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第十四話 『魔女狩り』

2014-11-14

 桃香の公開処刑の瞬間は、もうすぐそこまで迫っていた。
 宿直室の中では、虹輝と士郎と耶美が電気ショックから回復し、既に立ち上がっている。姫乃もシャツとショートパンツを元通り着込んでいた。彼ら四人と、忠一を合わせた五人は、卓袱台を片づけて押し入れの中のビニールシートを広げ始めた。その上からさらに新聞紙を重ね合わせる。
 これが桃香の処刑台だ。
「あの……姫乃さん。本気なの? 本気で、ここで、その……羽生さんを……」
「もちろんよ」
 冷然と答える姫乃の表情には、いつもの優しさは欠片も残っていなかった。あの虹輝ですら息を呑むほどだ。困惑した桃香が、助けを求めるように士郎に視線を送るが……彼は肩をすくめるだけで、何も意見しようとはしなかった。
 結局士郎にとって、桃香はただの幼馴染みでしかなかったのだろうか。星空観察の時の告白は、姫乃にそそのかされた偽の告白だったのだろうか。桃香にはもう何も分からなくなっていた。
「さぁ桃香、お待たせ。あなたの処刑台が完成したわ」
 普段の姫乃からは想像もつかないセリフが、彼女の口から淀みなく言い放たれる。耶美と協力して、部屋の隅に転がされていた桃香の身体を、新聞紙の上まで移動させていった。桃香は既に手首だけでなく、足首までも玩具の手錠で拘束されている。スタンガンの痺れは抜けてきたが、その抵抗は弱々しかった。
「ひ、姫乃……あの……」
 彼女の表情には明らかに狼狽の色が浮かんでいる。
「な、何をするつもりなの? クラスのみんなをメールで呼んだりして……」
「決まっているじゃない。私が負けた時に、あなたが私にしようと考えていた事……その全てよ」
 もはや桃香の敗北は決定的だった。ただ一つ残ったスタンガンは姫乃の手に落ち、自身は手錠で拘束済み。密室状態の宿直室の中にいるのは全員桃香の敵である。正確には忠一だけは桃香の味方だが、彼女を助けるつもりは毛頭ないのだから敵も同じだ。
 姫乃からのメールを受け取ったクラスメイトたちが駆けつけ、扉の鍵が開け放たれた時。その時が、処刑執行の合図となるだろう。
 桃香は必死に姫乃に呼びかけ続けた。
「聞いて姫乃、あたしは……」
 ドンドン! とドアを乱暴にノックする音が響く。桃香がビクンと身体を震わせた。
「おーい、誰かいないのかぁ? 白鷺さーん?」
「おい馬鹿、静かにしろよ。先生に見つかったらどうするつもりだ?」
「けどよぉ。どっちみち廊下を出歩いてるとこ見られたらアウトだろ? 誰かいるんなら早いとこ鍵、開けてくれーっ」
 早速男子たちが数人、駆けつけてきたようだ。桃香の顔がみるみる青褪めていく。こんな姿を男子に見られたらもうお終いだ。まだ服は全く脱がされていないが、両手両足を拘束され、畳の上に転がされ、あまつさえビニールシートと新聞紙でお膳立てが済まされているとあれば……。男子たちが桃香に何をするのか、想像するまでもない。どうぞ、おしっこや精液でたっぷりと汚して下さいと言っているようなものではないか。
「お、お願い姫乃!」
 もうなりふり構っていられなかった。どんな屈辱を味わっても、被害を最小限に食い止めるしか方法は無い。姫乃に頭を下げるのは死にも等しい恥辱であるが、男子全員に輪姦される辱めに比べればまだ受忍できる屈辱であった。取り返しのつかない恥だけは、晒すわけにはいかないのだ。
「あたしの負けよ姫乃……。い、潔く負けを認めるわ。あなたの……奴隷になってもいい。もちろん裸の写真もいくらでも撮ってちょうだい。でも男子にだけは……。お願い、男子にだけは、見られたくないの。無理矢理エッチさせられるなんて……そ、そんなのあたし耐えられない……」
 姫乃の隣には耶美もいる。自分が耶美にしてきた行いを振り返れば、こんな哀願が通じるはずもないだろう。だが姫乃がもし温情をかけると決断すれば。耶美はそれに関して決して不満は漏らさない。それも事実だった。万に一つの可能性に賭けるしか、今の桃香にできる事は無いのだ。
「お、同じ女の子でしょ? 分かってくれるわよね、この気持ち……」
 口元に無理矢理笑みを形作りながら、かつての宿敵に媚びへつらう。プライドを守って辱めを受け入れる事も勇敢な行動だろうが、一縷の望みに賭けてプライドを捨てる事もまた、勇敢な行動なのだ。クラス全員に恥を晒さなければ、まだ逆転のチャンスはあった。どうにかして裸の写真を奪い返して、逆に姫乃を倒せば……。
 ――いや、止めよう。
そんな妄想は虚しいだけだ。
 桃香にだって本当は分かっていた。いくら姫乃が優しい少女だからと言って、親友の耶美をあそこまで傷つけた桃香に、一片の温情すらかけるつもりはないという事を。こんな無様な命乞いをしたところで、恥の上塗りをするだけだという事を。
 それでも桃香は懇願せずにはいられなかった。今まで桃香が倒してきた、数々の男子がそうであったように。無駄と分かっていても許しを乞うしかなかったのだ。人間の心とは、かくも脆いものなのか。同じ立場に立たされて、ようやく桃香にも彼らの気持ちを理解する事ができた。
「そうね。桃香も私と同じ、女の子だものね」
 姫乃が答える。だがその表情には何らの労りの影もない。あるのは、ただ一つ……心の底から軽蔑の念を放つ、見下した表情だけだった。
「だけど、私だけじゃないわ。みどりも、耶美も、あなたと同じ女の子だったのよ。その二人に、あなたがどんな仕打ちをしたか、忘れたわけじゃないでしょうね」
「あ、あの……それは……」
「今さら自分だけ助かろうなんて、虫が良すぎるわ」
 姫乃はゆっくりと出入り口の扉に向かっていった。ドアの向こうから感じられる人の気配は、どんどん膨れ上がっている。鍵を開けたら最後、一気に室内になだれ込んでくる事は火を見るよりも明らかだ。
 耶美はもちろん、虹輝も、士郎も、忠一も。誰一人として、姫乃の行動を咎める者はいなかった。みんな知っているからだ。桃香の悪行の数々を。それに対して、姫乃が心底怒りを覚えている事を。
「やめ……姫乃!」
 桃香の最後の叫びも、もちろん通じない。
「――地獄に堕ちればいいんだわ」
 カチャリと、姫乃は扉の鍵を開けた。
 まさに今――。
 地獄の門が、開け放たれたのだ。




「やっと開いた……って、うわ? 羽生さん?」
「やっべ、マジでメールの画像通りじゃん?」
「なになに? 白鷺さん、羽生さんを戦死させちゃったわけ?」
 室内に男子たちが一斉に足を踏み入れる。男子だけでなく、女子の姿もちらほら確認できた。怖いもの見たさという奴か。五年二組のほとんどの生徒が駆けつけたらしく、宿直室の中はあっという間にすし詰めの満員電車状態になっていった。
「ハハハ、すげぇ! 桃香の奴、両手両足繋がれてやんの!」
