせに、祢々子たちだけに責任なすりつけて、自分たちはあんな後ろで見てるだけなんて!」
「静粛に」
「男子も女子も、みんな服着てるのに、なんで祢々子たちだけ裸なのよ! こんなの絶対許さない! 後で絶対に……」
「――静粛にッ!」
 ガツン! と、木槌が激しく打ち鳴らされた。瞬間、さすがの祢々子も肩を震わせて委縮する。
「裁判の進行を妨害するなら退廷を命じるぞ。反論の機会も無いまま判決が下されてもいいのか? 言っておくがこの軍事裁判は一審制だ。控訴も上告もできねぇから、法廷で反論できるのはこれが最初で最後になる。俺はどっちでも構わねぇが、せっかくもらった一度きりのチャンスだ。せいぜい大切にした方がいいんじゃないか?」
 とても礼門とは思えないほどの、冷静で知的な切り返しであった。これが圧倒的優位に立った者の、勝者の余裕というものだろうか。
 実際、両者の立場の差は決定的だった。
 片や戦勝国の人間。片や敗戦国の人間。
 片や軍事裁判の裁判官。片やその被告人。
 片や衣服の上から黒衣を纏ういで立ち。片や靴とソックスしか身に着けていないすっぽんぽん。
 誰がどう見ても、礼門が圧倒的優位に立つ者であり、祢々子は完全なる敗者だった。かつて士郎と清司が愛し合う映像をカメラで記録した時と同じだ。衣服を奪われ、人間としての尊厳も奪われた者は、衣服を身に着けている者には勝てない。立場が逆になって、祢々子はそれを痛いほど思い知らされていた。
 自分の身の程を痛感させられ、祢々子が唇を噛んで俯く。その惨めな敗残者の姿に、礼門は勝ち誇った笑みを向けた。
「だから一昨日の夜に言っただろ? 『今日の事は後でキッチリ詫びを入れさせてやる』ってな」
 それは自然教室初日、礼門が夜這い作戦に失敗し、屈辱のちんぐり返しの格好を強要されて、祢々子とみどりにいたぶられた時に言い放った言葉だった。あの時はただの負け犬の遠吠えだと思っていたのだが……。現に今こうして、祢々子は無様なオールヌードにさせられ、礼門の眼前に引きずり出されていた。礼門の言葉通り、屈辱を何十倍にもして仕返しされてしまっている。
 戦争に負けた女子たちに反抗する術はない。今の祢々子にできる事は、ただ大人しく男子の嬲り者になって、少しでも罪が軽くなるように御機嫌を取る事だけだった。かつて自分が打ち負かした男子たちに、尻尾を振って這いつくばるしかないのだ。死に等しいほどの屈辱。だが意固地になったところで罪は重くなる一方である。絶望的な敗北感が祢々子の胸に広がっていった。
 現実を思い知らされた祢々子が無言になったのを確認し、礼門は裁判の進行を再開した。
「では被告人は罪状認否に対して全面否認したと認定する。検察官、引き続き冒頭陳述だ」
「はい」
 清司が再び席を立ち、原稿の読み上げを始める。冒頭陳述とは、起訴状の朗読をさらに細かく正確にしたもの。つまり被告人がいつどこでどんな罪を犯し、それがどの法律に抵触するかを一つ一つ丁寧に説明する作業だ。
 とはいえ軍事裁判では通常の裁判とは取り扱う罪の内容が異なるし、まして男子女子戦争の軍事裁判はあくまで裁判ごっこの範疇を出ない。そもそも祢々子が男子に対してどんな悪さをしてきたのかは、当の男子たちが一番よく知っていた。これも裁判の体裁を整えるためのポーズと考えた方がいいだろう。
 清司もそれは心得たもので、雑過ぎず詳し過ぎず、適度なボリュームで冒頭陳述の原稿をまとめていた。祢々子が開戦初期から、桃香の腰巾着として男子を攻撃していた事。数々の雑魚男子たちを脱がし、笑いながら写真を撮っていた事。自分が戦死した後も戦争に参加し、清司を始めとする生存男子たちをなおも執拗に付け狙った事。……それらを時系列に沿って整然と説明していく。
 それは検察側、つまり清司の視点から見た戦争の経緯であったが、しかし概ね他の男子たちの認識から逸脱するものでもなかった。祢々子は全面否認しているものの、実のところ事実関係で争う箇所はほとんど無いのだ。
 だから証拠調べもまた、事実を確認するものと言うより、祢々子の責任の重さを確認するものが中心となってくる。これは否認裁判ではなく、被告人の罪の重さを決める裁判……いわゆる量刑裁判なのだ。
 祢々子に減刑の理由があるとすれば、それはたった二点しかない。主犯は桃香であり、彼女は単にその指示に従っただけ、という理由。これはさっき祢々子自身も言っていた事だ。もう一つは、彼女の精神的な未熟さを指摘し、その幼さゆえに罪を犯してしまったという理由。弁護人である士郎は必ずここを突いてくる。女子たちの不満をある程度和らげるためにも弁護の手は抜けないし、それに対抗しようとするからこそ清司の追及も強くなる。それによって結果的に祢々子を辱め、傍聴人の雑魚男子たちの溜飲を下げるという目的を達するのだ。
 男子も女子も、ある程度妥協した上でお互い納得する。そういう形に裁判を持っていかないと、不満を募らせた雑魚男子たちが暴走したり、逆に追い詰められた雑魚女子たちが暴動を起こしたりしかねない。男子女子戦争が終わったとはいえ、五年二組の男子と女子の関係は、今なお危ういバランスの上に成り立っていた。上手くその関係を安定化させる事は、もしかすると女子軍を全滅させる事より遥かに難しい案件なのかもしれないのだ。
 そもそも、戦争に勝ったとはいえ、男子軍が勝利したのは虹輝のおかげである。いや彼が姫乃に勝ったから……というわけではない。虹輝が未だ脱がされず、自分の恥ずかしい場所を秘密のベールに包んでいるからこそ、男子軍は女子軍に『勝った』と言えるのだ。女子が全員裸の写真を撮られてしまったのに対し、男子はほとんど全員が裸にされたにもかかわらず、虹輝一人だけがかろうじて脱がされずに済んでいる。だから男子軍は『勝った』に過ぎない。
 逆に言えば女子軍の残党が反乱軍を結成し、虹輝を闇討ちにしてそのおちんちんの写真を撮影してしまったら? 姫乃が作成した降伏文書の効力など何の意味も無かった。たちまち男子軍の優位性は覆される事になってしまう。男子軍の勝利も、男子女子戦争の終結も……虹輝一人だけが脱がされていないという、このたった一つの脆い事実のみでしか成立していないのだ。
 だからこそ、女子軍に反乱軍など組織させてはならない。
 女子軍のチームワークは完全に粉砕してしまわなければならない。
 そのためにもこの軍事裁判を必ず成功させる。
 それは士郎と清司の共通認識だった。検察側と弁護側という、言わば敵味方に分かれた二人であったが、両者の間の友情は決して揺らぐものではなかった。二人は同じ目的のために戦っているのだ。
 それは、男子軍による女子軍の揺るぎない支配。圧政による平和と秩序。女子軍の戦力を徹底的に破壊し、二度と戦争を起こさせない五年二組を造り上げる事。
 戦後の統治は、戦争に勝つよりずっと、犠牲と困難を伴うものなのだ。




 冒頭陳述が終わると、いよいよ証拠調べに入る。証人・証拠書類・証拠物といったものを通して事実を明らかにし、被告人の罪の重さを推し量っていく作業だ。
