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第十二話 『愛する人のために』

2014-09-13

 降りしきる雨の中、姫乃はうずくまったままピクリとも動かなかった。二度もスタンガンを押し付けられれば当然だ。その表情は苦悶に満ちている。
「虹輝……く……」
 彼女を見下ろす虹輝の視線は、どこまでも冷ややかだった。
「良くやったわね犬飼くん? さぁ、スタンガンをこっちに持ってきてちょうだい。約束通り、姫乃と最初に遊ばせてあげるわ」
 桃香が嬉々として言い放つ。
 姫乃を裏切って、彼女を倒す協力をすれば、最初にその身体を弄ばせてあげる……それが桃香の出した条件であった。そして虹輝は彼女の期待通り、姫乃をスタンガンで打ち倒した。上出来だろう。
 しかしもちろん、桃香の言葉を素直に信じるほど、虹輝も愚鈍な人間ではないようだった。桃香がどれほど悪辣な少女であるか、嫌という程見てきたのだから。
「スタンガンを渡せ? 冗談でしょ」
 虹輝が冷然と答えた。
「もし渡したら、僕もすぐに電気ショックの餌食になるよね。そして郷里くんが姫乃さんを凌辱する。それくらい僕にだって分かるよ」
「あらら、バレちゃってた? そりゃ今まで散々あたしのために働いてきた馬鹿ゴリラと、一回裏切っただけの犬飼くんとじゃ、貢献度が違うもんねぇ」
 桃香も悪びれずに言葉を返す。自分で言うのも何だが、とんだ女狐だ。
「でも郷里くんは何度戦っても姫乃さんを倒す事はできなかった。姫乃さんを倒したのは、僕だ」
「なんだと犬飼、てめぇ……」
 珍しく好戦的な虹輝の挑発に、思わず礼門がいきり立つ。桃香は礼門にあらかじめ、虹輝が裏切ったところで彼に姫乃を渡したりはしない……と確約していたものの、気が気でないのだろう。既に姫乃は無抵抗状態になって、虹輝の足元に倒れ伏している。今まで執拗に付け狙っていた姫乃の処女を、虹輝ごときに先を越されてはたまったものではない……と思っているのだ。
 桃香は手をかざして礼門を制した。状況が虹輝に有利である以上、まずは彼の要求を聞き出す必要がある。
「あなたの狙いは何?」
 雨の勢いは止まない。互いにずぶ濡れになりながら、虹輝と桃香は十数メートルの距離で対峙していた。
「まず羽生さんがこっちに来て、姫乃さんの服を脱がすんだ。そしてカメラで撮影して戦死させる。その後で服を元通りに着せ、カメラを置いて元の場所に戻ってもらう」
「スタンガンはどうなるのよ?」
「ここに置いて立ち去るから、後で回収すればいい。僕が姫乃さんとカメラを持ち去った後でね」
「ふーん、自分一人が姫乃の裸の写真を独占ってわけか。男子女子戦争が終わった後で、その写真をネタに改めて姫乃を脅迫しようって魂胆ね。ま、いいでしょ。痛み分けなら受け入れられる条件だわ」
 桃香としても、姫乃を戦死させられるのなら悪い話ではなかった。礼門が何か言おうとするものの、視線でこれを制する。どのみち後で虹輝を倒してしまえばいい事だ。桃香が生き残り、男子女子戦争が女子軍の勝利で終われば、五年二組の支配者は桃香になる。その後でゆっくりと姫乃を辱めてやろう。虹輝が手を出していなければ、礼門が彼女の処女を喰い破る事もできる。
 もちろんそれは、虹輝が約束を守れば……の話だが。
「ただ、あたしがそっちに行くってのはちょっとリスクが高いわねぇ。耶美が代わりに行くんじゃ駄目?」
「それじゃ一時的な人質にならないよ。僕がスタンガンで羽生さんを狙っているから、郷里くんや甲守さんも迂闊に動けなくなる。甲守さんが脱がし役になったら、彼女を見捨てて郷里くんが僕に襲い掛かってくるかもしれないだろ? 郷里くんが脱がし役でも、やっぱり隙を見て至近距離から襲われる危険がある。結局羽生さん以外じゃ、撮影の隙に僕が襲われるかもしれないって懸念に変わりはないんだ」
「なるほど、よく考えてあるわね。分かった分かった、降参よ」
 桃香がおどけて両手を上げる。そしてゆっくりと、虹輝と姫乃の方へと歩いていった。もし礼門と耶美が両方とも桃香を裏切れば、彼女にとってこれは最大のピンチとなる。『一時的な人質』とは、二人が桃香に忠誠を誓っているのが前提で、初めて成り立つのだから。桃香が脱がされても構わないと思うなら、彼女に構わず虹輝からスタンガンを奪おうと突進してくるはずだ。
 もっとも、たとえそういう状況になっても対処できるよう、桃香は既に手を打っていた。策を巡らせているのは何も虹輝だけではないのだ。
「ま、あたし自身の手で姫乃を脱がせられるってのはありがたいけど」
 ウェストポーチに一度ビデオカメラを収め、桃香はニヤニヤと姫乃を見下ろした。彼女はまだ身動きが出来ない。苦悶の表情で桃香を見上げるのが精一杯だ。ビーチサンダルの足を持ち上げ、桃香は宿敵の少女の腹を思いっきり蹴飛ばしてやった。
「あぐっ!」
「あっはは、いい恰好だわ、姫乃。迂闊に他人を信じるからそういう目に遭うのよ。自分一人だけを信じて行動してればそんな様を晒さずに済んだのにね!」
 さらにサンダルで彼女の顔を踏みつけた。ゴツゴツした岩肌に擦り付けられる、姫乃の頬。
「ク……桃香……」
 ゴム底の下で姫乃が唇を噛んだ。
「さぁ覚悟はいい? いよいよオールヌードになってもらうわよ?」
 しゃがみ込むと、桃香は姫乃の体操服を引っぺがし、頭と腕を引き抜いていく。降りしきる雨の中では布が身体に張り付いて、思うように脱がす事は難しかった。それでも強引に剥ぎ取る。次いでスパッツも足から抜き取っていった。
 これで残るはスクール水着一枚だけだ。これさえ脱がせば、姫乃はビーチサンダルを履いただけの素っ裸になってしまう。
「姫乃ちゃーん、いい子だから水着脱ぎ脱ぎしましょうねぇー」
 まるで幼い子供をあやすように、桃香は肩紐に手をかけた。左右それぞれ、肩からずらしていく。このまま思いっきり引っ張り下ろせば、紺色の布地の下から可愛らしい膨らみが二つ、丸出しになるはずだ。姫乃が抵抗しようと彼女の腕を掴んでいるが、痺れた身体では全く相手にならなかった。
「あはは、何それ? 抵抗しているつもり?」
「や……めて……」
 虹輝は冷静に二人の様子を観察している。礼門も耶美も静観を保っていた。
 ――果たして、本当にこのまま姫乃を脱がす事が出来るのだろうか?
 桃香は既に虹輝の本心がおぼろげながら見えていた。耶美と違って彼は非常に分かり易い。恐らく彼の真の狙いは……。
「はーい、そろそろ観念しましょうか、姫乃ちゃーん? 皆さんお待ちかね。すっぽんぽんになるお時間ですよぉー」
 まぁいい。
 今は虹輝の策に乗ってやるまでだ。むしろ桃香にとってこの状況は、本心の見えない耶美の真意を炙り出す絶好の機会にも感じられた。自分の背後に回る虹輝の気配を感じつつ、両手に持った水着の肩紐を、思いっきり下にずり下ろ……。
「はぐぅっ?」
 その刹那。
 背中からの衝撃が桃香の身体を走る。
 これは……電気ショック?