「あれだけ偉そうにしてたくせに、ププ、何このみっともない姿」
「バーカ、これからもっとみっともない姿になるんだろ?」
 桃香は女子軍リーダーとして、或いは切り込み隊長として、多くの男子を血祭りに上げてきた。彼女にパンツを脱がされ、笑われながらおちんちん画像を撮影された男子の数は、両手の指では足りないくらいなのだ。彼らがこうして桃香に復讐する瞬間をどれほど待ち望んだ事か。女子軍最強とも思えた無敵の少女の哀れななれの果てに、取り囲む男子たちは気勢を上げて盛り上がった。
「なーんだ、でかい口叩いてた割に、姫乃に負けちゃってんじゃん」
「ざまぁないわね。あいつのせいであたしらも戦争に巻き込まれたんだから」
「てか何で服着てんの? さっさとひん剥いちゃえばいいのに」
 桃香のリーダーシップに引っ張られてきた女子たちの中にも、彼女を恨んでいる者は大勢いた。元々士郎派と桃香派の戦いに過ぎなかった男子女子戦争を、無差別攻撃でクラス全土に戦火を広げたのは間違いなく桃香である。そのために戦いに巻き込まれ、男子軍に脱がされた女子が、彼女を許すはずもなかった。
 しかし男子も女子も、転がされた桃香を取り囲んで見下ろしてはいるが、率先して彼女の服を脱がしたり、身体に触ったりする者はいなかった。誰だって最初の一人になって注目されるのは嫌なものだ。
 それに女子の中には、心底桃香を信奉している者も少数派ながら存在している。耶美が姫乃の指示で利敵行為を働いていたと暴かれたため、姫乃に愛想をつかした連中だ。女子軍も残り二人。生き残っているのは姫乃と桃香だけであった。桃香を見捨てるという事は、自動的に姫乃を選ぶ事になってしまう。そこに戸惑いを覚える女子は意外と多いのだ。
「ね、ねぇ……誰か助けて!」
 桃香は最後の希望とばかりに、そんな女子たちに声をかけた。
「あたしが戦死したら、女子軍の生存メンバーは姫乃だけになっちゃうわ? それでもいいの? あの子は平気で仲間を見捨てるような奴なのよ! 姫乃のせいで、みどりや祢々子がどれだけ恥ずかしい目に遭った事か……」
 ついさっきはその姫乃に命乞いをしていたくせに、桃香は平然と彼女を罵っている。一体どれだけ見下げ果てた人間なのか。虹輝は呆れる他なかった。それでも彼女の身勝手な演説は止まらない。
「あたしは、別に裸にされたって構わないわ。でも姫乃みたいな人間が女子軍最後の生き残りになったら、仮に戦争に勝っても五年二組の未来は暗黒よ! あたしは女子のみんなのために、何としても生き残らなくちゃいけないの! だからお願い、あたしに力を貸して! みんなの未来を守らせて!」
 もしこの演説が続けば、ひょっとしたら心を動かされる女子が出てくるかもしれなかった。確かに、桃香の口八丁手八丁は大したものである。姫乃が女子軍で失脚しているという事実は重い。けれども、敗北して平常心を失っている彼女は、それが自分の首を一層絞め上げている事に全く気付いていなかった。
 姫乃がポケットの中に入れていたICレコーダーを取り出す。和平会談の内容を録音しようと、卓袱台の上に置いたものだ。桃香の処刑台を作る時に回収して一度停止ボタンを押してあった。ボリュームを最大にして再生する。録音データの音声が、スピーカーから流れ出していった。
『あたしの負けよ姫乃……。い、潔く負けを認めるわ。あなたの……奴隷になってもいい。もちろん裸の写真もいくらでも撮ってちょうだい。でも男子にだけは……。お願い、男子にだけは、見られたくないの。無理矢理エッチさせられるなんて……そ、そんなのあたし耐えられない……』
 宿直室に響くのは、間違いなく桃香の声。姫乃は自分が女子軍を追放された立場である事を忘れてはいなかった。桃香がそこを利用して悪あがきをする事を見越していたのだ。ICレコーダーに録音された自分自身の音声で、呆気なく桃香の二枚舌はクラス全員に暴かれてしまった。
「――全く、相変わらずの腹黒女ね」
 みどりが心の底から軽蔑した声を上げた。
「姫乃を悪者にして自分だけは助かろうって魂胆だろうけど、あんただって相当な悪女じゃないの」
「み、みどり……」
「そうそう。姫乃ちゃんは耶美ちゃんをスパイにして使ってたけど、桃香ちゃんだって馬鹿ネズミさんをスパイに使ってたじゃん。女子のみんなを捨て駒にしてたくらいだし……おあいこだよ」
 合の手を入れたのは祢々子だ。桃香の立場を決定的に悪くする、最大のアキレス腱をあっさりと暴露してしまった。わざとなのか天然なのかが分からないのが祢々子の怖い所だ。ともあれ、宿直室に詰めかけた女子たちの間に、ひそひそ話が広がっていった。
「スパイって……どういう事?」
「捨て駒って……」
「あたしたちが男子に裸の写真撮られたのって、桃香のせいなの?」
 すかさず反論する桃香。
「い、いい加減なこと言わないで! あたしが馬鹿ネズミを奴隷にしたのは、プール開きの時からよ! あの頃にはもう、女子のほとんどは戦死していたでしょ! 誰を捨て駒にしたっていうのよ!」
 弁解すればするほど立場が悪くなっていく。理解していても、桃香は自己保身を止める事ができないようだ。潔く負けを認められないらしい。
「へぇ。今度は私たちが嘘つきだって言いたいわけ?」
 みどりは桃香のショートパンツに手を伸ばし、そのポケットからスマートフォンを取り出した。画像アプリを起動し、保存されている写真を表示していく。
「ほら、この写真。馬鹿ネズミのすっぽんぽん写真だけど、撮影日時は四月よ。おかしいじゃない。こいつはプール開きの頃に奴隷にしたんじゃないの?」
「あ、ホントだー。これは決定的な証拠だね!」
「はん、バッカじゃないの! そんなの、日付設定をミスっただけよ! データの数字なんていくらでも変えられるし……。あたしが嘘ついているって言うんなら、正真正銘の決定的証拠を出してみなさいよ!」
 桃香も負けてはいなかった。この状況で、忠一をスパイとして開戦初期からこき使っていたなんて事が知られれば……数少ない味方の雑魚女子からも、桃香は見放されてしまう。それだけは避けたいらしかった。
「あらそう。決定的証拠があれば認めるのね」
 声を返したのは――、みどりでも祢々子でもなく、耶美であった。部屋にいた全員の視線が彼女に注がれる。耶美はジーンズのポケットからICレコーダーを取り出し、そっと再生ボタンを押していった。
 これは姫乃が使っていたICレコーダーとは別の個体だ。虹輝は知らなかったが、士郎もICレコーダーを使って祢々子に切り崩し工作を仕掛けたりしていた。みんなでお金を出し合って、同じ製品を複数購入したのかもしれない。
『心配には及びません。恐らく桃香様がそのような命令をするだろうと思って、少し前からトイレを我慢していましたから』
 スピーカーから耶美の声が響く。
 何だろう……この会話は?