 といっても今回は、裁判を進めている人間も傍聴している人間も、みんな男子女子戦争の当事者である。わざわざ証人としてクラスメイトを出廷させたり、その証言を記録した書類を作成したりする意味はあまり無かった。何度も言うように、事実関係はクラス全員が知っている事。そしてこの裁判の本当の目的は、被告人の女子を辱めて、男子たちの復讐心を成就させる事なのだ。
「裁判長。ここで証拠物1-1を提出します」
 清司の発言に合わせて、雑魚男子の一人が教室の隅から旅行鞄を一つ、検察側の机の上に運んできた。ピンク色の可愛らしいバッグだ。たちまち祢々子の顔色が変わる。
「ちょ……なんでっ?」
 彼女の言葉を無視し、礼門は涼しい顔で答える。
「証拠物1-1を採用する」
「では中を確認します」
「駄目でしょ! なんで勝手に……ありえないし!」
 祢々子はなおも口を挟もうとするが、刑務官の男子に両脇から押さえつけられてはどうする事もできなかった。ピンクの旅行鞄が開けられ、中を勝手にまさぐられる光景を、指を咥えて……いや、指を咥える事さえできずに見届けるしかないのだ。
「それ祢々子の! 祢々子のバッグ! 信じられない! 勝手に開けないでよ!」
 そう、そのピンクの旅行鞄は、祢々子が自然教室に持ってきた物だった。荷物をまとめてから、この第二視聴覚ルームに来るよう言われていたのだから、当然祢々子の全ての持ち物がこの鞄の中に納まっている事になる。手錠をかけられる前に脱衣を強制された際、没収された物だ。それがまさか証拠物として裁判に使われる事になるとは……。
 年頃の女の子の旅行鞄。
 それは究極の個人情報。プライバシーの塊だ。
 許可なく他人が……まして同級生の男子が中を見分していいものではない。二泊三日の旅行ともなれば荷物も多くなるし、見られたくない物もそれだけ多くなるだろう。本人が嫌がっているのに、その目の前で鞄の中身を調べるなど、本来決してやってはいけない事だった。思春期の女の子の秘密を無理矢理白日の下に暴き出すのだ。やっている事は痴漢や強姦と何ら変わりない。
 礼門も清司もそれは百も承知だった。むしろ決してやってはいけない事だからこそ、やる意味がある。祢々子が嫌がれば嫌がるほど、やる価値があるのだ。そうでなければこの裁判の目的は果たせなかった。
 祢々子たち被告人の女子を辱めるために軍事裁判をやっているのだ。証拠調べに便乗して旅行鞄の中身を……プライバシーの塊をつまびらかにするのは、彼女たちの自尊心を打ち砕くための最善の策。最高の策。そして最悪の策でもあった。
「裁判長、ご覧下さい。こちらを証拠物1-2として提出します」
 まず清司が取り上げたのは、スナック菓子の袋である。チョコレートとキャンディも、開封済みの箱が一つずつ残っていた。自然教室の最終日にまだこれだけ残っているという事は、初日に鞄に入っていたお菓子はもっと多かったと考えるべきだろう。
「ご存知の通り、『自然教室のしおり』ではスナック菓子などは持ち込み禁止となっています。にもかかわらず彼女は複数の菓子類を鞄に忍ばせていた。被告人一号の規範意識の低さは明白です。彼女はルールを破り、不正を働く事に何の抵抗も感じていない。男子を裸にして無理やり写真を撮るという犯罪行為を、嬉々として行ったのも当然なのです」
 ちょっとしたお菓子程度なら誰でも持ち込んでいると思うのだが、どんな些細な事でも追及できる所は追及する。裁判では当然の戦術であった。
 続いて清司は水色の巾着袋に手を伸ばす。
「あ、駄目!」
 即座に祢々子は反応するが、やはり即座に刑務官男子たちに取り押さえられてしまう。そんな彼女の悪あがきを横目に、清司は平然と巾着袋を開け、淡々と中身を机の上に並べていった。
 中に入っていたのは、生理用品。ナプキンが三個ほどだ。まぁ女の子の旅行鞄には当然入っているものだろう。本来なら決して男子たちの目に晒される事のない白い包みを暴かれ、祢々子の顔がみるみる紅潮していった。これが証拠物1-3となる。
「証拠物1-3について、被告人に質問します。あなたは既に初潮を迎えていますか?」
「な……」
 さらに畳みかけられる無礼千万な質問に、彼女は声を失った。いったい、生理があるのか無いのかと、この裁判とどう関係があるというのか。怒りのあまり口をパクパクさせる祢々子。何か言い返さなければと思うのだが、頭が真っ白になってしまって思うように言葉が出てこなかった。
 だが、次の瞬間。
「異議あり!」
 一人の男子の声が、法廷の空気を切り裂いた。
「被告人が初潮を迎えているかどうかと、本件は一切関係がありません!」
 声の主は、弁護人の士郎だった。検察側の質問に際して異議がある時は、このように質問を遮って、発言の許可を求める事ができる。裁判もののゲームなどでもお馴染みのシーンだ。ただし異議を認めるかどうかは裁判官に一任される。
「裁判長。初潮を迎えているか否かは、被告人の肉体的成長を推し量る上で重要な要素であり、ひいては精神的成長を推し量る要素でもあります。被告人の責任能力を判定する上で、これは極めて重要な質問であると考えます」
「異議を却下する」
 冷静な清司の反論に、裁判長たる礼門は士郎の異議をはねのけた。こうなれば士郎も一旦は矛を収めるしかない。引き続き清司が質問していく。
「重ねて被告人に質問します。あなたは既に初潮を迎えていますか?」
「なんで……そんな事……」
「あなたには黙秘権があります。答えたくなければ答える必要はありません」
 そうは言っても、答えなければ裁判長の心証は悪くなる。少しでも罪を軽くしたいのなら、できるだけ質問に答えて礼門のご機嫌を取らなければならないのだ。それに気付かないほど祢々子は幼い少女ではなかった。
「……りません」
 唇を噛んで、消え入りそうな声で答える。
「失礼。聞き取れませんでしたので、もう少し大きな声で発言願います」
 清司はあくまで冷静に、事務的に裁判を進めていった。祢々子の周囲をゆっくりと歩きながら、執拗に彼女の口から恥ずかしい一言を答えさせようとしている。無念そうに天を仰ぎ、ついに祢々子が屈した。視聴覚ルームに響き渡るほどの大声で叫ぶ。
「ありません! 祢々子は、まだ初潮来てません!」
 まぁ五年生で生理が来ていないというのは珍しい事ではないし、ましてあの幼児体形の祢々子なのだから、初潮前という答えはクラスメイト達にとってそれほど驚きではなかった。問題は、なぜ生理が無いのに生理用品を鞄に入れていたか、だ。
「なるほど。では被告人は初潮前であるにもかかわらず、数回分の生理用品を所持していたという事ですね? なぜ使う当てのない生理用品を持ち込んでいたのですか?」
「だって……始まっちゃうかもしれないし」
「始まる? 何がですか?」
「だから……生理が……」
「つまりこういう事ですね? 被告人は初潮前であるものの、自然教室の期間中に初潮を迎える可能性はゼロではない。それに備えて生理用品を購入し、用意していた」
「はい……」
 そこまで問い詰めると、清司は身体の向きを変え、礼門の方へと向き直る。
「裁判長、お聞きの通りです。被告人は自分の身体の事をよく把握し、起こりうる可能性を予測し、それに備えた行動を的確にとる事ができます。この論理的思考が女子軍の作戦立案に大きく貢献し、それによって多くの男子が犠牲になった事を忘れてはなりません」