 姫乃に折り重なるようにして桃香が倒れ伏す。見上げる彼女の視界には、スタンガンを構える虹輝の姿があった。
 ふぅん……。
 やっぱり、ね。と桃香は内心呟いた。




「犬飼、てめぇ!」
「動かないで! こっちには人質がいるんだよ!」
 桃香にスタンガンを突きつけて、虹輝が叫ぶ。だがもちろん、それで動揺する礼門ではなかった。
「人質だとぉ? バーカ、俺にとっちゃそんな女、どうでもいい。むしろ白鷺と羽生の両方が倒れたんなら、俺たちが争う理由はねぇだろうが」
「そっちに無くてもこっちにはあるよ。郷里くんは姫乃さんに酷い事をするつもりでしょ? でもそんな事はさせない。僕が今から羽生さんと姫乃さんの裸の写真を撮って戦死させて、男子女子戦争を終わらせる。僕が最後の一人になって、姫乃さんを守るんだ」
 姫乃への裏切りを唆された虹輝が、一晩考えた末に導き出した結論。それが、桃香と姫乃の両方を倒し、二人への必要以上の辱めを防ぐ……というものだった。礼門が昨晩、正式に戦死した事も、背中を後押ししたのだろう。
「クラスのみんなはそんなの許さないだろうけど……僕が何とか説得する」
「できるわけねぇだろ。俺だけじゃねぇ。男子も、女子も、みんな見たがってるんだぜ? 羽生や白鷺が素っ裸にされて、無様に恥を晒して輪姦されるところをな。大体てめぇだって白鷺とヤリたいんだろ。一人だけいい子ちゃんぶってんじゃねーよ!」
 礼門がジリジリと間合いを詰めてくる。耶美もその後に続いた。
「僕はね、考えたんだ。自分が本当に姫乃さんの身体を欲しがってるのかって。もし姫乃さんを裏切って。もし姫乃さんを戦死させて。そしてもし無理矢理身体を自由にして……。それで僕は満足なんだろうかって」
「虹輝……くん……」
「僕は……。僕は、確かに姫乃さんの身体が欲しい。でもそんな卑劣な方法で姫乃さんを手に入れたって、嬉しくも何ともない」
 虹輝はもう一度、桃香にスタンガンを押し当てると、礼門の方へと向き直った。両手でスタンガンを構え、バチバチと電極をスパークさせる。
「ケッ。綺麗事言いやがって。虫唾が走るぜ」
「……か、かかってこい。僕が相手だ!」
 虹輝の手は震えていたが、その視線は力強さに満ち満ちていた。スタンガンがあれば、どうにか礼門にも立ち向かえると考えたのだろう。この手のスタンガンは、実際には電極を相手の身体に押し付けなければ意味が無いわけで、身長差やリーチの違いを考えれば、虹輝の方が極めて不利である事に変わりは無かった。
 それに耶美の動向も不明だ。虹輝は彼女の本心を知らない。本当に姫乃を裏切ったのか、それとも演技なのか。たとえ彼女が虹輝の味方をしたとしても……礼門が相手では事態はそう好転すまい。むしろ彼女が礼門と協力して虹輝を倒そうとしてくる危険の方に留意すべきだろう。
 それに何より虹輝は最大のミスを犯していた。
 桃香を……。
 彼女を、スタンガンで沈黙させたと思い込んだ、致命的なミスである。
「虹輝くん、危ない!」
 姫乃が力を振り絞って叫んだが、時すでに遅しであった。突然立ち上がった桃香が、油断して背中を見せている虹輝に対し、容赦なくスタンガンを押し当てる。今度は虹輝が悲鳴を上げる番だった。
「な……ッ? ん、で……?」
 目を見開いて振り返ったまま、虹輝が岩場に倒れ伏していった。その拍子に右手からスタンガンが転がり落ちていく。
 なぜ……桃香が立ち上がっているのだ?
 二度もスタンガンで電気ショックを与えたはずなのに?
 そしてなぜ……。
 桃香がスタンガンを持っているのか?
 彼女が持っている物は、虹輝の手からさっき転がり落ちていったスタンガンとは別の物だった。製品の型番は同じようだが、別個体なのである。つまり桃香が自然教室に持ち込んできたスタンガンは……。
「スタンガンは、二個、あった……?」
「その通り」
 何という事だろう。さっきとは丸っきり立場が逆転してしまっていた。抵抗できずに這いつくばる虹輝を、勝ち誇った笑みで桃香が見下ろしている。
「スタンガンを一個しか持ってきてないなんて、誰が言ったの? あたしは最初から複数持ち込んでいたわ。分かるでしょ? そうじゃなきゃ、危険なスタンガンを馬鹿ゴリラに渡して夜這い作戦なんてやらせるはずが無い。馬鹿ゴリラが寝返ったらその時点で終わりじゃない? でもあたしの手元に二個目のスタンガンがあれば、もし裏切られても対抗できる」
「電気ショックを与えたのに……起き上がれる……なんて……」
 スタンガンの謎は解けたが、桃香が二度の電気ショックを受けてもほとんどダメージを受けていない理由はまだ不明だった。普通なら虹輝や姫乃のように満足に立ち上がる事さえできなくなるはずなのに……。
「フフ、男子はお洒落に疎いから知らないのも無理はないわね。最近は金属繊維って言って、ステンレスや銅をモノフィラメントに加工した糸があるのよ。繊維だから当然、綿やポリエステルなんかの普通の糸に編み込んで、洋服を作る事もできる。出来上がった金属繊維の洋服は、今までにない触感と、ある程度自由に形を変えられる面白さがあるわ」
「金属繊維の……服?」
「そうよ。こんな風に、ね?」
 桃香が体操服をめくり上げる。彼女は体操服と水着の間に、さらにもう一枚、別のシャツを着こんでいた。あれが金属繊維の服という事か。
「……ファラデーケージ」
 礼門の隣に立つ耶美が、ポツリと呟く。
「導体に囲まれた内部には電気力線が侵入できないから、外部の電場が遮られる。それによって内部の電位は全て等しくなるって事ね」
「はぁ? 何だそりゃ」
「自動車に乗っている時に雷が落ちても、中の人間が感電しないのと同じよ。電気は自動車の車体に沿って流れるもの。同じように、金属繊維を編み込んだ防護服を着ていれば、スタンガンを押し付けられても、電気は防護服に沿って流れるだけで、中の人間は感電しない」
 もちろんそれは専用にあつらえた防護服を、きちんと着ている場合の事だ。あんなシャツ一枚だけでスタンガンを完全に防ぐことは難しい。だが元々スタンガンの電流は大した威力ではないし、無防備な状態に比べれば遥かにダメージが軽減されるのも事実だった。
「羽生の奴、そんな物まで用意してやがったのか……」
「二個目のスタンガンと、金属繊維のシャツがあれば、馬鹿ゴリラにスタンガンを渡してもこっちの安全は確保されるわ。むしろそれくらいやらなきゃ、馬鹿ゴリラにスタンガンなんて預けるわけないでしょ?」
 余裕の笑みを浮かべる桃香。しかし雨に打たれるその表情には、かなり無理をしている様子がありありと窺えた。スタンガンが効いていないわけではないのだ。だからと言って今の虹輝にはどうする事もできないのだが……。
「さて。めでたく邪魔な二人を倒す事が出来たわけだし。いよいよお楽しみタイムといきましょうか?」
 桃香がさも楽しそうににじり寄ってくる。虹輝の目論見は脆くも崩れ去ってしまった。やはり桃香は一筋縄ではいかない。彼女を倒すには、もっと二重三重の罠を張って計略を立てておく必要があったのだ。虹輝は桃香がどういう人間なのか、まだよく理解していなかった。
 いや、だとすると……。
 姫乃はどうなのだろう? 姫乃は虹輝よりももっとずっと正確に、桃香の本性を見抜いているはずだ。そんな彼女がこうも易々と桃香の罠に落ちてしまうものなのか。果たして本当に虹輝の裏切りに気付いていなかったのか。
 何か別の策を……巡らせているのではないか?