『さすが耶美ね。優秀な犬だわ』
 続いて流れるのは桃香の声。という事は、耶美が桃香の奴隷として恭順していた時の会話なのだろう。結局それは演技だったが、どうして耶美がそんな行動を取ったのか、虹輝は未だにその理由を知らなかった。
 だが、それはすぐに明らかになる。
『でも……いいんですか? 根墨忠一は開戦初期から桃香様の奴隷として、男子軍の情報を横流ししていたスパイでしょう? 多数の雑魚女子を捨て駒にするのと引き換えに中枢まで送り込まれ、桃香様のために身を粉にして働いてきたというのに……この仕打ちはあまりに過酷ではないでしょうか』
 畳の上に転がっている桃香の顔が、見る見る青褪めていった。この後、自分が何を言ったのか、思い出したのかもしれない。そしてそれは、彼女自身が言っていた『正真正銘の決定的証拠』以外の何物でもなかった。
『いいのよ。スパイだってバレた時点でもう馬鹿ネズミに利用価値なんてないもの。他の雑魚女子と同じ。所詮は使い捨てのコマに過ぎないわ』
 人いきれのために蒸し暑かった宿直室の室温が、確実に二度ほど低くなった……気がした。耶美が無表情のまま停止ボタンを押す。
 誰も、何も言わなかった。言わなくても、桃香を見下ろす女子たちの視線は、氷のように冷たくなっている。それだけで十分なのだ。
「い、いや……違……。これは、その……」
 ICレコーダーをポケットに戻しながら、耶美が淡々と呟く。
「男子女子戦争では普通、相手を辱める時はカメラで撮影するわ。でもあの時は誰も撮影をしていなかった。油断したわね。私はあなたの失言を記録するために、あなたの奴隷になったのよ。まさか初日に早速口を滑らせてくれるとは思わなかったけど」
「最初から……それだけが目的で……」
「根墨の話題を急に振ったのは不自然だったかしら? あなたが勝手に勘違いしてくれたのはラッキーだった。根墨が奴隷としての立場を失って、あなたを裏切るように私があてつけている……なんてね」
 虹輝は息を呑んだ。細かい事情はよく分からないが、耶美が奴隷の振りをしたのは、桃香が忠一をスパイとしてこき使い、雑魚女子を捨て駒として使い潰していた……その事実を、彼女自身の失言で証明するためだった。それは間違いないようだ。そして偶然にも、奴隷として屈服した初日に、隠し持っていたICレコーダーでその失言を録音する事ができた。もし服を全て脱がされたりしていたら、その日は録音の機会が無かっただろう。
 最も驚嘆すべきはそこかもしれない。
 耶美は奴隷になった初日に目的を果たしたのだ。それなのに、今日の昼間姫乃を助ける時まで、ずっと奴隷を演じ続けてきた。それはもちろん、桃香サイドに留まって、敵の立場から姫乃をサポートするという目的もあったと思われる。
 だが一番の理由は、失言を記録するという最大の目的をカムフラージュするため。今日この瞬間まで、桃香に悟られないため。たったそれだけのために、耶美は奴隷として数々の屈辱的な行為をこなし、桃香のために働き、果てはレイプによって処女まで失ったのだ。
「私はあなたに負けたわ。でも、その事を悔やんではいない。これは戦争だものね。あなたの方が私よりも一枚上手だっただけの事。クラスのみんなの前で裸にされた事も、オナニーショーをやらされた事も、下着を回覧された事も土下座させられた事も、姫乃が好きだったことをバラされた事も、別に気にしてない」
 気にしてない、はずもないだろうが……それは些細な事だと耶美は言いたいらしかった。
「でも、姫乃の失脚の片棒を担がされた事だけは別よ。あれだけは絶対に許さない。私のために……私の心が弱かったために、姫乃は女子軍での立場を失ってしまった。だから私は、何が何でもあんたの悪行を暴いて、同じようにあんたを失脚させてやろうと誓ったの。その為ならレイプで処女を失っても構わなかったわ」
 耶美の言葉には鬼気迫るものがあった。事実、彼女は昼間、礼門にレイプされて処女を失っている。その痛みは想像以上のものであったが、覚悟だけはとっくに済ませていたのだ。みどりに対する負い目も含めて、むしろ進んで犠牲になるつもりだった。姫乃失脚の手助けをしてしまった自分は、もはや姫乃を好きだと思う事さえ許されない。だからせめて、桃香を同じように失言で失脚させて、罪滅ぼしだけはしたかった……そういう事か。
 もう桃香は言葉を発しなかった。これ以上、何を言っても自分の首を絞めるだけだと、ようやく悟ったのだ。祢々子の諜報、みどりの支援、姫乃の知略……そして耶美の捨て身の裏切りが、ついに桃香を陥落させた。どれ一つ欠けても彼女を倒す事は不可能だっただろう。
 もはや桃香が五年二組で再び権力を振るう事は、永遠に無い。
「反論があるならどうぞ? ……みんなも、意見があれば言ってちょうだい。姫乃よりも桃香の方が女子軍のリーダーに相応しいって、今でも思っているなら、擁護してあげればいいわ」
 耶美の声に応える女子は一人もいない。代わりに響くのは、小さな陰口だけだった。
「……サイテー」
「何よあいつ」
「嘘ばっかりついて」
「雑魚で悪かったわね」
 桃香はまだ服を脱がされていない。正式に戦死したわけではなかった。けれども、今から彼女が逆転する可能性は、ゼロ。コンマ一パーセントも残っていなかった。
 これでもう、羽生桃香は終わりだ。
「――いやぁ、お見事お見事」
 沈黙を破ったのは、礼門の野太い声だった。
「驚いたねぇ、甲守がそこまで考えて奴隷になってたなんて。白鷺の奴が必ず羽生に勝つだろうから、とどめの一撃のために失言を記録しておいたってわけか」
「勝つかどうかは分からなかったけど、私が犠牲になってでも、必ず勝たせるつもりだった。それだけよ」
「そうかい。ま、後は俺たち男子に任せな。お前と同じように、これから羽生をたっぷり可愛がってやるからよ」
「……虫唾が走るわね」
 耶美は憎しみの籠った目で礼門を睨み付けた。それはそうだろう。敵の敵だからといって、素直に味方になれるわけでもない。むしろ逆だ。礼門は耶美にとって……そして姫乃にとって、最も憎むべき敵。彼が今から桃香にしようと考えている事は、本来であれば許されざる行為であった。
 それでも彼女は黙認している。
 耶美やみどりを凌辱するよう仕向けたのは、他ならぬ桃香だった。自分を辱めた元凶に情けを与えるほど、耶美は聖女でも善人でもないという事だ。転がっている桃香の元から離れ、壁際の姫乃の傍に移動していった。
「……さて、と。それじゃあここからはお楽しみタイムといきましょうか、桃香様?」
 礼門がしゃがみ込んで彼女の顔を覗き込む。桃香は顔を背けるが、既に周囲は全て男子に取り囲まれていた。どこを向いても男子の姿しか見えない。彼らは全て、桃香が率先して脱がし、辱めた連中だった。憎悪と好色の入り混じった視線で、ニヤニヤと無抵抗の獲物を見下ろしている。
「桃香様、まずはすっぽんぽんの丸裸になってもらうぜ? よろしいですかな?」
「好きに……すればいいでしょ」
 余計な知恵をつけた礼門は、乱暴に脱がしたりせず、『桃香様』などと呼んでいちいち許可を取っていた。それが彼女にとって、より屈辱である事を知った上での行動だ。桃香にそのつもりはなかったのだが、共に行動するうちに、彼は桃香の陰湿なやり口を確実に学び、吸収していた。皮肉にも今から桃香自身が、その陰湿なやり口でいたぶられる事になる。
「まずは手錠を外さねぇといけねぇが……暴れられても困るしな。おい白鷺! スタンガン貸してくれよ。こいつを静かにさせてぇんだ!」
 礼門が叫ぶ。
 だが、さすがにこんな稚拙な引っ掛けに騙される姫乃ではなかった。
「駄目よ。こんな物騒な武器、あなたに渡したらその瞬間、私が襲われるに決まっている。どうせ桃香はもう抵抗できないんだから、先に私を犯す方が効率的だものね。その手には乗らないわ」
「……チッ。どさくさに紛れて白鷺の奴もヤッちまおうって思ってたのに。つくづく抜け目のねぇ奴だぜ」
 不満げだったが、とりあえず礼門は桃香凌辱に集中する。手錠を外し、周りの男子たちに両腕をそれぞれ拘束させた。桃香の抵抗は弱々しい。万歳の恰好にさせれば、Tシャツを抜き取るのは造作もなかった。
