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第八話 『裏切り者は誰だ?』

2014-01-09



(※ 本話はショタ同士がメインです)


 ――夢を、見ていた。
 それはとても懐かしい昔の出来事だ。
 昔と言っても、実際にはまだほんの数か月前の事でしかないのだが……しかしとても遠い記憶のように思えてならない。それほどまでに、この数か月間は濃密な時間だった。男子女子戦争が始まってからの、彼ら五年二組のメンバーの過ごした時間は。
 思えば遠くへ来たものだ。
 きっと……。あの頃にはもう、決して戻れないのだろう。
 彼も。
 そして、彼女も。
「ごめーん、待ったぁ?」
 校舎裏で佇む少年に向かって、少女が手を振って駆け寄っていく。
「いや、いま来たとこ。何だよ改まって用事って?」
 少年はサッカーボールを足元で転がしながら、朗らかに笑った。ずいぶん急いで走ったのだろう。少女の息は荒い。桜の木に寄りかかり、しばらく呼吸を整えていた。
「えへへ……ちょっと、ね。そ、そうだ! またクッキー焼いたんだ。味見してくれる?」
 本題に入る前に、と彼女はランドセルを下ろして中から包み紙を取り出し始める。可愛らしいパステルカラーの包装紙に、ピンクのリボン。明らかにそれは、味見のために用意したラッピングではなかった。これが本番。そのためにわざわざ用意したプレゼントなのだろう。
 しかし少年の方は気付いていないようだった。「おう、いいぜ」と無造作に受け取り、リボンを解いて中身をつまみ出していく。
「今度のはね、自信作。スノーボールクッキーよ。こっちのがココア味で、こっちは紅茶味。隠し味にお父さんのラム酒をちょっと入れてみたんだ」
「へぇー……。おう、旨い旨い! やっぱお前って料理上手だよなぁ。今すぐにでも結婚できるんじゃね?」
「け、結婚って……バカ、なに言ってんのよ!」
 少女は顔を真っ赤にしながら、しかしまんざらでもない笑顔を浮かべていた。
「まぁ確かにあたしの旦那様になる人は幸せ者だと思うけどね!」
「で、用事ってのは何だよ? もうすぐサッカーの練習が始まるし、時間かかるんならちょっと連絡入れておかないと……」
「うん……それなんだけど……」
 ランドセルを背負い直す。春風が一陣、吹き抜けて、桜の花が舞い踊った。
「あ、あのさ……」
 もじもじと身をくねらせ、少女の頬が桜に負けないくらいピンク色に染まっていく。その様子を見れば、彼女が何を言わんとしているのか、勘の良い者なら気付いたかもしれない。残念ながら、少年は勘の悪い方だったが。
「あ、あたしたち……今日から高学年になったわけじゃない?」
「まぁな。いよいよ五年生だ」
「同じクラスになれて良かったよね?」
「別に……四年の時も一緒だったじゃねーか」
「べ、別々になるよりはいいでしょ!」
「ガキん頃からお前とはいつも一緒だったからなぁ」
「五年生は自然教室とか、あるのよ? 同じクラスの方が色々と都合がいいに決まってるわ」
「都合って?」
「だから、それはその……」
 煮え切らない少女の態度に、段々と少年の苛立ちが募っていく。次の予定の時間が迫っているから尚更だ。
「何だよ、お前らしくない。言いたい事があるならハッキリ言えよ?」
「つまり、えっと……。い、いい機会だからさ……」
 少年の言葉に悪気は無い。ただ本当に、恐ろしいほどニブイというだけなのだ。しかしそれは今の状況においては――、つまり、少女が勇気をもって愛を告白しようという状況では、実に残酷でもあった。悪意が無いだけに始末が悪い。
「あ、のね……。あたしと、つ、つ……付き合わないかって、思うの!」
 一世一代の覚悟で、少女がついに言い放った。
 何日も前から、少女漫画や恋占いを参考に、告白のセリフを考え抜いてきたはずだった。推敲に推敲を重ねたロマンチックな愛の調べ。しかしいざ本番となると、何一つ思い通りの言葉にならなかった。頭が真っ白になって、用意したセリフも全て吹っ飛んでしまっている。本当はクッキーだって、告白と同時に渡すつもりだったのに……。