 結論から言えば、虹輝の推測は当たっていた。近づいてくる桃香の足元。その彼女の背後の岩場の影から、白い手が一つ――。まるで心霊写真のように、突然姿を現したのだ。
 だがそれば幽霊でも妖怪でもない。実際に桃香の足首を掴み、彼女の足元を、文字通りすくって見せたのだから。
「あっ?」
 さすがの桃香もこれは予想外だったようだ。バランスを崩し転倒してしまう。彼女の手から滑り落ちるスタンガン。
「……そう何でも、あんたの思い通りにいってたまるもんですか!」
 白い手の主……岩場の影から現れたのは、みどりだった。目には水中ゴーグル、口元にはシュノーケル。自由時間の川遊びを見越して持ち込んでいたのか、それとも友人から借りたのかは不明だが、とにかくそれによって川の中に身を潜めていたらしい。桃香が呼び出し場所に指定した滝壺の沢は、小さな川の支流を通じて本流へと繋がっている。その流れを遡上するように、姫乃や虹輝とは時間差の別行動で、ここまで接近してきたのだ。雨が川面に当たって波打ち、曇天もあってみどりの影が見えにくくなっていたのは幸いだった。
「みどり、あんた……」
「姫乃は戦死させないわ!」
 飛び出したみどりは、桃香が手放したスタンガンに飛びついた。もちろん桃香も取り戻そうとするが、金属繊維のシャツ越しとはいえ、二度も電気ショックを受けた身体では満足に動けない。寸での差でスタンガンを奪われてしまった。
「他人を信用せずに裏切ってばかりの奴はね、いつか必ず報いを受けるのよ!」
 そのまま間髪を入れず桃香にスタンガンを押し付ける。さすがに三度目の電気ショックともなれば、かなりのダメージだ。
 もちろん、その様子を礼門はただ静観しているわけではなかった。彼にとって桃香がどうなろうと知った事ではないが、姫乃が救出されるのだけは見過ごすわけにいかない。当然、みどりを取り押さえようとダッシュする。相手は女子一人。スタンガンで武装していたとしても、どうにでも倒す事が出来る……そう思ったのだろう。
 だが彼は焦るあまり重要な事実を見落としていた。今この場で自由に動ける人間が、みどりと自分の二人だけではない事を。もう一人……全部で三人いる事を。
 スタンガンの電気ショックを受けていない人間は、みどりと礼門。
 そして――。
 耶美だ。
「ぐぁっ?」
 礼門が平衡感覚を失う。耶美が突然、彼の下半身にタックルを仕掛けてきたからだ。油断していた礼門はそのまま岩場に突っ伏してしまった。
「何しやがるこの……」
「みどり! 早く逃げて!」
 雨の音をものともしない耶美の叫びが木霊する。
「耶美っ?」
「犬飼の事はいい、でも姫乃だけはここで戦死させるわけにはいかない! 早く!」
 やはり耶美は姫乃を裏切ったわけではなかったのだ。倒れた礼門に覆い被さり、どうにか時間を稼いでいる。今しか脱出のチャンスはなかった。
「でも、それじゃあんたが……」
「私は一度あなたを見捨てたのよ。今度はあなたが見捨てる番。いいから逃げて!」
 桃香への恭順が演技だったと明かした今、この場に耶美が取り残されれば、どんな仕打ちを受けるかは想像するまでもない。解剖授業でさんざん彼女をいたぶった今となっては、みどりとしてもこれ以上の辱めを耶美に与えるのは本意ではないのだろう。躊躇いの感情がありありと見て取れた。
「ふざけやがってこの裏切り者が!」
 礼門は身をよじって振り払おうとするが、耶美は全身の筋力を総動員して彼に纏わりついている。だが力尽きるのは時間の問題だ。
「桃香が五年二組の支配者になってもいいのっ? 今ここで姫乃を失えば、あいつを倒すチャンスは永久に失われる!」
 その言葉に、ようやくみどりも決意を固める。男子女子戦争の最後の勝者が桃香となる事は、みどりにとって決して受け入れられない結末だった。たとえ女子軍の勝利であっても、それは五年二組にとって最大の不幸となるだろう。男子にとってはもちろん……女子にとっても。専制君主となった桃香がどんな横暴を見せるか、考えただけで寒気がするというものだ。
 スタンガンを胸の谷間に挟むと、みどりは姫乃の身体を抱き起した。そのまま岩場を後ずさって、彼女の身体ごと川の中に身を投じる。小さな川だが、浅い所でも腰くらいの深さはあった。身動きの取れない姫乃を運ぶには、おんぶよりも浮力を利用した方が確実だろう。滝壺へ向かっていた時と違って、今度は流れに身を任せるだけでいいのだから。
「離せ、この!」
 ようやく礼門が耶美を撥ね飛ばす。だが彼が身を起こした時はもう、姫乃とみどりの姿は遥か遠方にまで遠ざかってしまっていた。岩場を全力で走ったとしても、追いつけるかどうか際どい。
「――無駄よ。一組の連中に見られたら元も子もないわ」
 礼門の心中を見透かしたように、桃香が小さく呟く。気だるそうに身体を起こした。ようやくスタンガンのショックから回復したようだ。
「くそ、せっかく白鷺を倒すチャンスだったってのに……」
「心配しなくても、白鷺姫乃暗殺計画は順調に進行中よ。スタンガンは一つこっちの手元に残っているし、そもそも今回の作戦は『スタンガンが二つある事を姫乃に知らせる』のが目的だったんだから」
 二つある事を……知らせる?
 どういう意味だろう。
 虹輝は未だ自由にならない身体に苦しみながら、その言葉の真意を推し量っていた。二つ目のスタンガンは桃香にとって最大の隠し球だったはず。現にそれを使って虹輝を騙し討ちにできた。それなのに、二つ目のスタンガンの存在をばらす事自体が、作戦の目的だったとは……?