「桃香様のブラジャー、御開帳だぜ!」
 あっという間に、ローズピンクのブラが電灯の光に照らし出された。同じピンクの下着でも、姫乃とは全くイメージが異なっている。姫乃のブラは、淡いピンクにコットン地で、カップにワイヤーも入っていなかった。派手な装飾の無い、シンプルで清潔感のあるブラジャーだ。
 対して桃香のブラは、濃い目のピンク。光沢のある生地全体に花柄が入っていて、ワイヤー入りの大きなカップが、十分に膨らんだ乳房を覆っていた。レースの装飾の華美さなどは、大人用のブラジャーに引けを取らない。
「すげぇ……胸の谷間、バッチリだぜ?」
「宇崎よりは小さいけど……こんだけあれば十分だな」
「俺、一度パイズリってやってみたかったんだよなぁ。できるかなぁ?」
 身勝手な男子たちの品評にも、桃香は無視を決め込んでいる。礼門は構わず、足首の手錠を外してショートパンツも抜き取るよう、男子たちに指示を下した。
 宿直室の中は身動きが取れないほど人が一杯で、その体温のためにかなりの蒸し暑さになっていた。男子たちは汗を浮かべながら、しかし瞬き一つせずに、一枚ずつ脱がされていく桃香の痴態をじっと観察している。
 数人の例外を除いて、だが。
 その一人……虹輝は、人込みをかき分けて壁際の姫乃の元へと歩み寄っていた。
「姫乃さん!」
 血相を変えて詰め寄る虹輝を、姫乃は小さく一瞥する。
「あら虹輝くん。どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないよ……何でこんな事をするの?」
「何で? 不思議な事を言うのね。桃香は戦死したのよ。男子軍に辱められるのは当然でしょう?」
「だったら裸の写真を撮るだけでいいじゃないか! このままだと、宇崎さんや甲守さんみたいに……」
「レイプされるでしょうね。だから?」
「だから、って……」
 虹輝は困惑していた。これがあの、優しくて温和な姫乃の言葉なのだろうか。いくら桃香を恨んでいるからと言って、平然と凌辱の生贄に差し出せるほど、彼女は冷酷だったのだろうか。虹輝には分からなくなっていた。何か考えがあっての事、だと思いたいのだが……。
 そんな虹輝を、耶美が蔑んだ視線で睨む。
「またいつもの風見鶏の病気?」
「え……」
「あなたいつまでそうやって周りの顔色を窺って行動すれば気が済むの? 桃香を助けたかったなら、姫乃が扉の鍵を開ける前に止めれば良かったのよ。みんなが止めなかったから僕も止めなかった。そのくせ、実際に凌辱が始まると怖くなって、自分は止めようとしたって予防線を張りたがる。今からでも遅くは無いわ。自分一人で助けに入ればいいじゃない。クラスの全員を敵に回してでもね」
「それは……。そんな事……」
「行動を起こす勇気もないくせに、口先だけで綺麗事を言わないで。迷惑なのよ。私は桃香の事も嫌いだけど……犬飼くん。昼間も言った通り、あなたの事も同じくらい嫌いよ」
「こ、甲守さん……」
 耶美は自分の信念に基づいて、実際に行動を起こした。どれだけの屈辱を味わってでも、目的を果たすために耐え抜いた。そんな彼女の言葉は、上辺だけの虹輝の言葉より遥かに重く、心に響くのだ。
 反論もできない虹輝に、姫乃が言葉を継ぐ。
「耶美の言う通りよ。虹輝くん、私は自分の信念のために、今の桃香の状況を見過ごしているの。決して、一時の感情に支配されて行動しているわけじゃない」
「で、でも……」
「あなたの信念は何? あなたは、何のために男子女子戦争を戦っているの?」
 信念……?
 そんな事、考えた事も無かった。虹輝はただ、生き残るために必死に戦っていた。祢々子を罠に嵌めた頃は、女子を脱がす事に興奮するなんて思っていたが……ここまで戦争が苛烈になった今では、そんな悦びも皆無である。
 ただ自分は……。
 自分は……。
「ぼ、僕は」
 小さな声で虹輝が呟いた。
「僕は、ただ……みんなが仲良くなれればいいなって。だって、僕が転校してきた時はもう、男子女子戦争は佳境だった。僕は一度も、このクラスが仲良しだった頃を見てないんだ。いつも男子と女子とで仲違いしていたから……。男子も、女子も、みんなが仲良くできればいいって……そう思ってる。それって、そんなに変な事なのかな?」
 その言葉に、姫乃は少し、驚いたような顔をした。耶美は相変わらず無表情だったが、その顔からは心なしか軽蔑の色が薄くなった気がする。
 けれども、二人ともすぐに厳しい顔つきに戻ってしまった。
「――甘いわね、虹輝くん。今は戦時中なのよ。戦争の最中は戦争に集中するべき。青臭い理想論は、平和な時に言うべきだわ」
「そう。戦争なんて可能な限りするものじゃない。どうしてもする必要があるなら、できるだけ短期間に終わらせる。だから私たちは、一日でも早く戦争を終わらせるために、必死に戦っているのよ。それを邪魔するというのなら、犬飼くんでも容赦はしない」
 虹輝はうなだれた。耶美はまだしも、姫乃でさえそんな事を言うなんて。いや当たり前なのだ。桃香が戦死すれば、生き残っているのは虹輝と姫乃の二人だけ。どちらかが戦死すれば、戦争はすぐに終わる。甘っちょろい理想論など語る必要は一切なかった。
 でも。
 だからこそ。
「戦時中だから……。戦時中だからこそ、理想論を言わなくちゃいけなんじゃないの? 僕は、自分が間違ってるなんて、思ってない」
 その言葉に姫乃は答えなかった。代わりに耶美が進言する。
「だったら今すぐ桃香を助けてあげたら? そうね、一人で行動するのが怖いって言うんなら、明石くんあたりを誘ってみなさいよ。桃香の幼馴染みならもしかすると、情けをかけてくれるかもしれないわ。こうしている間にもどんどん桃香は脱がされていくのよ?」
 桃香を取り囲んでいた男子たちが、歓声を上げる。彼女が身に着けていたショートパンツが宙を舞い、天井にぶつかって落下していった。ついに下着姿にされてしまったのだ。時間が無い。虹輝は言われた通り、士郎の姿を探して、再び人込みの中を進み始めた。
 ショートパンツを脱がされて露わになった桃香のショーツは、サイド部分が紐のように細くなっている、実に大胆なデザインだった。色はブラとお揃いのローズピンク。レースの装飾も同じく華美だが、お尻を覆う生地は少なく、Tバックのように食い込んでいる。桃香を拘束している男子たちが身体を横向きにすると、お尻の形が丸分かりだった。
「やったぜ! とうとう桃香の奴を下着姿にしてやったぞ!」
「大人っぽいパンツ履いてるんだなぁ。五年生のパンツじゃないだろ、これ」
「もうちょっと可愛いパンツの方が興奮するよねぇ」
 あの恐るべき女子軍のエースだった桃香が、今やブラとショーツ、ソックスだけの姿で男子の見世物になっている。幾度となく彼女に苦汁を舐めさせられた男子たちにとって、それは胸のすく光景だった。
「さぁ桃香様。次はいよいよブラを脱いでもらいますよ? おっぱい丸出しにさせて頂きますが、よろしいでしょうか?」
 慇懃無礼な礼門の態度は相変わらずだ。耐えきれなくなった桃香は、ついに感情を爆発させた。
「うるさいわね、どうせ嫌だって言っても脱がすんでしょ! 馬鹿言ってないでさっさと裸にすればいいじゃない!」
「そうはいきませんな。なんせ俺は桃香様の駒としてさんざんこき使われた身分。畏れ多くてとてもとても、桃香様の許可なしに脱がす事なんでできませんよ?」
「馬鹿! 死ね! なんであんたなんかに……」
「ま、女の分際で男に勝てると思い上がった、自分の浅はかさを悔やむんですなぁ」
 桃香は雑魚男子たちの手によって、両手両足を広げた大の字の恰好で新聞紙の上に押さえつけられている。礼門が脇の下から背中に手を廻し、ブラのホックを外しても、どうする事もできなかった。顔を背ける事だけが唯一の抵抗である。
「ほーらホックが外れましたぞ? 後はカップをずらせば、おっぱい丸見え。どうです? 泣いて謝るなら脱がさずに見逃してやらん事もないですぞ、桃香様?」
「キモい喋り方すんな! 絶対脱がすつもりのくせに!」