 淀みない清司の言葉は圧倒的で、絶対的説得力を持っていた。やはり祢々子が有罪となるのは既定路線なのではないか……そんな絶望的な観測が女子の間に広がっていく。もはや彼女を弁護する事など無意味だろう。抗いがたい無力感であった。
「以上で検察側の質問を終えます」
 清司が一旦質問を終える。引き続き行われるのは、弁護側の反対尋問。同じ証人や証拠物に対して、弁護側が質問を行い、自分たちにとって有利な方向に裁判を進行させるのだ。礼門に指名されると、士郎は席を立って祢々子の元へと歩み寄っていった。
 女子たちが無力感を感じようと感じまいと、士郎は自分の仕事をこなすだけだ。それは被告人一号・暮井祢々子の弁護。女子たちと違って、彼の瞳には一かけらの無力感も見出す事はできなかった。彼は祢々子の弁護を無意味などとは考えていないのだ。或いはもしかして、無罪を勝ち取る事ができるとさえ、思っているのかもしれない――。
「証拠物1-2について質問します」
 スナック菓子の袋を持ち、士郎が問いただす。
「あなたが最初に持ち込んだお菓子はどれくらいの量になりますか?」
「え、と……ポテチが三袋と、チョコが四種類一箱ずつ。キャンディは二袋。あとジュースのミニパックが五本」
 戸惑いながらも祢々子は答えた。お菓子を持ち込むのが悪い事だと非難されているのに、わざわざどれくらいの量を持ち込んだのか答えさせるなんて、何を考えているのだろう? 男子も女子も、士郎の真意を考えあぐねた。
「ずいぶん量が多いですね。それを一人で食べたのですか?」
「ううん、友達と分け合ったりして……」
「友達とは具体的に誰の事でしょうか?」
 問われるまま、祢々子はお菓子を分け合ったクラスメイトの名前を挙げていった。同じ班の女子はもちろんだが、その中には桃香の名前もあった。行きのバスの中でこっそりチョコをあげたし、今日の朝にもキャンディをプレゼントしている。
「おや、変ですね。羽生桃香さんはあなたとは別の班では無かったのですか?」
「だって友達だし」
「ふむ。たとえ班が違っても、友達であるからお菓子を分け合っている。羽生桃香さんとはずいぶん仲がいいようですね。しかしあなたは昨晩、戦死した羽生桃香さんの首輪のリードを引っ張り、深夜の散歩を強要するという行動をとっています。これは彼女を快く思っていなかったという事ではないのですか?」
「そんな事ないよ! 桃香ちゃんの首輪を引っ張ったら面白いなって思っただけで。今度は祢々子が犬の役やってあげるって言ったもん」
 昨晩の深夜の散歩の一件は、ほとんどのクラスメイト達にとって初耳だった。皆、興味深げに二人のやり取りに聞き入っている。
「ではあなたにとって羽生桃香は今もなお、大切な友達の一人という事でしょうか?」
「もちろん!」
「友達として、彼女の力になりたいと思っていますか?」
「当たり前じゃん!」
「友達の望む事なら叶えてあげたいと?」
「そりゃそうだよ!」
 三度念を押して、士郎は満足げに小さく微笑んだ。礼門の方へ顔を向ける。
「お聞きの通りです、裁判長。被告人一号は友人の羽生桃香に対し、極めて強い友情を感じています。男子女子戦争に加担したのも、友人を助けたい一心であった事は明白でしょう。彼女はただ、羽生桃香の力になりたかった。その純粋な思いだけで戦争に参加していたのです。決して、心から男子を辱める事に悦びを見出していたわけではありません」
 いやもちろん、祢々子が心から男子を辱めて悦んでいた事は誰だって知っている事だ。自分の意思で……自分が楽しむために男子を脱がし、笑いながらおちんちんを撮影し、男子を屈服させる快感に浸っていた事は、男子も女子もみんな知っている。
 けれども士郎の話術は巧みで、話の流れだけを聞いていたら、祢々子には何の罪もないのではないかと錯覚させられそうになる。さらに彼は畳みかけるように次の証拠にも持論を展開していった。
「証拠物1-3について、被告人に質問します」
 祢々子の鞄に入っていた生理用品だ。思わず彼女の顔が強張る。士郎は被告人席の机に身を乗り出すようにして、温和な口調で問い質した。
「この生理用品を鞄に入れておく事は、あなたが自分で考えた事ですか?」
 冷徹で事務的な清司とは真逆の、そんな優しい口調は、祢々子の緊張を解くにはてきめんだった。彼の意図を察し、求められているであろう答えを口にする。
「ううん、ママが用意してくれたの。女の子なんだから、備えはしっかりしておきなさいって」
「なるほど」
 チッ、と小さく舌打ちしたのは清司だ。思わず爪を噛む。彼もその事実は予想していたのだろう。そこをあえて触れずに被告人の印象を悪くしようとしたのに、抜け目のない士郎にしっかりと掘り起こされてしまった。やはり法廷で戦う相手としては、明石士郎は分の悪い相手だ。改めてそう思っているようだった。
「裁判長、いかがですか? 母親のアドバイスに従って素直に生理用品を鞄に入れるというこの行為に、女子軍を有利にするだけの論理的思考が垣間見えるでしょうか? 私にはただの従属的行動にしか感じられません。それは友人の羽生桃香との関係にも言えるでしょう。即ち彼女は、友人を助けたい一心で、従属的に行動し、戦争に参加したに過ぎないのです」
 淀みのない士郎の言葉に、女子たちは一縷の望みを見出していた。もしかしたら士郎の尽力で、祢々子は見事無罪を勝ち取るかもしれない……そんな希望を感じ始めたのだ。それほどまでに士郎の弁護は堂に入っていた。祢々子本人のみならず、傍聴席の雑魚女子たちさえ、彼に好意の眼差しを向け始めている。
 しかしながら不思議な事に、訴追されている他の中枢メンバーの女子たちの表情は一様に暗かった。確かに祢々子への弁護は、彼女が主体的ではなく従属的に戦争に参加したというロジックになっている。逆に言えば責任を桃香たちに押し付けているようなものだ。他の中枢メンバーにとって面白くないのは当然だろう。
 だがそれ以上に、彼女たちは単純に『忘れていない』だけなのだ。明石士郎もまた、男子軍の初期リーダーとして、数多くの女子を辱めてきた張本人だという事を。決して同情と博愛の精神で祢々子を弁護しているわけではないという事を。彼の弁護も含めた、この裁判の目的が――、女子軍への陰湿な報復に過ぎない事を。
「それでは裁判長、続けて証拠物1-4を提出いたします」
 祢々子と雑魚女子たちは、今からその事実を思い知る事となる。
 士郎は躊躇なくピンクの鞄に手を突っ込むと、中からビニール袋に入った衣類を取り出し始めた。まずは透明な袋に入ったTシャツやショートパンツ。それに野外活動用の体操服やスクール水着。寝間着代わりに使う長袖のジャージもあった。二泊三日の自然教室を通して、たっぷりと汗と匂いが染みついたそれらの衣類が入った袋が、机の上に並べられていく。被告人席の机だけでは足りないので、雑魚男子たちが慌てて追加の机を運んできたほどだ。