「それに何より、耶美の本性を暴けたのが最大の収穫だわ」
 桃香が残忍な笑みを浮かべる。
 確かに、二つ目のスタンガンの存在がバレても問題ないとするなら、今回の作戦で桃香が失ったものは何もない。むしろ虹輝を捕獲した上、耶美が裏切り者だと確信できたのだから、万々歳の成果と言ってもいいだろう。
「確かにな。……おら、立てよこの裏切り者!」
 礼門が耶美の髪の毛を乱暴に掴み上げ、無理矢理立ち上がらせる。彼女は電気ショックを受けたわけではないが、全身の筋力で礼門の動きを封じていたのだ。かなり体力的に疲弊しているようだった。
「あーあ、もっと色々引っ掻き回してくれるのかと思ってたけど……ガッカリだわ。まさか耶美ちゃんがこんな下らない事で、自分から化けの皮を剥がすなんてね」
「全くだぜ。よくも今まで騙してくれたな」
 礼門は鬼のような形相で耶美に迫るが、彼女は涼しい顔だった。
「下らない事かどうかは後で分かるわ。それよりさっさと私を犯したらどう? この前寸止めされたから……いいチャンスじゃない。私は処女をあげたい男子なんていないし、生理もまだ来てない。裏切り者への制裁を兼ねて、好きなだけ中出しすればいいわ」
 虚勢を張って嘘を言っているわけではなさそうだ。耶美の言葉は真実だろう。同性愛者の彼女にとって、処女を守る事に大した意味はないし、初潮がまだなら妊娠の恐怖に怯える事もない。
 だからといってレイプされて平気のはずが無いのだが……。雨に濡れたその表情には、凛とした気品すら感じられた。何らかの目的のために桃香に寝返った振りをして、彼女に奴隷扱いされる屈辱にも耐えてきたのだ。今さら凌辱される事くらい、耶美にとっては易々と受忍できる程度の事なのだろう。
「言われるまでもなくブチ込んでやるぜ!」
 逆上した礼門が耶美の体操服を引き剥がしていく。またしても姫乃を取り逃がしたフラストレーションを発散させるには好都合の相手だった。
 しかしそんな彼に、待ったをかける者がいた。
 桃香だ。
「待ちなさいよこの馬鹿ゴリラ」
「ああっ? 何だよ羽生、また寸止めするつもりか!」
「だからあんたは単細胞なのよ。考えても見なさい、どうして耶美がそうやってあんたを挑発しているのか」
「どうして……だぁ?」
「自分を犠牲にしてでも守ろうとしているからよ。……こいつをね!」
 桃香が首根っこを掴んで起き上がらせたのは、もちろん虹輝である。ようやく身体の痺れが抜け始めた彼を拘束すべく、桃香が羽交い締めにする。
「私にとってこの状況で最優先すべきは、犬飼を脱がして戦死させる事。それを防ぎたいから、耶美はあんたを挑発して自分をレイプさせようとしてるのよ。そうやって時間を稼げば、その間にみどりたちが応援を呼んでくるって計算でね」
「何の事? 私は男子軍の味方なんてするつもりはないわ」
 耶美が無表情のまま反論した。
「あらそう。じゃあ先に犬飼を脱がしちゃおうっかな。あんたの本番ショーなんて見てても面白くも何ともないし」
「姫乃を……倒すには、犬飼が生きていた方が有利でしょう? 男子軍最後の一人が戦死すれば、表向きとはいえ男子女子戦争が終わってしまう。それに姫乃は犬飼の事が好きなんだから、生かしておけば利用価値は高いわ。そんな奴、用済みになればいつでも戦死させられるじゃない」
「あらあら、ずいぶん必死ね。焦ってるのがバレバレ。そこまでして犬飼を助けたいの?」
 唇を噛んだのは耶美の方だ。
 彼女が挙げた『虹輝を生かしておくべき理由』は間違いなく真実だった。桃香としては今のところ、虹輝を戦死させるより生かしておいた方がメリットが大きい。彼が生存中なら姫乃にも隙が生まれ易いし、邪魔になれば簡単に倒す自信がある。
 しかしそれを耶美がわざわざ指摘する必然性があるだろうか? 彼女が姫乃を裏切ったのならまだしも、姫乃の味方である耶美が、姫乃を倒すために虹輝の助命を進言するなど、あまりに不自然だった。これでは「何としてでも虹輝を助けたい」と自白しているようなものだ。
「どうしてそこまでして犬飼なんか助けたいわけ? それも姫乃の指示かしら?」
「姫乃は……関係ないわ。あんたの奴隷になったのも、今回の行動も、全部私が勝手にやった事」
「でも、それは『姫乃のため』にやった事なんでしょう?」
 耶美は答えなかった。姫乃の指示が無くとも、彼女のために行動した事は明白だ。それが耶美の唯一の行動原理なのだから。
「答えなさい。さもないと犬飼を戦死させるわよ」
「そんな事をすれば……あなたにとっても都合が悪いはずよ」
 二人の美少女の視線が、雨の中火花を散らす。虹輝を戦死させるという脅しは、耶美にとって非常に効果的だったが、同時に桃香にとっても自分の首を絞める、諸刃の剣であった。姫乃の真意は知りたい。しかしここで虹輝という駒を捨てるのはもったいない。実に悩ましいジレンマだ。
「……ふん。分かった分かった、じゃあ犬飼を戦死させるのは保留にしてあげる」
 先に白旗を上げたのは桃香である。
 意外な気もするが、このまま時間を浪費すれば、得をするのは虹輝と耶美だけ。ならばさっさと耶美を辱めて、溜飲を下げた方が得だと、考えたのかもしれない。
 耶美の処女を守っておいたのは、取引の材料に使えると判断したから。しかし彼女の身柄を拘束しておけるのは、せいぜいあと十分そこそこだ。みどりたちが応援を連れて戻ってくれば、耶美は姫乃の元に帰ってしまう。それまでに彼女を傷物にしておかないと、裏切られた桃香の気が済まないし、礼門のフラストレーション解消にも繋がらない。
「その代わり、あんたが馬鹿ゴリラにレイプされるのよね?」
「好きにすればいいわ」
「へぇー、随分と殊勝な事」
 桃香の瞳に加虐の炎が灯る。
「……フフフ、でもさぁ。馬鹿ゴリラがその気にならない時は仕方ないわよね? みどりたちが応援を連れて戻ってくるのをじっと待ってるのも馬鹿らしいし、せっかくだから犬飼のおちんちん公開といきましょうか」
「その気に……ならない時?」
「あら、耶美ちゃんにしては察しが悪いわね。私をレイプして下さいって、馬鹿ゴリラ相手に色っぽく誘惑してみなさいって言ってるのよ。馬鹿ゴリラが乗って来ないなら、このまま犬飼を脱がしちゃうだけの話」
 耶美はもちろん、虹輝も礼門も、その場にいた全員が桃香の真意に気付いた。
 虹輝を戦死させないという事は、耶美がレイプされるという事だ。しかし覚悟を決めた者を凌辱したって面白味に欠ける。ならば耶美にできるだけ屈辱的な行動を取らせてからレイプしてやろう……。桃香の考えそうな事だった。
 たとえ虹輝を人質にしても、安易に姫乃との秘密を話すほど耶美は愚かではない。解剖授業の時に一度手痛い失敗をさせられたのだから尚更だ。しかし自分を犠牲にするだけなら話は違ってくる。虹輝を助けるため……姫乃との秘密を守るため……それなら、耶美はどれだけでも恥を晒すだろう。彼女の身体を好き勝手弄べるのもこれが最後だ。ならば徹底的に恥ずかしい思いをさせてやる。
 ――よくもこんな悪魔的な発想ができるものだ。