 しかも少年は、その懸命に絞り出した告白すら、正確にその意味を理解してくれなかったようだ。キョトンとした顔で、あっさり「いいぜ?」と返してきたのだ。
「またどうせ買い物に付き合えって言うんだろ? 今からは無理だけど……今度の土曜なら一日付き合ってやるよ。まったく、女ってのは何でああも買い物が好きなのかねぇ」
 違う。
 違うのだ。
 そういう意味で「付き合って」と言ったんじゃない。それくらいフィーリングで分かるだろうに。もはや少女の心は呆れを通り越して怒りに変わりつつあった。こっちは必死の思いで告白したのに。告白だとすら認識してくれないなんて、酷過ぎる。
「ば……バカぁ! 違うわよッ!」
 顔を紅潮させて少女が怒鳴った。
「な、何だよ急に?」
「付き合ってって言ったのは……要するに、その……。こ、恋人になろうって意味よ! それくらい察しなさいよッ! この馬鹿ちん!」
「こい……びとぉ?」
 本当に気付いていなかったらしい。少年はぽかんと口を開け、それから思い出したように顔を桜色に染め始めた。今頃その反応か。あまりにも遅すぎる。
 お互い、視線を合わせられずに足元を見つめた。何とも気まずい雰囲気だ。こんなはずじゃなかったのに……どうしてもっと漫画みたいに上手く告白できなかったのだろう? 春風が再び桜の枝を揺さぶっていく。花びらの雨が二人を濡らした。
「……返事」
 地面に落ちた桜の花びらを、爪先で砂にまぶしながら、少女が口を尖らせる。
「え?」
「返事、聞かせてよ。女の子から告白させといて、無視するつもり?」
 視線を落としたまま言い放った。今度は少年がドギマギする番だ。せわしなくあちこち視線を巡らせて、困ったように頭をかき、足元のサッカーボールを弄ぶ。彼にとっては予想だにしなかった展開なのだ。その反応も責められはしないだろう。
 どれくらい時間が経ったのか。
 ようやく少年が口を開く。だがその言葉は、少女が想定していたいずれの返事とも異なる、まるで突拍子もない、意外な反応であった。
「よく……わかんねぇや」
 は?
 少女の目が点になる。
 わか……んない、ですってぇ?
 人が決死の想いで紡ぎ出した告白に対して、ようやく飛び出した反応が、「わかんない」? その返事の方が、少女にとってはよっぽど「わかんない」ものだった。
「だってよ、お前とは幼馴染みでいつも一緒だっただろ? 友達っつーか、もうほとんど家族みたいな感じでさ、あまりにも身近すぎるんだよな。今さら、恋人とか告白とか言われても、ピンとこないっていうか」
「な……何よそれ……」
「お前とは今まで通りの関係でいいじゃねーか。その方がしゃちほこ張ってなくてお互い楽だしさ。ずっとそれで上手くやってきたんだ。五年生になったからって、別に改まって変える必要なんかねーよ」
 少年のその言葉は、やはり悪気は無かった。
 彼は告白をやんわりと断るためにこんな言い方をしているのではない。本当の本当に、心の底から少女に家族同然の好意を抱いているからこそ、殊更に恋人関係になる必要などないと――。そう、本心から純粋に思っているだけなのだ。
 だがやはりその言葉は、悪意が無いだけに始末が悪かった。
「あ、あたしなんかじゃ彼女にできないってわけ? いつまでもいいお友達でいましょって事っ?」
「何でそうなるんだよ?」
 少女が激昂するのも無理はない。
 彼女とて、長い付き合いだから、少年の真意には当然気付いていた。だがそれで大人しく「あんたらしいわね」などと笑い飛ばせるほど、まだ少女は大人ではなかったのだ。そしてそれ以上に、少年に対する想いがあまりにも純粋過ぎた。
 ――今思えば、この時のすれ違いが、全ての悲劇の始まりだったのかもしれない。
 最初にかけ違えられたボタンが、やがて取り返しのつかない大きな歪みとなって、延いては五年二組のクラス全体を二分する争いにまで発展していってしまったのだから。この時点ならいくらでもボタンをかけ直すことはできた。過ちを取り戻す方法はあった。