 もっとも、これらは証拠物1-4ではない。士郎の狙いはもっと別の衣類にあった。そう、全ての衣類の中で、最も汗を吸い、最も匂いを放ち、そして最も汚れを纏っている衣類。女の子にとって異性に最も見られなくない衣類。同時に男子たちにとっては最も興味のある秘密のヴェールに包まれた衣類。
「あ……駄目! やめて、お願いそれだけはッ!」
 刑務官に制止されると分かっていながら、それでも祢々子は身を乗り出した。それだけ男子に見られたくないのだろう。左右から雑魚男子たちに取り押さえられる彼女を尻目に、士郎は鞄の中から黒いビニール袋を取り出していった。
「裁判長、こちらが証拠物1-4です」
 他の衣類は透明な袋や白い半透明の袋に入っているのに対し、その衣類だけは決して透けて見えないよう、わざわざ黒い袋を用意して収めてあった。思春期の女子にとって、同性に見られる事さえ憚られる代物だからだ。それをあえて士郎は衆人環視の元へと引きずり出し、晒し物にしようとしていた。他の衣類の袋は閉じたまま放置しているのに、この黒い袋だけは中身を見分しようとしている。
 それを察した祢々子が悲鳴を上げる。だが全ては後の祭りだった。ほんの一瞬だけでも、士郎に心を許した自分の愚かさをさぞ呪っている事であろう。彼は袋の口を開き、何の迷いもなく逆さにして中身を全て机の上にぶちまけていった。
「……証拠物1-4を採用する」
 薄笑いを浮かべて士郎の行動を追認する礼門。机の上には、色取り取りの華やかな下着類が散らばり、淫靡な花畑を形作っている。
 そう、士郎が暴いたのは、祢々子の使用済み下着であった。
 今日は二泊三日の自然教室の最終日。初日に着用していた下着と、二日目に着用していた下着。そして先程没収された、三日目の下着。その三日分の下着が見世物にされていた。傍聴人にはよく見えないため、わざわざ忠一がカメラでズームアップして、スクリーンやモニターに大写しにしてみせる。
 机の上の下着は全部で六枚。キャミソールが三枚と、ショーツが三枚である。ブラジャーは一枚も無かった。
「裁判長。ご覧の通り被告人一号の下着は極めて幼稚なデザインとなっております。臍まで隠れそうな木綿の純白ショーツに、ブラジャーではなくキャミソール。しかもいずれもアニメキャラクターや動物の絵がプリントされており、とても五年生の女子が着用するような代物とは思えません」
 さらに士郎は三枚のショーツを一つずつ手に取り、裏返してクロッチの内側を露わにしていった。それらもまた忠一のカメラが逐一撮影していく。女の子が最も見られたくないであろう、ショーツの恥ずかしい染みの全てが、特大スクリーンに大写しになるのだ。そのあまりに無残な仕打ちに、雑魚女子たちは悲鳴を上げ、雑魚男子たちは歓声を上げていった。
「いかがでしょうか? 被告人一号のクロッチにはこのように、黄色い小便の染みがべっとりと付着しています。ああ、このショーツには茶色い大便の拭き残しも確認できますね。トイレで用を足した後、しっかりと後始末ができないようです」
 男子たちが忍び笑いを漏らした。白い下着は特に汚れが目立つ。中にはスクリーンを指さして、隣の男子たちと笑い合っている者さえいるほどだ。
「ところが、です。お気づきでしょうか? 被告人一号の下着には小便の染みや大便のカスは付着していても、いわゆる『おりもの汚れ』は一切見られません。つまりまだ被告人一号の性器からは、おりものが生じていないのです。幼稚な下着、トイレの後始末の拙さ、そしておりものが無い性器。これらはいずれも、被告人一号の成長の遅さを指し示すものであります。肉体の成長の遅さは、即ち精神の成長の遅さの表れでもありましょう」
「異議あり!」
 軽快な士郎の弁舌に、清司が待ったをかけた。
「肉体の成長の遅さと精神の成長の遅さは必ずしも比例しません! 先程の発言は、弁護人の単なる推論です!」
 相手の論理に少しでも矛盾があればそこを突く。法廷戦術の基本である。だが今回に限っては、士郎はこの異議を予測していたようだ。落ち着き払ったまま冷静に反論していった。
「おや、先程検察官は被告人の肉体的成長を推し量る事が、ひいては精神的成長を推し量る事にもなると発言していますね? お忘れですか? 被告人一号が初潮を迎えているか否かを問い質した時です」
「ぐ……」
「ならば下着の趣味や身体の発育具合から精神的成長を推し量る事も、私の単なる推論とは断定できないのではないですか?」
 肉体の成長と精神の成長は必ずしも比例しない。しかし、かといって無関係と言い切る事もできなかった。士郎はそれが分かっているからこそ、清司が初潮の質問をした際、異議を却下されて素直に引き下がったのだ。肉体と精神の成長を結びつける理屈が認められたのなら、今度は自分が質問をする際、同じ理屈を使って有利に論理を展開すればいい。そう見抜いていたから。
「異議を却下する。弁護人は質問を続けるように」
 礼門が清司に言い放った。士郎の読み通りだ。何より礼門にとって優先すべき事は、被告人の女子たちを徹底的に辱める事である。理屈は後から付ければいい。そんな裁判長の独善的な発想を読み切っていた、士郎の勝利であった。
「実際、証拠物1-4を調べるまでもありません」
 言いながら、士郎は被告人席の机をどかし、忠一を手招きして呼び寄せた。遮蔽物が無くなった事で、改めて露わになった祢々子のオールヌード……その平らな胸を、無毛のスリットを、小ぶりなお尻を、丹念に間近から接写させていく。
「どうですか、この膨らむ兆しも無いような乳房と、発達していない子供乳首は? 股間には陰毛はおろか、産毛すら生えていません。臀部の肉付きも男子と大差ないですなぁ」
 かつて士郎と清司は、祢々子を仲間に引き入れるために、彼女の目の前で素っ裸になって愛し合うという痴態を見せた。陰毛の生えていなかった清司はさんざん馬鹿にされたものだ。普段冷静な彼もさすがにその屈辱には耐え切れず、つい『お前だって毛なんか生えてなかったじゃないか』などとみっともない負け惜しみを口にしてしまった程だ。その時、祢々子は自分が服を着ていたのをいい事に、『もしかしたら祢々子にも毛が生えてきてるかもしれないよ?』などとうそぶいていたものだが……。
 何の事は無い。
 今の祢々子もやはり、清司と同じく産毛すら生えていない、ツルツルの下半身を晒していた。あれだけ偉そうに男子を見下していたくせに、結局は自分もパイパンの子供ワレメしか持っていなかったのである。その恥ずかしい事実がスクリーンいっぱいに映し出されている。礼門や清司、士郎を始めとするクラスメイト達全員に見られている。
 未成熟なボディを舐めるように撮影していく忠一のカメラの前に、祢々子は卒倒しそうなくらいの恥ずかしさを味わっていた。そして心の底から痛感していた。この裁判が女子への報復に過ぎない事を。誰も被告人の女子を助けてはくれない事を。何より、有罪だろうと無罪だろうと自分が徹底的に辱められるのは既に決定事項だという事を。
「以上で質問を終わります」
 己の職責を果たし、士郎が満足げに弁護人席へと戻っていく。入れ替わりにやって来るのは、反対尋問を行う清司だ。検察官である彼は弁護人の士郎より厳しい。果たしてどんな意地悪な質問をしてくるのか?