「よく分かってらっしゃる。ま、桃香様の得意な、陰湿にいたぶるやり口を真似させてもらってるだけですからなぁ」
 勝ち誇った顔で、礼門はゆっくりとブラのカップを押し上げていった。男子の前でストリップさせられるのも屈辱だろうが、男子の手で脱がされるのはもっと屈辱である。自分のペースで脱ぐことができず、一方的に好き勝手に脱がされる。それは女の子にとって耐えがたい恥辱であった。
 そして、ついに。
「うわっ、これが……」
「すっげぇ……丸見え」
「結構大きいな……」
 桃香のおっぱいが、白日の下に曝け出された。
 みどりに劣るとはいえ、その大きさは五年生の平均以上。乳首も十分発育し、やや大きめの乳輪の中央で、桜色の突起が激しく自己主張していた。色白のためか、かなり綺麗な乳首の色である。
「ほう、何だかんだ言って乳首が立ってらっしゃる。桃香様は見られて興奮するタイプでしたか」
「うるさい……死ね、馬鹿ゴリラ……」
 反論するも、乳首すら公開されてしまった桃香の精神ダメージは、本人の予想以上であった。早くも声が弱々しくなっている。おっぱい一つ見られるだけで、ここまで女子は鼻っ柱をへし折られてしまうものなのか。腕を抑えていた男子たちと協力し、礼門がブラを腕から抜き取っても、桃香はほとんど抵抗しなかった。
「マジかよ……あの羽生がパンツ一丁だぜ?」
「てか、女子のパンツ一丁なんてありえないし」
「だよな、低学年なら分かるけどさ」
 こうなると逆に、大人っぽいデザインのショーツが惨めであった。クラスメイトの目の前でパンツ一丁にひん剥かれ、両手両足を大の字に固定され、勝ち誇った顔で見下ろされる。もっと子供っぽいパンツなら、まだマシに見えただろう。女の色香すら感じさせる大人びたショーツで、こんな間抜けな格好をとらされ、見世物に成り下がるのは……背伸びをしたがる思春期の少女として、耐えられるものではない。
「ダッサ、何あの格好」
「チョー恥ずかしいんですけど」
「あたしだったらあんなの耐えられない」
 今まで散々威張り散らしていた桃香の醜態に、女子もひそひそ声で笑い合った。桃香が戦死すれば、女子軍の生き残りはあと一人。しかし彼女らに切迫感は全く見られない。姫乃なら確実に、そして造作もなく虹輝を倒してくれるだろうと安心しているのだ。リラックスした雰囲気で、いけ好かなかった強気の美少女の敗北の姿を嘲笑している。
 そんな仕打ちを受けてもなお、桃香が泣かなかったのは、彼女のプライドゆえだろう。耶美だって素っ裸にされても気丈に泣かなかったのだ。たかがパンツ一枚にされたくらいで泣いてたまるかと、桃香は思っているらしかった。
「あーあ、桃香。とうとうあんたもパンツ一丁ね。かっこ悪―い」
「いいじゃん、これでパンツも脱がされたら、桃香ちゃんも祢々子たちと同じだよ」
 やっと仲間になれるね、みたいなニュアンスで、祢々子はケラケラと笑った。みどりが愉快そうに続ける。
「さっき耶美から聞いたわよ? 『男子も見ている前でアソコ丸出しなんて、女の子としてもう終わりよね』なんて言ってたんだって? 『あたしだったら舌噛み切って死んじゃうわ』とか偉そうにほざいてたとか」
「へぇー、桃香ちゃん死んじゃうのかぁ」
「ほら、さっさと舌噛み切って死になさいよ。早くしないとパンツ脱がされて、男子の前でアソコ丸出しにされるわよ」
「あはは、面白―い。死んじゃえ死んじゃえーっ」
「死ね死ね!」
 みどりと祢々子が囃し立てると、女子の間からも「死ね死ね」コールが起こり始めた。男子はまだ、桃香に対してエッチな事をして楽しみたいというスケベ心が働くから、辛うじて温情をかける余地はある。
 だが女子はその点冷酷だった。性欲を満たすという利用価値すら見出せない女子たちにとって、桃香はまさに、生かしておく価値もないただの生ゴミに過ぎないのだ。彼女に虐げられてきた憎しみと恨みは、止まるところを知らずに激しく燃え上がっていく。
「死ね! 死ね!」
「さっさと死ね!」
「あんたは生きてるだけでムカつくのよ!」
 男子たちが引く程に、その「死ね死ね」コールは真に迫った勢いがあった。しょせん女の敵は女。五年生の少女であっても、その冷徹ぶりは大人と大差なかった。
「まぁそのくらいにしておけよ。心配しなくても、羽生の奴には死ぬよりも辛い目に合わせてやるからな」
 苦笑して礼門が制すると、女子たちも我に返ったのか、急に静かになっていく。さすがに男子の見ている前で、あまりにも女の醜い本性を曝け出し過ぎたと思ったのだろう。五年生の少年たちにとって、ありのままの女の内面はさすがにショッキング過ぎたようだ。何人かは性欲も萎え、周囲の女子たちを呆然と眺めていた。
「さぁ桃香様。そろそろそのエロいパンティを脱いで、何もかも丸出しにしてもらいますぜ?」
 礼門の声に、桃香がハッと彼を見上げる。
「何もかも……丸出し……」
「おい根墨。ちゃんと録画しておけよ?」
「問題ありません。さっきからバッチリ録画中です」
 解剖授業の時と同じように、忠一はビデオカメラを構えて桃香の痴態を余すところなく撮影していた。このカメラは桃香が持ってきたものだ。昼間、耶美の処女喪失を撮影し、今晩は姫乃の輪姦を撮影するつもりだったのに……自分のオールヌードを撮られる事になろうとは、皮肉な話だった。
「毛の生え具合とマンコの形、見させてもらいましょうか」
「毛の……いや、いやぁぁっ!」
 突然桃香が叫び始める。手足をばたつかせ、油断していた男子たちを撥ね飛ばして起き上がろうとした。
「うわ、何だこいつ……いきなり暴れ始めやがった」
「こら、大人しくしろって! どうせ抵抗したって無駄なんだぞ!」
「おいお前らも手伝えよ!」
 雑魚男子たちが総動員で桃香の手足を押さえつける。たとえ起き上がったところで、周囲を取り囲む男子から逃げる事なんて不可能だし、女子だって逃走を助けてはくれないだろう。そもそも宿直室から逃げたところでどうなるというのか。教師に助けを求めて、せっかく秘密にしていた男子女子戦争の内容を洗いざらい話すのか? それはつまり、桃香がクラスメイトに働いてきた悪行の数々も告白するという事だ。そんな事ができるはずもなかった。
 第一、鮫島が手を回して、一組の担任教師は出払っているはずだ。鮫島自身が助けてくれるとは思えない。美月は言わずもがな……。結局、桃香はどこに逃げようともう、素っ裸にされて辱められる運命なのだ。
 それは桃香自身、よく分かっているはずなのだが。どうして急にこんな取り乱した行動を見せたのか?
「往生際が悪いぜ、桃香様。暴れておっぱい揺らすのは結構だけどよ……大人しくパンツ脱がされろや」
「いや! いやぁ! 助けて……誰か助けてぇッ!」
「バーカ、誰も助けるわけねぇだろ。いい加減諦めろって」
「お願い……士郎! 士郎ぉ! 助けてよぉ!」
 彼女が最後に頼ったのは、やはり明石士郎であった。それはもちろん、単なる幼馴染みだから……という理由だけではないだろう。理屈も策略も何も無い。全てを失い、追い詰められた時、人が最後に頼るのは――。
 自分が愛する、想い人だけであった。
「……おい、囚われのお姫様がお呼びだぜ? 助けに行かなくていいのかい、王子様?」
 壁に背を預け、失笑しているのは清司だ。その隣には士郎の姿がある。この二人も、桃香凌辱に加わっていない数少ない例外の男子だった。
 清司は女性の裸に興味が無いから当然だが、士郎は……なぜ参加していないのか? 少なくとも、桃香の処刑台製作に協力し、姫乃を止めなかった時点で、助けるつもりが無い事だけは確かだった。
「そりゃあ、桃香が本当に囚われのお姫様って言うんなら、俺も命を懸けて助けに行くけどなぁ」
 清司も士郎も、冷めた視線でじっくりと状況を見据えていた。脱がされていく桃香に興奮するでもなく、次に自分が何をすべきか、冷静に考えているのだ。
 そもそも士郎は、星空観察の時に桃香に告白している。その告白の相手が他の男子たちに素っ裸にされようとしているのに、まるで他人事のようにこれを放置するとは……普通なら有り得ない反応だった。一体どういうつもりなのか?