 しかしそれができるほど、少年も少女も、自分の心に素直になれなかったのだ。相手の心をおもんぱかってやれなかった。二人はまだまだ……子供だったわけだ。
「じゃあ、俺もう行くわ。練習始まっちまう」
 少年は足元のサッカーボールを爪先の上に乗せ、ポンと蹴り上げて両手に収めた。ボールに纏わりついていたピンクの花弁が散っていく。
「ちょ……待ちなさいよ! まだ話は終わってないわよ、士郎!」
「また明日、教室で聞いてやるよ。じゃあな、桃香!」
 そう言って、少年――明石士郎はグランドの方へ駆け出して行った。後に残された少女――羽生桃香は、憤懣やる方ないといった様子で、彼の背中を見送るしかない。
「何よ……何なのよ。いったいあたしがどんな気持ちで、ここに呼び出したって思ってるのよ。何日も前から、どんな気持ちで、今日って日を待ったと思ってるのよ。それなのにこんな……こんなのって……」
 春風に煽られ、桜の花びらが一面に舞い続ける。可憐な春の花は、残酷なまでに美しかった。
「馬鹿……」
 桃香が叫ぶ。
「士郎の、馬鹿ぁぁぁーっ!」
 その最後の雄叫びは、果たして夢の中だったのかそれとも現実だったのか。
 ともあれ、桃香はそこで目を覚ました。
 ベッドから跳ね起き、周囲を見回す。そこは紛れもなく彼女の自室であり、ベッドの上だった。当たり前だ。今更、あんな過ぎ去った昔に戻れるはずなどないのだから。
「……嫌な、夢。よりによってあの時の事を夢に見るなんて……」
 乱れた前髪をかき上げる。
 昨日は長きに渡る宿願――女子軍のクーデターと、甲守耶美の戦死を成し遂げる事が出来たのだ。本当ならもっと晴れ晴れしい気持ちでベッドから起きたいところだったのに。随分目覚めの悪い朝だった。
 もしかして、桃香は心のどこかで自分の行いを、後ろめたい事だと感じているのだろうか?
 クラスメイトを陥れ、騙し討ちにして辱める今の状況を、悔やんでいるとでも?
 だからあんな昔の夢を見た?
 ――馬鹿な。考え過ぎだ。
 桃香は自分の心に浮かんだ迷いを一笑に付した。
 明後日からは自然教室が始まる。切り崩し工作に残された時間は、今日と明日の二日だけ。戦いは既に始まっているのだ。過去を振り返っている暇など、今の桃香には一瞬だって存在しない。一分一秒が惜しかった。
「最後まで生き残るのは……あたしよ」
 カーテンを閉めたまま、桃香は絞り出すように呟いた。夏の強い日差しは、暗い部屋の中にまでは、まるで届いてこなかった。




 戦況は概ね、桃香の想像した通りに推移しつつある。
 耶美が戦死した翌日。
 彼女はやはり、他の戦死した女子がそうであったように、体調不良を理由に学校を欠席した。雑魚女子たちはいつも通りに姫乃と接していたが、その態度はどこかよそよそしい。そして女子軍での居場所を失った姫乃は、士郎たちと接触し、改めて男子軍と同盟を結んだようだった。桃香を倒すまでの期間限定の同盟といったところだろう。その行動自体が、いっそう雑魚女子たちの顰蹙を買うのは間違いなかったが、背に腹は代えられなかったらしい。
 かくして、その日の放課後。
 早速、士郎と清司は、暮井祢々子を体育用具室へと呼び出した。もちろん、桃香やみどりを連れず、一人で来るように指定して。手始めに裏切り易そうな人間から切り崩しを始めようというわけだ。
「なーるほど。桃香ちゃんを裏切って、そっちの味方をしろっていう、お誘いなんだね?」
 祢々子としてはそんな申し出に応じる義理も無かったのだが、士郎と清司の二人による呼び出しという点が少し引っかかった。どうせ自分はもう戦死した身。件の二人も同じく戦死した人間なのだから、必要以上に警戒する必要も無いだろう。薄暗い体育用具室の中で男子二人と向き合いながら、彼女はそう思っていた。
「でもさ、そそのかすんなら祢々子じゃなくて、みどりちゃんがいいんじゃないの? ぜったい恨んでるよね、桃香ちゃんの事」