 まして清司は祢々子が最も苛烈に虐め抜いた男子でもあった。復讐の炎を胸に宿している事は想像に難くない。だがもはや牙をへし折られた祢々子には、食って掛かろうという気概すら残っていなかった。彼の機嫌を損なわないように平身低頭で質問に答える事しかできないのだ。
「被告人一号に質問します」
 服をしっかりと着込んだ清司が、素っ裸で身体を隠すこともできない祢々子の隣に立つ。いつかの時とは完全に立場が逆転していた。顔を覗き込まれると、彼女は視線を合わせる事もできず、屈辱に顔を背けるだけだった。
「今からこの下着を、着用した順番に並べ替えます。どの下着から着ていったのか、説明して下さい」
「え……なんで、そんな事……」
「あなたには黙秘権があります。嫌なら答えなくても結構ですが?」
 言いながらも、清司の口調には有無を言わせない圧力があった。答えなければ裁判長への心証が悪くなる。清司を立腹させ、さらに追及が熾烈を極める危険もあるだろう。結局は祢々子に選択肢など無いのだ。
「異議あり!」
「却下する」
 士郎が手を挙げるが、今回は礼門も即座に跳ねのけた。女子の目の前に数日分の使用済み下着を広げ、着た順番を聞き出して並べ替えていく――。これほどの面白い見世物を邪魔する手はないと思ったようだ。気分屋の裁判長相手ではどうしようもない。士郎はやむなく手を下ろし、裁判の行方を見守るしかなかった。
「どうしました? どのショーツから穿いていったのか、覚えていないわけではないでしょう?」
 清司の無言の圧力が続く。まるで祢々子が答えるまで、何時間でも問い続けるような剣幕だった。実際には時間的制約もある。彼女が答えなければそれまでの話だ。
 けれども、無残な敗北者に成り下がった今の祢々子には、このプレッシャーに耐えられるだけの心の強さはもう残っていなかった。
「その……クマさんパンツが最初」
 おずおずと、清司のご機嫌を取るために質問に答えていく。かつて自分が二度も辱めた男子相手に、頭を垂れて媚びへつらう惨めな光景だった。
「その時のキャミソールは?」
「薄いピンクのやつ……」
「二日目は?」
「ウサギさんの総柄のパンツと、上はそのリボン付きの」
「分かりました。では三日目はこのアニメキャラクターがプリントされたお揃いの上下ですね。確かに先程裸になってもらった時、没収した下着もこれでしたから、間違いないでしょう」
 清司は六枚の下着を時系列に沿って並べ直すと、次に三枚のショーツをそれぞれ裏返していった。たっぷりと汗を吸い込んだ上、洗濯もされず汚れ物袋の中で数日間熟成された女の子の下着。年頃の男子ならばじっくり観察して匂いも嗅ぎたいと思うのが当然だろう。しかし同性愛者の清司にとって、それはただの汚い布切れに過ぎなかったようだ。淡々と三枚とも裏返し、クロッチの内側を露わにする。
 一方、疲労と絶望で極限まで困ぱいした祢々子は、もうそんな光景を見ても泣きわめく事は無かった。どうせ抵抗したところで最後には大恥をかかされるのだ。だったら諦めて全てを受け入れるしかない。裁判が始まった頃の、かつての反抗的な少女の姿はどこにも無かった。
「裁判長、ご覧の通りです。被告人一号のショーツは三種類ありますが、二日目に着用したウサギのショーツのみ、小便の染みに加えて大便のカスがこびり付いています。これは何を意味するとお考えでしょうか?」
 たまたま、二日目のショーツだけウンチの拭き残しがあった。考えにくい事だがありえない話ではないだろう。もう一つ可能性があるとすれば、それは一日目と三日目は排便を行わず、二日目のみウンチをひり出したという事実……こちらの方が不自然さはなく、状況から考えて一番もっともらしい推理と思われた。
「被告人一号に質問します。あなたはこの自然教室の期間中、何回排便しましたか? また排便したのは何日目ですか?」
 ウンチをした回数と日付を問い質される。その答えをクラスメイト全員に聞かれる。思春期の女の子にとって死刑宣告にも等しいそんな状況も、疲れ果てた祢々子にとってはどうでもいい事だった。全てを諦めきった表情で、ぽつりぽつりと答えていく。
「一回だけ……二日目に……」
「なるほど。一般的に三日間排便が無いと便秘とされますが、比較的お通じは良いようですね」
 こんな質問に何の意味があるのだろう。祢々子だけでなく、裁判を傍聴している男子も女子も、みんな疑問に思い始めていた。桃香の命令に従ったからではなく、祢々子が自発的に戦争に参加した……という方向に話を持っていくのが清司の狙いのはずだ。彼女はもう子供ではなく、分別のある大人なのだから、自発的に戦争に加担した責任を負わせるべきだ、と。
 それなのに、さっきから被告人を辱める質問ばかり繰り返している。いったい何を考えているのか?
 疑念を抱く級友たちをよそに、清司は祢々子の鞄をまさぐると、中から封筒を一つ取り出していった。封はされていない。逆さにすると、半紙で包まれた何かが二つ三つ、被告人席の上にこぼれ落ちていった。
 一つには『風邪薬』。
 一つには『酔い止め』。
 一つは『胃腸薬』。
 半紙には大人の字で……おそらく祢々子の母親の字で、そう書かれている。これは薬だ。自然教室のしおりにも、必要な分だけ小分けして持参するようにと、持ち物リストに掲載されていた。
 包まれた半紙は全てテープで止められている。風邪薬も酔い止めも胃腸薬も、結局使わなかったのだろう。ただその中で、一つだけ半紙のテープが開けられているものがあった。その半紙に書かれている文字は――『便秘薬』。飲み残したピンクの小粒がまだいくつか半紙の中に残っている。
 つまり、祢々子は複数の薬を自然教室に持参し、その中で便秘薬だけを服用したのだ。清司はこれを証拠物1-5として提出した。
「被告人一号に質問します。あなたはこの便秘薬を使いましたか?」
「……はい」
「なぜ服用したのですか?」
「なぜ、って……」
「必要があったから薬に頼ったのでしょう? その理由を聞いているのです」
「理由? 別に……」
「便秘になるのは嫌だから、早めに服用したのではないですか?」
 察しの悪い祢々子に苛立ったのか、清司が矢継ぎ早に畳みかける。だがこれは少し質問の仕方がまずかった。彼の焦りを見透かしたかのように、士郎が異議を挟んだ。
「異議あり! 検察官の質問は誘導尋問です!」
 検察官や弁護人は、証人や被告人に質問する事ができるが、それはあくまで真実を明らかにするためである。先入観を持って証言を捻じ曲げる事は許されない。そのため、自分の意図通りに証言させようとする尋問の仕方を『誘導尋問』と呼び、裁判では相手側から異議を唱えられる事が多かった。
「異議を認める。検察官は質問を変えるように」
 礼門にたしなめられ、清司が軽く息を吐く。では……と攻め方を変更した。
「証拠物1-6を提出します」
 パチン、と指を鳴らす。それを合図に、スクリーンのそばに控えていた雑魚男子が映像プレイヤーを操作し始めた。白いスクリーンと天井のモニターに何かの映像が流れ出す。視聴覚ルームにいた全員が画面に注目した。