 そこに人込みをかき分けた虹輝がようやく駆けつけてくる。
「明石くん、羽生さんが……」
「よせよ、虹輝。俺はあいつを助けに行こうなんて全く思ってないぜ?」
「そんな……どうして……?」
 虹輝は驚きの表情で士郎を見るが、彼は落ち着いたものだった。むしろなぜ虹輝が桃香を助けようとしているのか、そっちの方が不思議だと言わんばかりの態度である。
「いま捕まってるのはお姫様なんかじゃなく、悪い森の魔女だ。さんざん悪い事をして皆を苦しめてきた悪い魔女が、最後に報いを受けて懲らしめられるのは、おとぎ話の定番だろ? 王子様の出る幕じゃないよなぁ」
「冗談言ってる場合じゃないよ。このままだと……」
「冗談言ってるのはそっちだろ、犬飼」
 清司が口を挟む。
「お前はどっちの味方なんだ? 羽生は女子軍だし、白鷺の宿敵でもあった。肩入れする必要は全く無いだろ」
「でも……」
「いい加減、覚悟を決めろよ。羽生の戦死が決定的となった今、お前はもう次の戦いに備えるべきだ。分かってるのか? お前は、今すぐにでも白鷺を倒して、男子軍を勝利に導かなくちゃいけないんだぞ」
 逃れられない現実が眼前に突きつけられる。確かにそうなのだ。男子軍最後の生き残りは、虹輝。女子軍最後の一人は、姫乃。二人は必ず戦わなければならない。
今すぐにでも。
これは宿命なのだ。
「おいおい、そう虹輝を虐めてやるなよ清司。そんな事、とっくに分かってた事だろ? こいつだってその覚悟くらいはしてるさ。もし白鷺と戦いたくないなんて駄々をこねるんなら……まぁ、俺たちにも考えがあるけどな」
 士郎が鋭い視線で虹輝を見据えた。
 それはポーカーフェイスの彼が見せる、本気の眼光であった。
 虹輝が思わず萎縮する。
「――とりあえず、桃香の事はもう諦めろ。あいつは今までクラスメイトに散々酷い事をしてきた。そのけじめだけはつけないとな。ま、悪いようにはしないから安心しろ」
 悪いようには……しない?
 何が、悪いようにはしない……なのだ?
 礼門たちが暴走しないように、士郎がきちんと監視しているという意味だろうか。監視するにしても、暴走を止める事などできるのか? そもそもどこまで行ったら暴走した事になるのか?
 でも、それなら……。
 士郎がそう言ってくれるなら、その言葉を信じよう。
 虹輝はそう思った。
そして同時に、無力感にも打ちひしがれた。
 桃香を助けられなかったからではない。士郎が「悪いようにはしない」と言った途端、その言葉にすがり付き、責任を士郎になすりつけようとしている自分に気付いたからだ。
 士郎がそう言ったのだから任せていい。それでどうなろうと、「悪いようにはしない」と言った士郎の責任じゃないか。
 僕が悪いわけじゃない。
 僕はできるだけの事をやったんだ……。
結局、桃香や耶美が言った通り、虹輝は責任逃れの予防線を張りたかっただけなのだ。罪の意識から逃れるために、助けようとしたというポーズを取って、自分を納得させていただけだった。本気で桃香を助けるつもりなど全く無いくせに。
 これならまだ、最初から見捨てると明言している、姫乃や士郎の方がよっぽど立派だった。いや嬉々として桃香を辱めている礼門たちでさえ、虹輝に比べればまだ人間として救いようがある。本気で助けるつもりもなく、助ける振りだけして自己満足している虹輝が、一番最低の人間だろう。
 虹輝は士郎の隣に立つようにして、壁に背を預けた。
「もう桃香の事はいいのか?」
 意地悪にも士郎が聞いてくる。
「僕は……。僕は……」
「一つだけ忠告しておくぜ、虹輝。白鷺はな、心に迷いを持ったまま倒せるような、甘い相手じゃない。男子軍を勝たせたいと思うなら、迷いを捨てて本気で戦え。……それとも、お前は女子軍に勝ってほしいのかな? 白鷺に恥をかかせたくないから?」
「そんな……事は……」
 言いながらも、虹輝は即座に否定する事はできなかった。姫乃と戦って、彼女を裸にする? その覚悟が自分にはあるのか? いやそれだけで済むはずが無い。もし姫乃を裸にすれば、いまの桃香のように、きっとそれ以上の辱めを受ける事になるのだろう。自分はそれを黙認できるのか?
 しかしだからと言って、女子軍の味方になるのかと言われればそれも即断できない。士郎や清司といった、今まで一緒に戦ってきた仲間をあっさり裏切れるほど、虹輝は冷徹でも大胆でもない。負けて裸にされるのは嫌だし、男子軍を勝たせたいとは思っていた。
 どうして僕みたいな人間が……。
 虹輝はただひたすら、自己嫌悪に苦しみ、頭を抱えた。今の自分にできる事は、そんな下らない事だけだ。もう一度心の中で自問自答する。
 どうして僕みたいな人間が、最後まで生き残ってしまったんだろう……。




 虹輝が悩もうと悩むまいと、桃香凌辱は着々と進行していった。数人がかりで手足を押さえつけ、完全に身動きが取れないように拘束してしまう。それまでは嫌々ながらも大人しく脱がされていたというのに、最後の一枚だけはやけに抵抗するものだ。
「ったく、手間取らせやがって……。そんなにパンツ脱がされるのが嫌なのかよ」
 礼門が額に浮かんだ汗を拭った。室内はかなりの暑さになっている。
「きっとモジャモジャなんじゃない? だから嫌がってるんだ」
「でも自然教室だし、風呂入る時に女子に見られるだろ? それなら手入れとかしてると思うけど……」
「じゃあパイパンとか? 毛が生えてないんだよ、きっと」
「あっはは、そりゃいいな! もしそうなら全員で笑ってやろうぜ!」
 周囲の男子が好き勝手に桃香のショーツの下を想像し合った。この後すぐ、その答えが分かるのだ。こんな楽しい想像はなかった。一方の桃香は、完全に抵抗を封じられ、顔を背けて屈辱に耐えるのみである。
「おう宇崎。お前ら羽生と仲良かっただろ? お泊り会とかやらなかったのか? 風呂入る時にパンツは脱ぐだろ?」
 すぐ脱がしては面白くないとばかりに、礼門がみどりに水を向けた。本来なら彼とは口も利きたくなかったが、桃香を辱めるためならばと、みどりは思案を巡らせる。
「四年生のころはよくやってたけど……最近は全然ね。この自然教室でも、タオルで完全ガードして見られないようにしてたし」
「そうそう。最後にやったのは、えっと、四年生の終わり頃だっけ? みどりちゃんに毛が生え始めてたから、祢々子と桃香ちゃんで大騒ぎになったんだよね」
「ちょっと祢々子、余計な事言わないでよ!」
 下の毛の生え始めた時期を暴露されるなんて恥ずかし過ぎる。まだ生えていない祢々子にはそれが分からないのだろうか。ともあれ、あの時まだ桃香に陰毛が生えていなかったのは確実だ。その後、五年生になって男子女子戦争が始まったため、三人でお泊り会をするような事も無くなった。
 いや……それでも作戦会議として、放課後女子トイレでたむろする事はよくあったのだ。その延長としてお泊り会でもやらないかと、桃香に提案した事も何回かあったが……。彼女が乗ってくる事は一度も無かった。
 もしかしてあれは、意図的に避けていたのかもしれない。でも何のために? ショーツを脱がされたくない理由と、何か関係があるのだろうか?