「もちろんあいつにも接触してるさ。けど、宇崎が桃香を裏切るなんて、誰でも予想できるだろ。桃香本人だって、それは織り込み済みのはず」
「そんな奴が裏切ったところで、羽生の奴に大したダメージは与えられない」
 士郎と清司の言葉に、祢々子はなるほどと頷いた。みどりは桃香に捨て駒にされ、以前プールの授業中に礼門にレイプされている。処女喪失の上に中出しまでされて、まぁその後無事に生理は来たようだが、それで水に流せる話でもなかった。
 昨日、耶美にその恨みをぶつけてたっぷりと仕返しはしたものの……果たしてそれで彼女の気は晴れたのだろうか? 答えは間違いなくノーだ。むしろ耶美への報復を済ませたために、自分を陥れた残り二人――。桃香と礼門に対する憎しみがより強く激しくなっているであろう事は想像するまでもなかった。
「宇崎に加えてお前も桃香を裏切れば、あいつにとってかなりの痛手になる。鮫島先生や礼門の奴は、利害関係の一致で仲間になっているだけだからな」
「羽生にとって信頼できる人間は、根墨ひとりになるわけだ。お前が裏切るか否かで随分状況が変わってくる」
「ふーん、言われてみればその通りだね」
 祢々子はぴょんと後ろに飛び跳ねて、巻き取られた体育マットの上に腰かけた。両足をプラプラさせて思案し始める。
「ま、最近の桃香ちゃんってちょっとギスギスしてるしぃ。祢々子的には別に裏切ってもいいかなぁ。祢々子もみどりちゃんも男子に恥ずかしい写真撮られちゃってるのに、桃香ちゃんだけ完全ガードなんて不公平だもんねぇ」
 いったい、自分が言っている事の重大さをどれだけ理解しているのか。祢々子はまるでトランプのゲームでもやっているかのような気軽さで、易々と裏切りの可能性を言い放った。つい先日、耶美を裏切り者としてさんざん罵倒して辱めたというのに、だ。
 この裏切りを匂わせるセリフ自体が士郎たちを騙すフェイクというのなら大した役者だが、実際のところ祢々子にそこまでの知略は望めないだろう。彼女は単純に、男子女子戦争という枠を超えたレベルで、友人である桃香との関係を俯瞰しているのかもしれなかった。
 あるいは、もっと別の理由によるものか。
「……で? 話はまだ終わりじゃないんでしょ? 今までの話じゃ、祢々子が桃香ちゃん裏切っても何にも得にならないもんねぇ」
 そう言ってゆっくりと足を組む。ミニスカートが微かにめくれ、幼い太ももの向こうにチラリと白い下着が顔を覗かせた。
「用意してあるんでしょ? 祢々子にとって、美味しい話がさ?」
 その美味しい話が何なのか、彼女は薄々感づいていた。そもそも、士郎と清司の二人が呼び出したという時点で、そこに明確なメッセージが隠されていたのだ。それゆえ祢々子はのこのこと二人の要求通り、誰にも内緒でこの体育倉庫までやって来たのである。
「へっ、お見通しってわけか。話が早くっていいぜ」
 士郎はランドセルを下ろし、中から銀色の塊を取り出した。デジタルビデオカメラだ。それを祢々子に手渡す。
「わぁ、すごい! 高そうなカメラじゃん?」
「家からこっそり持ち出してきた中古品だけどな。そいつを貸してやるから好きなだけ撮ればいい。もちろんデータはお前のものだ」
「撮るぅ? えー? いったい何をぉ? 祢々子わかんなーい」
 じゅうぶん察していながら、祢々子はわざと気付いていない様子で士郎に尋ねた。何が何でも彼の口から言わせたいらしい。中々どうして、幼い顔立ちの割に意地の悪い少女であった。士郎は苦笑いを浮かべて宣言する。
「決まってるだろ。俺と清司が、男同士で愛し合ってるところさ」
 何だってぇ? と間髪入れず面食らった声を上げたのは、祢々子ではなく清司の方だった。どうやら事前に聞かされていなかったようだ。寝耳に水といった様子で士郎に詰め寄っていった。
「どういう事だよ、俺は何も聞いてないぞ!」
「おう、だって何も言ってねぇし。あらかじめ説明しておいたら、お前絶対来なかっただろ? 秘密にしておいたのも、今回の計画を立てたのも、全部白鷺のアイディアさ。恨むんならあいつを恨むんだな」