『うわっ、スゲェ!』
 同時に響き渡る、スピーカーからの声。これは礼門の声だ。という事は、男子女子戦争の最中に撮影された映像だろうか? 画面の中で広がる光景が何なのか認識した時、静まり返っていた室内に怒涛の歓声と悲鳴が巻き起こった。
『臭いな。鼻が曲がりそうだ』
 これは清司の声。そう、スクリーンに映し出された映像は、かつて男子軍の罠に堕ちて祢々子がウンチをお漏らしした時のものだった。虹輝が転校してきたばかりの頃の話だ。大便の重みでパンツがずり下がり、隙間から便塊がボタボタとあふれ出していく様子までもが克明に記録されている。
「やめ……なんで、こんな……」
 疲弊していた祢々子も、さすがにこんなものをクラス全員の目の前で見せられてはたまったものではない。
「やだやだ、やめて……。やめてよぉ!」
 悲鳴と共に泣き叫んだ。何せ画面の中の祢々子は、その小さな足をウンチで茶色く汚し、足元にこんもりと茶色い山を築き上げているのだから。映像を止めようと身を乗り出し、刑務官たちに押さえ込まれてしまう。
『マジかよ、こいつションベンまでしてやがるぜ。さんざんウンコ垂れ流したくせに、まだ恥をかき足りねぇってか? 前の穴も後ろの穴も締まりねぇんだな』
「うわぁぁぁんっ!」
 スピーカーから流れる礼門の嘲笑が、時間を超えて今の祢々子の胸をえぐった。この映像が大量にコピーされ、クラスの男子全員の手に渡っている事は、彼女だって知っているだろう。男子たちはいつでもこの痴態を鑑賞できるのだ。パンツ一枚で縛られる祢々子の姿も、ひり出された大便も、彼らの目に焼き付いているに違いない。
「やめてぇ、お願いだから見ないでぇ!」
 しかしだからといって、目の前で映像を上映されて平然としていられるわけがなかった。祢々子にとってこの時の屈辱は、一生消す事の出来ないトラウマ。今も癒えない深い心の傷となっているのだ。
「やだよぅ……こんなの、もう、やだよう……」
 耐えかねた彼女はとうとう机に突っ伏して大泣きし始めた。
「異議あり! この映像を直接流す事は、被告人をいたずらに混乱させます! 裁判の進行を妨害する事になりかねません!」
「裁判長。検察官の言った通り、この映像は被告人一号にとって最大のトラウマです」
 士郎の異議を逆手に取り、清司は事務的に持論を展開していく。
「彼女にとって、便秘や下痢といった大腸のトラブルは何よりの恐怖となっているのです。だから持参した便秘薬を服用し、自然教室の期間中も規則正しい排便ができるように尽力したのでしょう。たとえ薬を用意したのが母親だったとしても、それを選んで服用したのは彼女の意思です。被告人一号は、心の傷から自らを守る方法を考え、それを実行するだけの思考力と行動力を持ち合わせている。私はそう考えます」
 そこまで言うと、清司は目で合図を送って映像を停止させた。スクリーンの中の祢々子は、ちょうどホースからの放水でお尻を洗われている最中であった。その醜態がようやく画面から消えて無くなる。
「被告人一号は決して天真爛漫な子供ではありません。傷つきやすい心を持った一人の立派な人間なのです。彼女は一人の人間として、自らの意思で男子女子戦争に参加し、多くの男子を血祭りに上げた。彼女がこの映像をトラウマとして抱え、苦しみ続ける事はその代償でありますが、だからと言って私は社会的制裁を鑑み、情状酌量の余地があるとは思いません。被告人一号に辱められた数多くの男子たちもまた、同じようなトラウマに苦しみ続けているのですから。そう、彼らの処罰感情は未だなお峻烈なのです! 彼女はまだ赦されてはいないのです!」
 静まり返った視聴覚ルームの中で、祢々子の泣き声だけが現実の音声として――、スピーカーではなく直接耳に届いてくる音声として、響き渡っていた。
「被告人一号は、その男子たちへの贖罪として、厳罰に処されるべきと考えます!」
 それに被さる清司の声は、どこまでもどこまでも……。
 氷のように冷え切っていた。
 最後に一言、付け加える。
「――以上で、検察官の質問を終わります」




 その後、本来ならば士郎の反対尋問が行われるはずだったのだが、結局それが続けられる状況ではなく、裁判は事実上終結してしまった。祢々子がいつまでも泣き止まなかったからだ。
 現実の裁判ならばここで後日仕切り直しとなるかもしれない。だが裁判ごっこであるこの軍事裁判で、そこまで被告人に配慮した進行がとられるはずも無かった。審理が尽くされたとして、礼門が強引に結審するだけの話だ。彼だけでなく士郎も清司も、クラスメイトの女子の涙に戸惑い、同情を抱くほど生ぬるい人間ではなかった。
 いや、むしろここまで祢々子を追い詰めてこそ、裁判を開いた意味があったとも言えるだろう。被告人の女子を徹底的に追い詰め、痛めつけ、屈服させる。傍聴人の雑魚男子たちが引いてしまうほど彼女らが泣き叫べば、この後彼らはあまり女子に対して無茶な事はしなくなるはずだ。
 いくら戦争に勝ったからといって、好き放題に女子を蹂躙したのでは、男子女子戦争の秘密も満足に守れない。雑魚男子たちには節度ある行動をとってもらわなくてはならなかった。だから生贄となった被告人の女子たちを完膚なきまでにいたぶり尽くすのだ。ここで手を抜く事は結局のところ、巡り巡って最後には女子たちを危険に晒す事になりかねない。
「それでは判決を言い渡す」
 木槌を叩き、礼門が仰々しく言い放った。
 いよいよ判決の時である。
 祢々子はこの期に及んでもまだべそをかいていた。おかげで被告人質問や論告求刑、最終弁論といった裁判の手続きは、ほとんど省略に近い形で進められている。さっきの清司の演説が、かろうじて論告求刑らしきものだったくらいだ。後はもう、裁判長が有罪か無罪かを言い渡すだけである。
 後ろ手に手錠をかけられている祢々子は、涙を拭う事もできない。幼いながらも端正な顔つきだった美少女の面影はもはやどこにもなく、惨めにも涙と涎と鼻水を垂れ流し、嗚咽を漏らす顎から様々な液体を滝のように滴らせていた。
 そんな彼女の顔を一瞥し、礼門が鼻で嗤う。
 まるで止めの一撃を加えるかのように、仰々しく判決を言い渡した。
「――被告人一号、暮井祢々子を有罪とする!」
 有罪。
 分かり切っていた事だが、やはり被告人の女子を無罪にするつもりなど毛頭なかったのだ。祢々子ですら有罪。ならば、彼女よりも主体的に行動し、男子軍と戦った桃香や姫乃がどんな判決を下されるのか? 考えるまでもない。全ては男子たちの決めたシナリオ通りに事が進んでいるだけなのである。
「被告人一号が羽生桃香の命令によって行動していた事実は軽視できず、その精神的な幼さも情状酌量の余地がある。しかしながら被告人一号の犯した男子に対する罪は看過しがたく、諸々の事情を考慮したとしても、厳罰をもって臨む他はないというのが被害男子たちの総意である」