 羽交い絞めにされた虹輝には、桃香の表情を窺い知る事はできなかったが……。邪悪で好色な笑みを浮かべているであろう事は想像に難くなかった。
「ヘヘヘ……。そうだな、俺にとっちゃメインディッシュは白鷺だ。甲守の処女なんか、別にどうでもいいしなぁ」
 礼門がわざとらしく声を上げる。彼の最終目的は、姫乃と耶美と桃香の処女を奪う事。本当なら今すぐにでも耶美に飛び掛かりたいところだろう。そこを我慢して桃香の話に合わせる辺り、彼も少しは知恵を付けてきたという事だ。ただ乱暴に犯すより、ネチネチと精神的にいたぶってから凌辱した方が、何倍にも快感が増す事を彼は学んでいた。
 掴んでいた耶美の髪の毛から手を離す。フラフラとよろめいて、彼女は雨の中岩場に立ち尽くした。
「おいどうしたよ? 俺を色っぽく誘うんじゃないのか? 私の処女膜捧げますって、さっさとお願いしてみろや」
 そして耶美にとっては不運な事に、礼門は桃香と行動を共にするうち、彼女の陰湿なやり口を確実に吸収して自分の物にしていた。ただ力ずくで犯されるよりもずっとタチが悪い。
「誰が……あなたなんかに……」
「ああん? 何だその態度は。おい羽生、やっぱ気分乗らねぇから、犬飼を可愛がってやれよ」
「ま、待って!」
 慌てて耶美が食い下がる。既に弱みは握られているのだ。彼女に抵抗する術は無かった。一体どうしてそこまで虹輝を戦死させない事に固執するのか……当の虹輝にも皆目見当がつかなかったが。
「待ってだぁ?」
「待って……下さい、礼門……様」
「ふふん。言葉遣いはマシになったな。で? 続きはどうした? 俺に言いたい事があるんだろ?」
 礼門のような卑劣な人間に弱みを見せればどうなるか。それは耶美も重々承知していた。無念そうな表情で言葉を絞り出す。
「私の……処女を捧げます。どうか私を犯して下さい」
「ふん。口で言われただけでその気になるかよ。ブチ込んでほしかったら行動で示すんだな」
 礼門の増長は止まらない。今度ばかりは桃香も止めに入らないと分かっているから尚の事だ。お澄まし顔でいけ好かないクールビューティの純潔を、ようやく踏みにじる事が出来る……その感慨に浸りながら、なおかつ焦ってガッつかないだけの強い精神力を、彼はしっかりと身に着けていた。
 耶美は無言のまま、下半身を覆うスパッツを脱ぎ捨てた。スクール水着の肩紐を外し、紺色の布地をずり下げていく。お世辞にも膨らんでいるとは言い難い、しかし決してまっ平らではない裸の胸が、雨に打たれながら露わになっていった。
「よーく見ておくのね、犬飼くん? あなたのせいで耶美は強姦されちゃうのよ」
 虹輝を羽交い絞めにしたまま、桃香が悪びれもせずに言い放つ。自分がそう誘導したくせに、どこ吹く風だ。虹輝は力なくうなだれた。
「あら、いつも通りの情けない顔に戻っちゃったわね。さっきは結構、かっこいい顔だったのに。あの風見鶏もやっと自分の意見が言えるようになったのかぁ……って、正直ちょっと感心したんだけど、気のせいだったかしら」
 スタンガン片手に礼門と対峙した時の事だろうか。虹輝なりに知恵を絞って作戦を立てたつもりだったが、桃香や姫乃の方が一枚も二枚も上手だった。姫乃もきっと見抜いていたに違いない。虹輝が裏切るような行動を取ると見せかけて、桃香に一撃を加えるつもりだという事を。それを見越してみどりを配置していたのだ。虹輝を信用していなかった……いや、むしろ信用していたからこそ、何も言わずに行動を共にしてくれたのだ。
 そんな姫乃のために懸命に働いている耶美が、いま一生残るような傷を背負わされようとしている。虹輝をかばうために。
 一体なぜそこまで……。
「でもね、犬飼くん? あたしは周りの顔色窺いながら行動する人間が一番嫌いだけど」
 桃香は虹輝を引きずるようにして移動し、足元のスタンガンを拾い上げた。虹輝が倒れた拍子に落とした物だ。彼女にとっては貴重な武器である。
「――綺麗事言う人間は、二番目に嫌いよ」
 そう言って、桃香は再びスタンガンを虹輝に押し当てた。




 いよいよ、耶美の公開凌辱ショーが始まろうとしていた。
 動けない虹輝を適当な岩場に転がした桃香が、スタンガンと入れ替えるようにウェストポーチからビデオカメラを取り出す。録画を始めたカメラのレンズが、スクール水着を足から抜き取る耶美の姿を、冷酷に映し出していった。
 降りしきる雨を浴び、耶美が一糸まとわぬオールヌードを屋外で晒した。股間の生え揃った陰毛が、雨に濡れて長く垂れ下がっている。
「ぬ、脱ぎました……」
 無表情・無感動な耶美であっても、強制ストリップに慣れるという事はないようだった。恥辱にまみれた顔は隠しようがない。それに気を良くした礼門は、さらなる羞恥刑を彼女に課していった。
「脱いだから、何だよ? 服脱ぐだけなら風呂入る時にだって脱ぐだろうが」
「いったい……どうすれば……。いいんです、か?」
 男性に興味を持たない耶美にとって、男を性的に誘惑する行動というのは、思いのほか難しいようだ。そういう漫画や映像作品を見た事などないだろうし、関心を持たないから自分で想像する事もない。彼女にしてみれば、男を誘う行動を強要されるなど、死にも勝る屈辱なのだ。
「ったくしょうがねぇ奴だな。ブチ込んでほしい穴を自分で広げて、俺にしっかり見せつけるんだよ。ここに礼門様の逞しいおちんちん、入れて下さいってよ」
 耶美は目を閉じ、覚悟を決めて両足を開いていった。肩幅まで広げた後、蟹股になって割れ目を露出させていく。虹輝は知らなかったが、耶美は既に桃香の奴隷になった際、下半身素っ裸で同じポーズをとっていた。そもそも解剖授業の時には、性器の中までしっかり観察され、カメラで撮影すら許しているのだ。今さらこの程度のポーズ、どうという事でもないはずだ。
 しかし、彼女の表情は屈辱に満ちている。
 ただ裸になって性器を晒すのと、強姦して処女を奪って下さいと懇願するのでは、行動は同じでも意味合いが全く異なってくる。前者は、ただの露出行為。後者は、身も心も屈服し、全てを捧げますと完全降伏する意思表示だった。愛する姫乃をつけ狙う、最低最悪の人間のクズ相手に、一時の事とはいえ奴隷として尽くさなくてはならない。同性愛者である耶美にとって、これ以上の屈辱があるだろうか。
「礼門……様。私のここに……礼門様の逞しいおちんちん、入れて下さい」
 雨にかき消されそうなか細い声で、耶美が敗北の宣言を行う。自分の指で大陰唇を開き、美しい処女の粘膜を空気に晒していった。
「はぁ? 全然聞こえねーよ! もっと大声で言いやがれ。それに立ったまま指で開いたって、お前の毛深いマンコなんか見えるわけねーだろ。やる気あんのかオイ?」
 口調は苛ついているが、礼門の表情には最高の征服欲が満ち満ちていた。もう誰も彼を止める者はいない。残り時間にさえ気を付けていれば、このクールなレズビアンの美少女を、徹底的に辱めて凌辱する事が出来るのだ。勝ち誇った笑みが剥がれるはずもなかった。