「ふん、まぁ脱がしちまえばすぐに分かるか」
 ついに礼門がショーツの端に指をかける。
「桃香様の下半身の秘密、クラス全員に教えてもらいますよ?」
 もはや抵抗できないと悟ったのか、桃香はギュッと目を閉じたまま無言を貫いた。構わず、礼門は一気にショーツをずり下ろしていく。
 果たして、露わになった桃香の下半身は――。
「……あれ?」
「え?」
「嘘……。何これ?」
 男子も女子も、桃香を取り囲んでいた全員が、一斉に首を傾げた。もちろんみどりや祢々子もだ。あの礼門ですら呆気にとられている。こんな下半身を見たのは初めてだったか。
 その反応を予想していたのだろう。
 堪えきれなくなった桃香が、涙声で叫んだ。
「うわぁぁぁーっ! 見るな! 見るなぁぁっ!」
 だがそれが逆効果だった。桃香の周りにいなかった連中までもが、その尋常じゃない雄叫びに興味を引かれ、わざわざ桃香の下半身を見に集まってきたのだ。入れ代わり立ち代わり、クラスメイトたちが次々に彼女のショーツの下を観察し、一様に驚きの声を上げていく。
 別に驚くほど剛毛だったわけではない。
 かといってパイパンでもない。
 桃香の陰毛は、まだ生えかけだった。年齢からすればそれは当たり前とも言えよう。
 問題は……その生え具合である。
 通常、女の子の生えかけの陰毛と言えば、デルタ地帯の中心や割れ目の上あたりに、小さく密生し始めるのが一般的だ。中心部が濃く、周辺は薄く。やがて年齢を重ねるごとに発毛の範囲は広がり、毛も太く長く伸びていく。高校生くらいだとあまり手入れをしないため、大人の女性よりもずっと剛毛で毛深かったりするものだ。
 陰毛の生え方や生える時期には個人差があり、他人と違っているからと言って悩んだり焦ったりする必要も無い。
 だが――桃香の陰毛は。
 その生え具合がかなり特徴的だった。
「へぇ、マン毛ってこんな風に生え始める事もあるんだな。俺も初めて見たぜ」
 礼門が素直に感嘆の声を上げる。
「うるさいッ! 死ねッ! 見るな馬鹿ッ! 見たら殺すッ!」
「バーカ、もうとっくに全員見てるっての。お前のみっともない、中途半端なマン毛をな」
「うわぁぁぁーっ!」
 彼が指摘した通り、桃香の陰毛は実に中途半端な生え方をしていた。デルタ地帯いっぱいに、びっしりと短くて細い毛が密生している。それは性器の周辺にまで及んでいた。生えている範囲は大人の女性と同じくらいの剛毛なのに、毛自体は産毛よりちょっと濃くなった程度なのだ。剛毛の女性が一度パイパンにした後、しばらくして陰毛が生えてきたような……そんなみっともない生え方だった。剃ったわけではない事は、毛先の自然な細さを見れば一目瞭然である。
「ハハハ、何だこれ。オッサンの無精ひげみたい」
「カッコ悪ぃ、あんなに偉そうにしてたくせに、毛もろくに生え揃ってなかったのかよ」
「ふふ、だから昨日も今日も、必死にタオルで隠してたんだ。入浴の時にあんなの見られたら、いい恥晒しだもんね」
「大人っぽい下着つけてても、アソコは子供なんだぁ」
 容赦ないクラスメイトたちの論評が耳を貫く。耐えきれずに桃香は涙を流し始めた。それ程までにショックだったのだろう、自分の恥ずかしい陰毛の生え具合を知られてしまった事が。
 その気持ちは分からない事も無い。
 生え方が特殊でも、時間が経てば人並みに生え揃ってくるはずだった。もう少し毛が生えてくれば、たとえ見られたとしても、今ほどの劣等感を味わう事は無かったと思う。一度生え揃ってしまえば、滑稽な生え方をしていたという陰毛の秘密は、桃香一人の胸に収められて一生誰にも知られずに過ごす事ができたのだ。それなのに……。
 男子女子戦争で負けたがために、その秘密がクラス全員に知られてしまった。誰にも知られずに済んだはずの秘密は、カメラで撮影されて永遠に記録に残される羽目になった。全てを失った桃香は、自分自身の身体という最後の拠り所まで失い、そのプライドをズタズタに引き裂かれてしまったのだ。
「見ないで……見ないでよぉ……。こんなのやだ……なんで……こんな……」
 嗚咽を漏らしながら大声で泣いていく。耶美は性器の中さえ見られても泣く事は無かったが、桃香はショーツを脱がされただけで脆くも泣き崩れてしまった。彼女にとっては性器の中を観察される事よりも、毛の生え具合を知られる事の方が恥ずかしかったのだろう。
「ダッセ、こいつもう泣いてやんの」
「甲守の事、毛深い毛深いって馬鹿にしてたけど、アレただのコンプレックスの裏返しだったんだな」
「毛も満足に生え揃ってねぇくせに、俺ら男子に逆らおうなんて百年早いんだよ!」
 最大の身体の秘密を暴かれてしまった桃香は、もはや全く抵抗する気力を失ってしまった。もう二度と男子には逆らえないはずだ。現に男子たちが手足の拘束を解いても、逃げるどころか身体を隠そうとさえしなかった。ショーツが足から抜き取られる。
「もう……もう許して。お願い、助けて……」
 あれだけ強気だった桃香が、呆気なく命乞いを始めた。完全に心がへし折られている。いつもの桃香ならば、調子づいた男子たちにこんな態度を見せても増長させるだけだと分かったはずだが……。
 ここに至って、ようやくみどりは気が付いた。
 桃香は別に、強い少女でも何でもなかったんだという……その事実に。彼女は本当は、打たれ弱くて傷つきやすい少女だったのだ。だからこそ男子女子戦争を戦い抜くには、強気の姿勢を貫くしかなかった。自分は勝てると自分に言い聞かせ、負ける自分を想像の外に追い払い、必死になって自分を鼓舞して戦い抜いてきた。そうしなければすぐに心が折れてしまうから。それもまた、強さの一つである事は間違いないだろう。その点ではみどりも彼女に敬意は払っている。
 だが当然、そんな桃香が一度敗北してしまえば、たちまち敗者の坂を転げ落ちていくのは無理からぬ事だった。彼女はもう二度と立ち上がれないのではないか。みどりはそんな恐怖すら感じ始めていた。
「おいおい、ずいぶん可愛らしくなっちまったじゃねぇか、桃香様?」
 礼門が完全に見下した視線で、しかし相変わらずの『桃香様』呼ばわりで言い放った。
「まさか本気で思ってないだろうな? この程度で許してもらえるなんてよ?」
 そのまま半ズボンとトランクスを同時に脱ぎ、下半身を露出させる。相変わらず、クラスメイトの前でも平気で性器を露出する男だ。醜悪な肉棒は既に硬度を増し、天に向かってそそり立っていた。みどりにとっては吐き気のする光景である。
「俺がずっとお前の処女膜狙ってたのは、知ってるだろ? 白鷺を喰う前の、最後の腹ごしらえに、今からこいつをブチ込ませてもらうぜ」
「や……そ、そんなの……。無理、入ら……ない」
「入らなくても無理矢理入れるんだよ。白鷺の奴をモノにできるからって言うからてめぇに従ってきたのに、負けちまったお前が悪いんだ。安心しろ、お前に代わって白鷺はこの俺が仕留めてやるぜ」
 どうせ礼門の頭脳では姫乃には勝てないだろう。具体的なプランがあるわけでもなさそうだった。男子女子戦争が女子軍の勝利に終わっても、隙を見て姫乃の弱みを握って凌辱すればいい。その程度の事しか考えていないのは明白だ。
 しかし今の桃香にとって、もう姫乃打倒などどうでも良かった。彼女の意識を占めているのは、昼間の耶美の処女喪失シーン。きっとそれだけだ。みどりは直接見ていなかったが、礼門の凶器に蹂躙される耶美の性器を、桃香は間近で観察したらしい。それは彼女にとって初めての体験だった。みどりが犯された時はプールサイドにいたから、セックスがどういうものなのか実感は湧かなかっただろう。ようやく具体的なイメージとして脳に刷り込まれたわけだ。
「やだ……いやよ……。許して。助けて……」
 桃香がオナニーをする時、指を挿入しているのかは知らない。生理の時にナプキンを使っていると聞いた事はあるが、タンポンの経験があるのかどうかもわからない。だがいずれにせよ、性器に異物を挿入する事に対して恐怖を感じるのは当然だった。ましてその異物が、あんな太くて大きくて、しかも軽蔑する男子の、醜い男性器ともあればなおさらだ。