 礼門が手元のカンペを流暢に読み上げていく。あんな書類が作ってあるという事は、裁判の進行の如何にかかわらず、女子を有罪にする結論は既に決定事項なのだろう。この軍事裁判において、女子たちは男子の掌の上で踊らされる存在に過ぎないのだ。
「よって被告人一号を、C級戦犯に指定する!」
 呆然となる雑魚女子たちを尻目に、雑魚男子たちは拍手喝采で礼門の言葉を讃えた。
「C級戦犯はいついかなる状況においても、男子の命令には絶対服従するものとする。拒否権は一切存在しない。ただし、その命令をA級戦犯又はB級戦犯に肩代わりさせる事は可能である」
 A級B級C級……という戦犯の分類は、第二次世界大戦の極東国際軍事裁判で使われたものが有名だ。ただし誤解されがちだが、これらのアルファベットは罪の重さを指し示しているものではない。単に罪の種類を示す記号というだけである。
 A級は『平和に対する罪』。
 B級は『通常の戦争犯罪』。
 C級は『人道に対する罪』。
 だからB級やC級の戦犯の罪が、A級戦犯のそれよりもずっと重い事も当然有り得た。元々はそういう意味なのだ。
「ではこれより、C級戦犯・暮井祢々子に対し、最初の命令を下す」
 ただし男子女子戦争ではもっとシンプルに、罪の重さのみを意味する言葉として使われている。C級よりもB級の方が悪質な犯罪者。B級よりもA級の方が許せぬ極悪人。より戦争に深く加担し、より男子を苦しめ、より償うべき十字架が重い方の人間が、より上の階級の戦犯に指定される事となるのだ。
「C級戦犯・暮井祢々子をメス犬の刑に処す」
「メ、メス……犬?」
「始めろ」
 メス犬の刑。一笑に付してしまいそうな、そんな名前の刑罰であるが、しかしいざ実行されたそれは、凄まじい屈辱を女子に強いる悪魔の刑罰であった。
 雑魚男子たちが持ってきたリード付きの首輪が、まずは祢々子の首に巻かれていく。恐らく桃香が自然教室に持ってきた物だろう。姫乃に使って深夜の散歩に連れ出そうと企んでいたのだが、返り討ちに遭って自分が使う羽目になった曰くつきのアイテムである。祢々子もこのリードを握り、すっぽんぽんに剥かれた桃香をあちこち引き回したものだ。あの時、「今度は祢々子が犬の役をやってあげる」とは言ったが、まさか半日と経たないうちにその言葉が現実のものとなるとは。何とも皮肉なものである。
 さらに雑魚男子たちは、2リットルのペットボトルに入った水も用意していた。祢々子に対し、中の水を飲めるだけ飲めと命令してくる。意図は見え見えだ。大量の水分を摂取させ、犬の姿のままオシッコさせるつもりに違いない。そんな事をしなくても昼食の時に水分は摂取しているので、程なく尿意に耐えきれなくなるはずだが……。
 胸よりもポッコリ膨らんでいたお腹をパンパンにして、祢々子はペットボトル半分ほどの水分を追加で摂取させられてしまう。どうせ抵抗したところで苦しみが長くなるだけだ。男子軍と戦う牙を完全にへし折られた今の祢々子に、もう男子の命令を拒否するなどという考えは、頭に思い浮かぶ事さえ無くなっていた。
「リードは俺が引こう。暮井、跪け」
 そう言って首輪につながる紐を握ったのは、よりによって清司であった。祢々子が二度に渡ってさんざん辱めた男子。これ以上ないほどの恥辱を与え、完全屈服させたその男子に、今度は自分が白旗を挙げて完全屈服しなければならない。以前あれほど見下していた清司の理不尽な命令に、祢々子は「はい」と素直に返事して従っていった。手錠を外されると、彼の足元で四つん這いになり、降伏の意思を示す。
「三回まわってワンと言え」
「はい」
「馬鹿か。返事はワンだ」
「……ワン」
 もうどうにでもなれだ。祢々子がお尻を高々と上げ、その場で三回まわり、馬鹿みたいに「ワン」と一回吠える。昨晩、桃香も忠一の命令で同じ醜態をクラス全員の前で披露していた。その姿を見ていた祢々子にとって、今の自分がどれほど惨めな様を晒しているのか、感覚的に理解できることが苦痛だった。
「チンチン」
「ワン」
 しゃがみ込むような姿勢で身体を起こし、両手を胸の前で寄せて舌を出す。さすがに清司は彼女めがけて放尿をするような真似はしなかったが、しかし祢々子自身がオシッコをする事はもう避けられそうになかった。昼食時にお茶を飲み過ぎたらしい。思いのほか早く尿意が高まってきている。
「俺の上履きを舐めろ」
「ワン」
 足元に這いつくばって清司の靴に舌を這わせる。そんな屈辱的行為も、下腹部の圧迫が気になって、幸か不幸か今の祢々子にはあまり現実感が伴わなかった。それに終盤の男子女子戦争では敵軍への攻撃が過激さを増す一方で、今さら上履き舐め程度ではそれほどハードな印象も残らないのだ。
 それは清司も分かっているのだろう。素直に上履きを舐め回す祢々子をつまらなさそうに見下ろしながら、清司はもっと面白い事は出来ないかと、周囲を見回した。被告人席のクマさんパンツが目に留まる。
「よし。今度はこれを拾ってこい」
 そのパンツを手に取ると、清司は男子たちのいる傍聴人席の方へと勢いよく放り投げた。雑魚男子の机と机の間にポトンとパンツが落ちる。
「ワン」
 リードが離されたのが合図だ。祢々子は本物の犬のように四つん這いで駆け出し、雑魚男子たちの間に割って入っていく。そして自分のパンツの前まで来ると、腰を折り曲げて顔を近づけ、口だけでパンツを咥え上げた。
 クロッチの内側が見えるように裏返されていたからか? 偶然にも祢々子が加えた部分は、まさにその股座の部分であった。自分自身の汗の匂いと体臭が鼻を衝き、オシッコの染みの味が舌に広がっていく。
 姿勢を起こして顔を上げると、周囲の男子たちの顔が一斉に目に飛び込んできた。全員祢々子に注目している。素っ裸の四つん這いになって、犬の首輪をつけて、放り投げられた自分自身の使用済みパンツを拾うために口で咥えている……そんな醜態の極みと言うべき哀れな有様を、みんな瞬きもせずに目に焼き付けていた。その向こうには、軽蔑と同情の視線を向けてくる雑魚女子たちの顔も垣間見える。
 尿意が限界に達しつつなかったら、きっと恥辱のあまり発狂していたかもしれなかった。――どのみち、忠一のカメラに記録されている以上、取り返しのつかない生き恥を晒している事に違いは無いのだが。
 四つん這いのまま向きを変え、清司の足元に駆け戻っていく。肛門や割れ目がクラスメイト達に丸見えになっている事さえ、もう今の祢々子にはどうでもいい事だった。早くパンツを渡して放尿の準備をしないと、いつ漏れてしまうか分からない状態なのだ。もしお漏らしなんてしてしまったら……それこそ口で後始末しろなんて言われかねない。
 自分からチンチンの姿勢になり、口で咥えたクマさんパンツを清司に差し出す。その表情に必死の媚びへつらいが透けて見えたのだろう。清司は汚物でも見るような目で祢々子を見下し、リードを拾い上げながらパンツを受け取った。彼女の身体にはうっすらと汗が滲み出している。
 清司が目配せすると、雑魚男子の一人が金バケツを持って近づいてきた。
「そろそろ出そうか? 次の裁判が控えているんでね。さっさと小便垂れ流せ」