「あの女ぁ……」
 祢々子がボーイズラブ愛好家であることは、五年二組のメンバーなら誰でも知っている。現に清司が桃香に負けて忠一に犯された時も、彼女がその様な言葉を口走っているのが動画に記録されていた。
 一方、清司が本当に同性愛者かどうかは、まだ不明のままだった。あの時の動画では、桃香と祢々子が勝手にそう推測して囃し立てているだけで、清司本人は口をつぐんだままだったからだ。その後も何も語らなかったし、士郎も普段通り清司に接していた。クラスメイトの間でも、何となくその話題はタブーといった雰囲気である。
 だが祢々子には分かっていた。
 清司が本当に士郎の事を恋愛対象として見ている事を。
 二人が実際に愛し合えば、最高の見世物になる事を。
 そんなお宝映像が撮影できるのなら、桃香を裏切る事くらい、祢々子にとってはお安い御用と言うものだ。一瞬の躊躇すら必要なかった。姫乃もそれを見抜いたからこそ、士郎に今回の切り崩し工作を指示したのだろう。
「お前は……それでいいのかよ。男同士でそんな、事するなんて……。しかもクラスの女子に撮影されながらだぞ?」
 戸惑う清司の言葉にも、士郎は飄々と反応していた。
「確かに俺にはそういう趣味は無いけどな……けど、別に嫌悪感も無い。一度やってみるのも面白そうじゃねーか」
「面白そうって、お前なぁ……」
「心配しなくても、俺たちが愛し合うビデオは暮井しか見る事は無いぜ? そうだろ? 桃香を裏切る約束で手に入れたビデオを、他の女子に見せられるわけがない」
 昨日、あれだけ耶美を非難しておいて、舌の根の乾かぬうちに自分が裏切り者になったと知られたら、女子の中で孤立するのは火を見るよりも明らかであろう。これは同時に、祢々子が確実に桃香を裏切るという保険でもあった。
「今までの会話は、俺が持ってるICレコーダーでずっと録音している。もし暮井がビデオを撮るだけ撮って、そのくせ桃香を裏切らなかったら、俺は録音内容をクラスの奴らに公開してやるさ。どっちにしろあいつの信用はガタ落ちだ。つまり、俺たちのビデオは暮井以外の目には触れられないし、ビデオさえ渡せば暮井がこっちに寝返る事も間違いない。男子軍が大きな利益を得ると分かってるんだったら、やらない手は無いんじゃないか?」
「それは……そうだけど」
「人生何事も経験ってね。もしかしたら俺も今回でそっち系に目覚めちまうかもしれねぇし……それに誰でもいいってわけじゃない。相手が清司だから、俺だってこの話を受けたんだ。他の奴じゃさすがに断ったぜ?」
「何だよそれ……」
 二人が口論している間に、祢々子はビデオの電源を入れて操作方法を確認し始める。このくらいのカメラなら彼女でも問題なく扱えた。ファインダーを覗くと、レンズの向こうの清司が口を尖らせるのがよく分かる。
「俺は……本気なんだぞ。ずっと士郎の事……その、気にしてたんだ。それなのに、こんな――」
「あははは、鷲尾くんは相変わらず乙女チックだねぇ」
 カメラを構えたまま祢々子がケラケラと笑う。清司がキッと睨み付けてきたが、彼女は気にせず言葉を続けた。
「ひょっとしてさ、最初にきちんと告白して、OKもらったら恋人になるって思ってる? キスとかエッチとかは、恋人になってからするものとか? 今時そんなのダサいって。出会ったらまず速攻でエッチしてみて、身体の相性が良かったら恋人になればいいんだよ」
「またどっかのレディコミか何かの話、鵜呑みにしてるなこいつ……」
「ぶつぶつ言ってないでさぁ。正直なところ、明石くんとエッチしたいんでしょ? だったらせっかくのチャンス、きちんと生かさなきゃ。寝て待ってるだけで恋が叶うなんて白雪姫みたいな話は、現実には無いんだよ」
 祢々子としてはお宝映像さえ撮れればそれでいいのだ。桃香を裏切る事にも抵抗は無いから、ICレコーダーで会話を録音されようと全く気にしない。口八丁手八丁に清司をおだて上げてその気にさせればこっちのものだった。