 陰毛の生え具合という最大の秘密を暴かれた今の桃香に、強気を貫く力はもう残っていなかった。レイプという単純暴力の前に、成す術もなく屈して命乞いするしか道は無い。
「いいじゃん、一回くらい馬鹿ゴリラさんにエッチさせてあげなよ? さんざんこき使ってきたんだし……桃香ちゃんも処女じゃないんでしょ?」
 またも祢々子が爆弾発言をぶち上げる。
「ええ? 羽生さんって経験済みなの?」
「確かに進んでそうだけど……」
「ちくしょーっ、誰なんだよ、相手はっ?」
 雑魚男子たちが色めき立つが、一人だけ、礼門の態度は落ち着いたものだった。なるほど。さすが百戦錬磨のレイプ犯だけあって、処女を見極める目は正確らしい。祢々子も祢々子だ。あんな見え透いた桃香の自慢話を真に受けるなんて……。
「だって前言ってたもん。中学生の彼氏と初体験しちゃったって。もう別れちゃったらしいけどねぇー」
「ほーう、さすが桃香様。その歳で経験済みとは恐れ入りました」
 小馬鹿にした口調を隠さずに礼門が言い放つ。
「非処女なら尚の事、こっちも遠慮なくブチ込めますな。ヤリマンビッチの締まり具合、確かめさせてもらいましょうか」
 膝立ちになった礼門は、桃香の足首を掴んで左右に広げ始めた。ふるふると桃香が首を振って拒絶の意志を示す。
「ち、違う……あたし……。あたしは……」
「中学生の彼氏とやらと、ヤリまくってたんだろう? むしろ俺の方がいろいろテクを教えてもらいたいもんだぜ」
「だから……その……」
 もちろんみどりも、最初は桃香の自慢話を素直に信じていた。四年生の終わり頃。最後のお泊り会の時だったろうか。みどりに陰毛が生え始めた事を知った祢々子が、「もう大人だねー」と素直に感嘆したのに対し、桃香は「あたしだってこの前、いい感じの中学生に告白されたんだから」と強がって見せたのが始まりだった。
 その後、彼女の話の中では「付き合う事にした」「キスしちゃった」「一緒にお風呂に入っちゃった」などとエスカレートしていき、最後は「エッチしちゃった」に到達したのである。その話の内容は具体的で真に迫っていたが、今考えれば何の事はない、雑誌やネットの体験談を適当に脚色して話しているだけだった。先に陰毛の生え始めた……そして自分と違ってカッコ良く生え始めたみどりに対する、ちょっとしたジェラシーだったのだろう。
 男子女子戦争が始まっていつの間にかうやむやになり、「別れた」という事でオチの付いた話だったのだが……。桃香が強がって虚勢を張る所は、今も昔も変わっていないという事だ。
「あ、あたし……。処……女なの……」
「ああん? 何ですかな桃香様? 言いたい事があるならもっと大声で言って下さいませんか?」
「く……」
 まさかとは思うが、プールで礼門にレイプさせたのは、みどりに対するそのジェラシーが理由だったのかもしれない。いやさすがにそれは無いと信じたいが……。みどりが思っている以上に、桃香は自分に自信が持てず、みどりや耶美に羨望の眼差しを向けていたようだった。姫乃への敵意も、実は憧憬の裏返しと考えれば納得がいく。
「あたし、処女なのッ! 経験済みなんて嘘だったのッ!」
 屈服した桃香の自白が、宿直室に響き渡った。強気で好戦的な少女を取り繕い、彼女が今まで五年二組の中で築き上げてきた全てが、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。クラスメイトたちの間に嘲笑が広がっていった。
「なーんだ、また嘘だったのか」
「そりゃそうだよ、こんな性格ブスに彼氏なんてできるわけないじゃん」
「どんだけ嘘つけば気が済むのよ」
「ヤリマンビッチの振りして、意外と奥手で純情でしたって? あはは、笑っちゃうわね」
 言い返す事もできず、桃香はただ屈辱に泣き濡れる。だからといって彼女に同情する気にはなれなかった。
 処女だから……。処女だから、何だというのだ? 処女だから、レイプされるのは嫌だというのか? なら非処女ならレイプされてもいいのか?
 いや、あの時桃香は言っていたではないか。「もしかしてみどりって処女?」と。みどりが処女だと知った上で、なお桃香は礼門をけしかけ、クラスメイトの眼前でレイプさせたのだ。まさか忘れたわけではあるまい。たとえそっちが忘れても、辱めを受けた側は一生忘れたりはしない。忘れてたまるものか。
 凌辱の恐怖に怯える桃香に対し、みどりは冷然と言い放った。あの時桃香から言われたセリフを。そっくりそのままに。
「――まぁいいじゃない。今どき処女信仰ってキモいし。犬に噛まれたと思って諦めなさい」
 ハッと桃香が顔を上げる。みどりと目が合ったが、しかし今の彼女に視線を合わせる勇気など残っているはずもなかった。すぐに目を背ける。
 自分と同じ目に遭えばいいのだ。
 みどりはそう思った。クラスメイトの目の前で、軽蔑する馬鹿ゴリラに処女を散らされ、泣きながら中出しされればいい。その一部始終を見届ける事で、ようやくみどりの復讐も成し遂げられるのだ。
 もっとも、当の礼門は、そう簡単に桃香を楽にするつもりはないようだった。すぐに凌辱してしまっては面白味が無い。ネチネチと精神的にじっくりいたぶって、まず思う存分彼女の心を犯し尽し、その上で満を持して身体も犯す。彼の目論見は明白であった。みどりがレイプされた頃の礼門が相手だったなら、何も考えずに力ずくで犯されるだけで済んだだろうに……。
「ハッハッハ、まさか桃香様が処女だったとは驚きですな。そういう事なら無理に挿入するわけにもいきますまい」
 桃香の表情に僅かな安堵の色が浮かぶ。こんな見え見えの手に引っかかるとは、桃香も所詮はただの五年生の少女に過ぎなかったか。ずっと桃香の処女膜を狙っていた礼門が、処女と知って諦めるなど矛盾している。考えるまでもない事だった。
 いやむしろ……。どんな強靭な精神力を持った少女であっても、裸にひん剥かれてしまっては、このように冷静な判断力を失ってしまうものなのかもしれない。人の心は、そして少女の心は、どこまでも脆く壊れやすいのだ。
「なら、桃香様が処女を守りたいという気持ちがどれほど本気のものなのか、一つ試させてもらいましょうか」
「た、試す……って……」
「簡単な事。今から根墨に立ちションをやらせますからな、それを全て口で受けて呑み干してもらいましょう」
「なっ……」
 悪知恵を付けた礼門が考えそうな事だった。みどりは目を伏せる。行くも地獄、退くも地獄だ。どうせ礼門の言いなりになったところで、最後はレイプされて処女を失う事に変わりは無い。だったら諦めてさっさと処女膜を差し出した方が傷は浅く済むだろうが……今の桃香にそんな論理的思考は望むべくもなかった。
 いや大人しく凌辱される道を選んだなら選んだで、何か理由を付けて礼門は凌辱を遅らせ、あくまで精神的に屈服させてから犯そうとするはずだ。一見、桃香に選択肢があるように見えるが、実際はどこにも選択肢など存在しない。ただ礼門に弄ばれ、玩具として好き勝手にされているだけ。彼女が進んでいる道は、分岐点もない、破滅への一本道なのだ。
「できないなどとは言いませんよねぇ? つい先日、桃香様が甲守を使って根墨にやらせた事と全く同じですからな?」
 桃香にできる事はただ一つ。礼門の遊び道具として、心も身体も蹂躙される事に耐え忍ぶ事だけだった。そもそもそれは、『できる事』でも何でもないのだが。
「……わかり……ました」
 かつて馬鹿ゴリラ呼ばわりした男に、桃香は屈従の言葉を吐いた。さんざん悪い事をして皆を苦しめてきた悪い魔女が、最後に報いを受けて懲らしめられる。
 その『報い』は、まだまだ、始まったばかりだった。
 
 
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