 本心はどうか知らないが、少なくとも表面上は、あくまで清司は冷静沈着だった。自分を散々蹂躙した憎い女子に対し、思う存分復讐を果たしているという興奮はほとんど伝わってこない。女子に性的魅力を感じないのであればこんなものだろうか? 乳首も割れ目も肛門さえ丸出しにしてチンチンポーズをとっている祢々子の惨状も、清司にとっては大して興味のない姿なのかもしれない。
「片足を掲げてオシッコショーだ」
「……ワン」
 再び四つん這いになった祢々子は、膝を折った右足を高々と掲げ、犬のオシッコ姿を完全再現して見せた。まぁ正確に言えば足を上げて放尿するのはオス犬だけなのだが、この際野暮は言いっこ無しだ。
 今まで祢々子の無様なメス犬姿をやや離れて撮影していた忠一は、ここぞとばかりに彼女の背後に回り込み、膝をついて目一杯カメラをズームインしていく。カメラにつながっているスクリーンやモニターには、画面いっぱいに祢々子の割れ目と肛門とがハッキリと映し出されていた。
「すげぇ、暮井の奴、ほんとに毛が全然生えてないんだな」
「肛門の色も奇麗だなぁ。俺、あいつのケツ穴って初めて見たぜ」
「あ、俺も俺も。あのウンコ動画じゃよく見えなかったしさ。そうか、こうなってたんだな……」
 雑魚男子たちの遠慮のない批評が嫌でも耳に飛び込んでくる。祢々子は顔を真っ赤にして床に突っ伏した。お尻をさらに高く掲げるような格好になって、まるでわざと性器をカメラに見せつけているような有様である。
 祢々子は中枢メンバーの中では最初に戦死して裸を晒したが、実はそれ以降は一切男子の前では脱いでいなかった。そしてみどりがレイプされるより前の時期に脱がされたため、他の四人のように性器の中やお尻の穴まで暴かれる事も無かったのである。
 だが、それも今日までだ。
 さすがの暮井祢々子も年貢の納め時である。
 ウンチお漏らし姿を見られたクラスの男子たちにさえ、秘密にしていた肛門と性器の中身。その全てがいま、初公開されようとしていた。
「仕方がない。こんなグロい穴を触るのは御免だが、特別に俺が開いてやるよ。その方が出し易いだろ」
 あくまで嫌々やっているんだという様子で、清司が割れ目の両サイドに指を添える。恨み重なる女子の秘密の花園を、自分自身の手で暴いてやるのだ。いくら同性愛者だからといって興奮しないわけがない。サディスト冥利に尽きるシチュエーションに満足したのか、清司はほんの微かに口元を歪ませ、憎い女子を征服する悦びに笑みを浮かべた。
「あ……」
 いわゆる、くぱぁである。
 清司が指を左右に開くと、今まで身体の内側で守られていた部位に空気が触れていった。あまりのおぞましさに祢々子が悶え苦しむ。スクリーンに映し出された映像は、肌色一色から、サーモンピンク一色へと一瞬で変貌していた。
 透明な粘液を湛えた肉ヒダの隙間から顔をのぞかせるのは、オシッコの穴。物心ついてから誰にも見せた事ない秘密の穴が、デジタルハイビジョンのカメラで克明に記録されていく。
「やった! 僕、前から暮井さんのアソコ見たいと思ってたんだよね。やっと見れたよ」
「毛も生えてねぇからホントに丸出しだな。よーく見えるぜ」
「ツルペタの幼児体型でも、割れ目の中身はこんなに複雑な形してるんだねぇ。意外とエロいじゃないか」
 雑魚男子たちに褒められたところで嬉しくもなんともない。早く終わらせよう。そう思ったのか、祢々子は下腹部を弛緩させ、抑え込んでいた圧迫感を開放していった。
 ピュ、と雫が僅かに迸る。
 それが決壊の合図だ。間髪を入れず大量のオシッコが尿道口から噴き出していった。金バケツの中に飛び込んで激しい水音をかき鳴らしていく。清司が性器を左右に開いていたために、どの穴からどうやって小便が飛び出していくのか、少女の排尿の秘密が完全に暴かれてしまっていた。男子女子戦争に参加した女子軍十六人の中でも、ここまでハッキリと放尿姿を晒したのは、祢々子くらいなものだろう。とうとう男子に全てを見られてしまったのだ……。
 あまりの奔流の勢いに清司が思わず指を離す。大陰唇が元に戻ると、サーモンピンクの粘膜は顔を隠し、わずかに肉の綻びを見せる割れ目に戻っていった。これはこれで、祢々子の普段のオシッコ姿が想像できて興味深い。彼女はいつもトイレの個室で、こうやって割れ目を晒して黄色い液体を便器に垂れ流しているに違いない。
 やがてオシッコの勢いは失われていき、バケツに届かず床を汚していった。最後は太腿に沿って垂れ落ちていく。
「うう……」
 尿意から解放されると、入れ替わりに沸き起こってくるのは、羞恥と後悔の念だ。自然と涙が溢れ出してくる。
「もう……やだぁ」
 高々と掲げていた右足を下ろし床に突っ伏して泣き始めた。オシッコショーはもちろんだが、その前にも見せた様々な犬の芸――三回まわってワンとかチンチンとか、果ては投げられたパンツを咥えて戻ってきた姿を思い出し、今頃胸を焼くような羞恥に苦しんでいるのだ。
 だがいくら泣いたところで許されるわけではない。もはや祢々子は被告人ではなく、C級戦犯。男子の命令に逆らう事は許されないのだ。
「暮井、掃除しろ。せめてもの情けだ。手は使っていい」
 清司が雑巾を放り投げる。
 口で後始末しろとはさすがに言わなかった。祢々子はほんの少しだけ安堵したが、だからと言って救われるわけではない。バケツの周りに飛び散った自分のオシッコを、自分自身の手で奇麗にしなければならないのだから。股間と太腿をオシッコで濡らしたまま、祢々子は嗚咽と共に床を掃除していった。
 もっとも、手を使わせたのは情けだけが理由ではないようだ。それは礼門の次の言葉で察しがついた。
「……さぁ、そろそろ次の被告人の裁判を始めるぞ。時間がないんだ。早くしろ」
 全てのオシッコを拭き終わると、雑魚男子が雑巾とバケツを持ち去っていく。グズグズしていたら帰りのバスの時間になってしまう。まだ被告人は四人も残っているのだ。祢々子一人に時間を割き続けるわけにはいかなかった。それが手を使わせた理由なのだろう。
 首輪を外された祢々子は、ようやく四つん這いから解放された。しかし同時にまた後ろ手に手錠をかけられてしまう。裁判が終わったからといって特別扱いはされず、再び他の四人と同じ場所で、直立不動で待機させられるわけだ。全員の裁判が終わるまで、座る事はもちろん、オールヌードの身体を隠す事さえ許されない。
 祢々子がもう一度全裸で立たされる。裁判開始前との違いは、股間と太腿がオシッコで汚れている事と、全身から噴き出した汗、そして涙と鼻水と涎でグショグショになった顔だ。奇麗な身体の他の四人と並ぶ事で、より一層惨めさが増していた。
 ――とはいえ、他の四人もすぐに同じような姿になるのだが。
「続いて被告人二号の裁判を開始する」
 礼門の声が響く。
「被告人二号、宇崎みどり! 出廷せよ」
 次の犠牲者の名前が読み上げられていった。
 
 
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