 耶美はとうとう観念し、その場に腰を下ろした。両足を持ち上げ、見事なまんぐり返しの体勢を取る。これなら陰毛に邪魔される事もないだろう。悔しいが、礼門のリクエスト通り性器の全てを隅々まで公開する事が可能だった。奇しくもそれは、礼門が昨晩、姫乃たちの前で晒した屈辱の体勢と全く同じだ。
「礼門様! 私のここに……オマンコに、礼門様の逞しいおちんちん、入れて下さい!」
 不自由な体勢のまま、しかしお腹の底から大きな声を張り上げる。どうせもう桃香の奴隷として、礼門には性器も尻の穴も、間近で見られて舐められているのだ。諦めて性奴隷に徹するしかない。
「ふん、最初からそうやってれば良かったんだよ。しっかし相変わらず毛深いなお前。少しは手入れくらいしろよ。みっともねぇ」
「申し訳ありません、礼門様」
「ほーんと、凄い剛毛ね。同じ女として、見てて恥ずかしいわ」
 耶美の正面に回り込んだ桃香は、屈辱の体勢の彼女を、全身くまなく撮影していった。ロングショットの全身像から、恥辱にまみれた顔のアップ、薄べったい胸と乳首の接写、そしてピンクの粘膜のヒダの重なりまで……全て正確に記録していく。打ち付ける雨が、陰唇に沿って膣穴に流れ込んでいく様子までバッチリだ。
「フフフ、こんな所で雨水を受け止める女の子なんて、そういないでしょうね。ヌーディストビーチの人でももっと恥じらいがあるわよ?」
 普段なら括約筋などの働きで、女性がお風呂やプールに入っても、膣内に水が入り込む事などあまり無い。何度も出産を経験したり、加齢で筋力が衰えたりすれば入り易くなるだろうが……処女の、しかも五年生の耶美なら、こんな場所に水を流し込んだ経験などあるはずもなかった。
 しかしおっぴろげの大開脚で、しかも指で穴まで広げていれば話は別である。天に向けられた耶美の膣内には、次々と雨水が流れ込んできていた。このまま放置すれば水瓶のように、雨水をお腹一杯ため込むのかもしれない。
 時間の制約がある以上、いつまでもこの姿勢を強要されないのは……彼女にとって幸運と言うべきか。いや、その先に待っている仕打ちを考えれば、やはり不運と言うべきだろう。
「しょうがねぇ。お情けで俺様のペニスをブチ込んでやるぜ。ありがたいと思え」
「はい、感謝いたします礼門様」
「その体勢じゃやりにくいな。立って俺にケツを向けろや。上半身は前に倒してな」
「わかりました礼門様」
 セックス奴隷に堕ちた耶美は、もはや抵抗すら見せずに言われたままのポーズを取った。足を肩幅に開き、腰から上半身を折り曲げ、両手で思いっきり尻たぶを開く。膣内に溜まった雨水が内腿を伝って流れ出し、剥き出しになった肛門に容赦なく雨粒がぶつかっていった。
「あらあら。凄い恰好ね。お尻の穴に雨粒が当たる姿なんて初めて見るわ。毛も水が滴って円錐みたいに……あはは、パッと見、小っちゃなおちんちんが付いてるみたい。あんたどんだけ毛深いのよ?」
 デルタ地帯に生え揃った耶美の陰毛は、身体を折り曲げると、雨水の滴りに引っ張られて真下になびいていく。なるほど、これだけ毛深いと確かに、股間に何か余計なものが飛び出しているようにも見えた。
 女の子にとって、最も知られたくない身体の秘密を暴かれ、さんざんに嘲笑される。既に何度も二人に奴隷扱いされた耶美であるが、この屈辱に慣れる事はないだろう。
 ただ、彼女は決して涙を見せようとはしなかった。
 頬を流れる水は雨粒だけだ。気丈にも涙をこらえる事が、耶美にできる唯一の抵抗なのかもしれない。
「んじゃあ、そろそろお待ちかねの生本番といくか。嬉しいだろ、耶美ちゃーん?」
 礼門が海水パンツを下ろし、自慢のペニスを露出させる。既に亀頭は赤黒く充血し、無力な生贄を食い散らかそうと天に向かってそそり立っていた。耶美の腰を押さえつけ、ヒクヒクする肛門の動揺を楽しみながら、ついに礼門のペニスと耶美のヴァギナが接触を果たす。後は穴の中に埋めていけばいいだけだ。
「へへへ、今度ばかりはもう誰も助けちゃくれないぜ? これが漫画のワンシーンなら、都合よく助けが入るんだろうがなぁ」
「一生に一度の処女喪失シーン、ばっちりカメラで撮影してあげるわね。今日のこの瞬間を、死ぬ時までずっと記憶に留めておくといいわ。自然教室の最中に、好きでもない相手に自分からおねだりしてレイプしてもらったなんて、最高の思い出じゃない?」
 礼門が腰を突き出していく。雨のためによく分からなかったが、前戯なしでも耶美の性器はかなり濡れていたようだ。彼がペニスに手を添えて耶美の粘膜をかき回すと、ほどなく亀頭の先端が膣の入り口を捉える。さほどの抵抗もなく先端部が埋まっていった。
「お? ここで間違いねぇみたいだな。さぁ耶美ちゃん? 大人になる時が来ましたよォ?」
「ねぇ嬉しい耶美? レイプで処女喪失して嬉しい?」
「そりゃ嬉しいだろ。自分からおねだりしたんだからなぁ」
 身勝手に囃し立てるギャラリーに対し、しかしいよいよ追い詰められた耶美が反抗する事はもう無かった。力なくうなだれ、屈服の言葉を紡ぐだけだ。
「はい……嬉しいです。礼門様」
 そしてとうとう彼のペニスがメリメリと、耶美の膣内に侵入し始める。最期の瞬間に直面しても、彼女は落ち着いていた。生理はまだでも指でのオナニーの経験はあるのだ。膣への異物挿入に対しても、ある程度の柔軟性は持っている……と彼女は思っていたらしい。
 だが。
 指よりも遥かに太い礼門のペニスがねじ込まれる圧力は、耶美の想像の域を完全に超えていた。凄まじい勢いで粘膜が押し広げられ、引き裂かれるような痛みが全身を突き抜ける。それはいたいけな五年生の少女が、今まで生きてきた中で一度も経験した事のないような、身体の内側から発生する未知の激痛であった。
「ひぎぃぃぃっ!」
 恥も外聞もなく、耶美が叫ぶ。
「やめ……。あぎぁぁっ? い……た……いぃぃっ!」
 何という悲鳴だろう。
 それまでの無表情とは一転、顔をくしゃくしゃにして悶え苦しんでいる。あのクールな耶美が、まさかこんなケダモノみたいな、聞くに堪えない情けない悲鳴を上げるなんて……。虹輝はもちろん、桃香すら呆気にとられてしまっていた。
 ただ一人、礼門だけがこの反応を予想していたようだ。勝ち誇ったように言い放つ。
「ヘッ。偉そうにお澄まし顔してても、結局ブチ込まれればこのザマか。いい気味だぜ。女なんてもんはな、チンポ入れられたら男に逆らえなくなるんだよ」
 苦痛にのたうち回る耶美の事などお構いなしに、礼門はさらにズブズブとペニスを突きつけていった。限界まで引き延ばされた処女膜が擦り切れたのか、結合部からは血が滲み始めている。処女だからといって必ずしも出血するわけではないのだが……。やはりこの血を見ると、彼の征服欲が最高に満たされるようだ。さらに饒舌になっていった。
「レイプの痛みくらい耐えられる……なんて思ってたんだろ? バーカ、指とは違うんだよ。お前の身体なんか、こっちは気遣うつもりねぇしよ」
「……や……、めて……。おね……い……」
「あん? 何だって? 言いたい事があるならハッキリ言えよ?」
「やめて……。抜いて……。お願い……します……」
 背後を振り返る耶美の目には、涙が流れていた。雨とは明らかに違う、目尻から零れ落ちる大粒の涙だ。あれほど気丈に泣かなかった耶美が、こうもあっさりと涙を見せるとは。それ程までに破瓜の痛みが凄まじいのだろう。愛する男性に優しく挿入されるのならまだしも、初潮すら迎えていない未成熟の身体に、乱暴な挿入はあまりにショックが大き過ぎた。
「ケッ。こいつ泣いてやんの。しょせん女だな」
「許し……て……。いやぁ……」
「いいか、女子は男子には絶対勝てないんだよ。分かったか!」
 どんなに聡明で思慮深い少女であっても、レイプという単純な暴力の前には成す術もなく蹂躙されるしかない。それが現実だった。さしもの耶美の心も、完全にへし折られてしまったようだ。
「けど締まり具合は最高だぜ。女の存在価値なんて、上の口と後ろの穴と、この前の穴の三つだけだからな」
 嘲笑いながら、礼門は抽送を開始する。ペニスが出し入れされる度に、耶美が苦痛の悲鳴を上げるが、それは彼にとっては快感を増すためのBGMでしかなかった。強姦魔にとって女性の身体はオナホール以上の価値は無い。苦痛を労わるつもりなど毛頭ないのだ。
「――おいどうした羽生? 随分無口になったじゃねーか?」
 腰を振りながら、礼門が桃香に水を向ける。ファインダーを覗いたまま固まっていた彼女は、ピクンと身体を震わせた。
「こんなに間近でセックスを見るのは初めてだろ。ビビったか?」
「ば、馬鹿……言わないで」
 そう言いつつも、桃香の声は上擦っていた。以前にもみどりがプールでレイプされたのを見た事があるはずだが、あの時はプールサイドにいて間近で観察はしていない。どうやら礼門の言う通り、挿入の結合部を目の当たりにしたのはこれが初めてらしかった。ショックを受けたのか、さっきまでのように耶美を囃し立てようともしない。
「何よ、こんなの……フィルタリングソフト入ってないパソコンならいくらでもネットで見られるじゃない」
「そうか? 大人同士とはまた違った迫力があると思うぜ?」
 何より、顔見知りのクラスメイト同士のセックスというのがポイントだ。しかも和姦ではなく強姦。隆々とした肉の杭が、繊細な女性器を蹂躙する様は、桃香ほどの少女であっても恐怖を覚える光景らしかった。
「気を付けるこったな。白鷺に負けたらその瞬間、お前も甲守の二の舞だぜ?」
 礼門が鼻で嗤う。耶美がセックスというものを侮っていたように、桃香もまたセックスを侮っていたようだ。ビデオカメラを持つ手が微かに震えていた。
「あ、あたしが……姫乃に負けるわけないでしょ」
「そうかい。そりゃ心強いな」
「たとえ負けたって……。耶美みたいな、こんなみっともない醜態は晒さないわ」
 だが言葉とは裏腹に、桃香の表情は硬かった。それを見つめる礼門の瞳には好色の輝きが増している。スクール水着と体操服に隠された、彼女の身体のラインを想像しているのかもしれない。
 礼門はみどりに続いてとうとう耶美の処女を喰い破る事に成功した。彼が狙っているのはあと二人。本命の姫乃と……。そして誰あろう、羽生桃香その人である。耶美の膣穴を抜き差ししながら、既に礼門は想像の中で桃香を犯し始めているのだ。
 桃香が戦死すれば、その時は彼女も今の耶美のような痴態を晒すのだろうか? 虹輝は思った。もしかすると彼女が自分で言っている通り、桃香ほどの強い少女なら、レイプされても決して己を見失わないのかもしれない。成す術もなく屈服させられた耶美と違い、最後まで矜持を保ったまま身体を穢される。そうやって女の子としての、せめてものプライドを意地でも保つ……そんな姿が想像できない事もなかった。
 けれども虹輝は気付いていた。
 桃香の異変を。
 彼女は今まで常に、必ず自分が勝つという自信に満ち溢れていた。決して自分が負ける姿を想像したりはしない。それが彼女の強さでもある。
 だが今の桃香は、「たとえ負けたって……」と、自分の敗北を無意識のうちに想像してしまっていた。ペニスに喰い散らされる女性器を目の当たりにして、恐れを抱いているのだ。それは虹輝が初めて見る、桃香の弱い一面でもあった。
「ほーら耶美ちゃーん? 大人の女になったお前の情けない姿、もっとみんなに見てもらおうな?」
 礼門は彼女の身体を抱き起し、両足を下から支えて、M字開脚の体勢を取らせた。屈辱の結合部を正面に向けて大公開する。顔を伏せれば隠す事ができた泣き顔も、こうなっては視線から逃げようもない。涙だけでなく、鼻水やヨダレまで垂れ流し、雨水と共に滴らせている敗北の表情が、虹輝や桃香の眼前に晒し者となった。ほんの数刻前の、あの凛とした気品はどこに行ってしまったのか。
「お……おにぇがい……。もう……許ひて……。許ひ、て……くら……さい……」
 呂律も満足に回らずに、ひたすら屈従の言葉を繰り返す耶美。解剖授業での屈服も惨めの極地だったが、こうして再び地面を這いずり回る屈辱を味わる事になるとは、彼女にとっても予想外の事態に違いない。しかもたった一回の凌辱だけで、だ。
 手の込んだ羞恥地獄の末に桃香に敗北したのも、耶美の人生の決定的な汚点だったが、わずか一度の挿入だけで礼門に打ち負かされたのは、それ以上の汚点だった。どれだけ心の強い人間でも、単純な暴力の前には勝てない。ペニスを挿入されれば女は男に負けるしかない。否定できないその現実が、彼女の心を抉っていた。
 もっと強い精神力を持った少女なら違う結果になったのかもしれない。だが少なくとも自分は負けてしまった。礼門のような卑劣な人間のクズに、完全敗北したのだ。たった一度、レイプを許しただけで。耶美の無念は、見ている虹輝にも痛いほど伝わってきた。
「そろそろ時間も押してきてるしな。中にブチ撒けるとするか」
 礼門の腰の動きがさらに加速する。もはや耶美は哀願する気力すら失い、単なる生きたオナホールとしていいように彼に使われていた。
 いくら初潮前とはいえ、好きでもない相手の精液を胎内に出されるなど、許される行為ではない。だが屈服した耶美にそれを止める事はできなかった。一度挿入を認めてしまえば、どこで精液を出すか決めるのは男の方だ。女には、ただ「中に出さないで」と懇願する事しかできなくなる。セックスとは何と男女にとって不平等なシステムであろうか。
「おら、喰らいやがれ!」
 礼門のペニスが最深部に突き込まれた瞬間、溜め込まれた白濁のマグマが、耶美の膣内で爆ぜた。今まで誰にも穢された事のなかった聖地が、散々に蹂躙され、隅々まで汚染されてしまう。
「や……いやぁぁ……ああぁ……」
 何より耶美にとってショックだったのは、肉体だけでなく精神までもが、易々と礼門に屈した事だった。桃香の羞恥責めにも辛抱強く耐え抜いた強靭な心。耶美はそれに自負を感じていた。そんな自分の精神力が、ペニスの挿入の前には何の力にもならなかったのだ。
 これが女の性だとでもいうのか? レイプされれば女は男に屈するしかないと? 
 認めない。
 断じて認めるわけにはいかなかった。
 認めたくはないが……現に自分は負けたのだ。この卑劣な強姦魔に。
「へへへ……。とうとう甲守をモノにしてやったぜ。ざまぁみろ。本当ならお掃除フェラとかやらせたいところだが、まぁそろそろ時間もヤバいしな。本命のために残しておくとするか。何もこんな前座女相手にあれこれやっちまう事もねぇ」
 礼門がペニスを引き抜く。赤く腫れ上がった耶美の陰唇から、ほのかに朱色の混じった白濁液が、ゆっくりと垂れ落ちていった。
「白鷺の奴を犯すための準備運動としちゃ、上出来だったぜ甲守? お前も自分の無力さを思い知っただろ」
 糸の切れた人形と化した耶美の身体を岩場に下ろす。足を大きく開いたまま、彼女は突っ伏して動かなくなってしまった。全身を打ち付ける雨が痛々しい。礼門がお尻を蹴飛ばすと、胎内の精液がゴプリと溢れ出していく。
「ふん、生意気女もこうなっちゃお終いだな。……おい行くぜ羽生? そろそろ昼飯の時間だ。遅れると先公どもがうるさいぞ?」
「ええ……。わ、分かってるわよ」
 気のせいか、二人の関係はいつの間にか逆転していた。いつもは桃香がその場を取り仕切り、礼門を駒のように扱っていたのに……。カメラの録画を止める桃香には、いつもの覇気が感じられなかった。
 礼門は姫乃を倒すためだけに彼女に服従している。その目的が達せられれば……或いは、達せられる可能性が潰えれば、いつでも牙を剥くつもりなのだ。つまり桃香が姫乃に勝とうと負けようと、いずれにせよ決着が付いたその瞬間、彼女の身体は耶美のように蹂躙されてしまう。
 姫乃に勝てば、先に姫乃が犯されるから、桃香が襲われるまでには少し猶予があるだろう。だがそれは単なる順番の話に過ぎない。何らかの策を巡らせなければ、たとえ姫乃に勝ったとしても、桃香がこうして全裸で突っ伏して男子に許しを乞う事も、無いとは言い切れなかった。
「あたしは……負けない。負けない、わよ……」
 立ち去る時、彼女がうわ言のように呟いているのを、虹輝は聞き逃さなかった。




 どれくらい時間が経っただろう。
 実際にはほんの数分のはずだが、虹輝には何時間も過ぎたように思えていた。彼の身体がようやく痺れから解放されるのと、雨に打たれたままの耶美がゆっくり身体を起こすのは、ほとんど同時だった。気だるそうに四つん這いの姿となり、足を折り曲げて片膝を立てる。
「あの……大丈夫、甲守さん?」
 恐る恐る声をかけた。
「――これが大丈夫に見えるの?」
 耶美は顔も向けずに答える。どうやら呂律だけは元に戻ったようだ。
「いや、その……ごめん。僕なんかのために」
「勘違いしないで。あなたを助けるためにこんな事をしたんじゃないわ。姫乃のためよ。姫乃の理想通りに戦争を終わらせるためには……まだあなたに死んでもらうわけにはいかなかった。それだけの話」
 ふらつきながらも耶美は立ち上がった。そして自分が脱ぎ捨てたスクール水着を手に取る。その姿をぼんやり見つめている虹輝に向かって、冷淡な視線を向けた。
「あっち、向いていてほしいんだけど」
「え? あ、ご、ごめん! そんなつもりじゃ……」
 耶美がいまオールヌードである事を忘れていた。いやどう見ても一糸まとわぬ全裸なのだが、強姦の一部始終があまりにも衝撃的過ぎて、今さら全裸程度では虹輝も動じなくなっていたのだ。慌てて背を向ける。
 雨がとめどなく身体の表面を流れているせいで、耶美の身体にはほとんど凌辱の痕跡が無くなっていた。涙も鼻水もヨダレも洗い流され、噴き出した不快な汗も見る影もない。唯一、股間から内腿を伝う白濁液だけが、レイプが現実に行われたのだという事実を雄弁に物語っていた。
 水音が響く。川に入ったのか? 恐らく股間の精液をできるだけ拭ってから水着を着るつもりなのだろう。指で掻き出しても、一度膣内射精されてしまった精液は、なかなか除去できない。一晩くらいかけてゆっくり排出されるのだ。
 本来なら膣内射精とは、大切なパートナーとの子供を作るための愛情に満ちた行為であるはずだった。確実に妊娠できるように、精液がしっかりと胎内に残る仕組みになっているのは当然だ。耶美は初潮前だから妊娠の危険はないが、スクール水着の股布に精液が付着し、不自然な汚れになってしまうと、家族に不審がられるかもしれない。男子女子戦争の秘密を守るため、念には念を入れているのだろう。
「この際だからハッキリ言っておくわ」
 水音を立てながら、耶美が虹輝の背中に言葉をかける。
「私は犬飼くんの事、嫌いよ。だってあなたは私の恋敵だもの。それも決して勝ち目のない恋敵。好きになれるわけないでしょう?」
 虹輝は何も答えなかった。耶美は姫乃の事が好き。しかし姫乃は虹輝の事が好き。姫乃が同性愛者でないなら、耶美が虹輝に勝てるはずが無かった。
「でもそれとこれとは別。男子女子戦争では、桃香が戦死するまで、私は姫乃と犬飼くんを死んでも守るわ」
「どうして……僕を……?」
 死んでも、という言葉は決してオーバーな表現ではなかった。レイプされる事は、女にとって殺されるも同じ。現に今さっき、その死にも勝る屈辱を耐え抜き、虹輝を守ったのだ。彼女の言葉は重みの桁が違った。
「ここまでしてあげたんだから、桃香より先に死ぬなんて絶対に許さない。姫乃と一緒に、必ず桃香を倒してちょうだい」
 耶美は虹輝の問いには答えなかった。どうしてそこまで虹輝を守ろうとするのか。姫乃の目指す戦争の終らせ方とは何なのか。話すつもりならとっくに話しているだろう。あくまで口を割るつもりはないという事だ。
 虹輝は質問を変えた。
「じゃあ……。羽生さんを倒したら、その後は? 生き残ってるのは僕と、姫乃さんだけになるよね?」
 滝の音と雨の音に混じって、みどりや姫乃の叫び声が聞こえてきた。応援を連れて戻ってきてくれたらしい。バシャバシャと水音が響いた。耶美が川の中でスクール水着を身に付けているのだ。
「もうこっちを向いてもいいわよ」
 振り返ると、耶美は川から上がり、水着の肩紐の位置を直していた。
「桃香を倒した後どうするかって? そんなの決まってるじゃない」
 彼女は冷めた瞳で虹輝を見据える。
「姫乃と戦って、負けて、戦死してもらうわ。最後に勝つのは女子軍だもの。姫乃が五年二組の支配者になるために、私は戦っているの」
 その言葉が本心なのかどうか、今の虹輝には、まだよく分からなかった。
 
 
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