 しかし一方で、彼女の言葉がある種の正論であることも間違いないだろう。同性愛はまだまだマイノリティの存在だ。男同士にしろ、女同士にしろ、フィクションの世界でテーマとされる事は少なくないが、実際に自分が受け入れられるという人は少数派だった。自分の想いが叶う確率は、普通の男女の恋愛より遥かに低いのが実情なのだ。ならば数少ないチャンスをみすみす見逃す手は無い。
「どうするんだ清司? 俺は全然構わないんだけど?」
 相変わらずのポーカーフェイスで、士郎が肩をすくめる。抵抗があるのはむしろ清司の方だった。なまじ真剣な恋愛感情があるからこそ、女子の前で見世物にされる事に強い抵抗を感じるわけだ。
 視線をあちこち散らしながら、頬を紅潮させてうつむく姿は、間違いなく恋する乙女の表情そのものだった。祢々子が楽しそうにその恥じらいの顔を撮影していく。
「一度……」
「うん?」
「一度、始めたら……」
 意を決したように、清司が顔を上げる。
「……と、途中で止めろって言っても、もう止まらないからなっ」
「ああ、わかってるさ」
「か、覚悟しろよ……。士郎」
 男子女子戦争に勝つため。
 暮井祢々子を仲間に引き入れるため。
 そう自分に言い聞かせたのか、清司はようやく了承の意志を見せた。祢々子に向かってコクリと縦に頷く。クラスメイトの女子の目の前で、士郎と男同士で愛し合う事を、承諾した瞬間だった。




「んじゃあ、まずは二人でキスしてもらおうっかな。お互いファーストキスだよね?」
 満面の笑みで祢々子が指示を飛ばす。それはカメラマンを兼ねた映画監督の姿さながらであった。アーティスト気取りで交互に二人の表情を捉えるが、士郎も清司も、どちらもはにかんで中々行動に移ろうとしない。まぁ初めて男同士でセックスしようというのだ。当たり前と言えば当たり前の反応だった。
「んもう、やってもらいたい事は一杯あるんだからさ、ちゃんと監督の指示に従ってもらわないと、日が暮れちゃうよ? 祢々子に仲間になってほしいんでしょ?」
 口ではそう言いながらも、祢々子はこの焦らされる感覚も存分に楽しんでいた。照れながら徐々に大胆になっていく過程が肝心なのだ。最初から平然とキスされたらちょっと興醒めである。
 埒が明かないと思ったのか、大きく息を吐いて、士郎がついに行動を起こした。そっと右手を持ち上げ、清司の頬に優しく添えていく。たちまち、触れられた頬が赤く染まっていった。
「……ほ、本当にやるん……だな」
「何を今さら。俺とじゃ嫌か?」
「嫌じゃ……ない。むしろ……その、嬉しいって……いうか……」
 清司の視線が泳ぐ。とても相手の顔を直視できないらしい。そんな初々しい反応に笑みをこぼし、士郎が歩を進めていった。ぐいっと顔を近づける。
 思わず目を閉じる清司。
 その半開きの唇に、士郎は己の唇を、そっと重ね合わせていった。触れ合った一点で唾液が混じり合う。二人の身長は同じくらいだから、無理のない体勢でキスする事が出来た。
 なんて――、綺麗なんだろう。
 祢々子はファインダー越しにそう思った。男同士のキスが美しいのは漫画の世界だけかと思ったけれども、幼さの残る少年だからか、現実に再現されたそれも決して二次元に劣るものではなかった。
 耶美は女同士で愛し合うのが好きらしいが、祢々子には全く理解できない感情である。女同士のキスなんて想像しただけでも気持ち悪い。けれど、男同士のキスを傍から眺めるのはうっとりするほど甘美な瞬間だった。それを演じている二人が、自分のよく知るクラスメイトならなおさらだ。
 数秒の後、二人が一旦唇を離す。
 両者の間に、もう無駄な照れや恥じらいは無かった。お互いしっかりと視線を絡め、再び唇を近づけていく。いわゆる、スイッチが入ったという状態か。躊躇わずに唇を重ね、自然と舌まで絡ませていった。
 嫌悪感が無いという士郎の言葉が本当なら、彼にも男同士で愛し合う素質があったという事だ。お互い共鳴し合うように、二人は祢々子の視線も忘れて一心に唇を求め合った。それぞれ両手を背中に回し、強く抱きしめ合う。
「いいよいいよ? 盛り上がってきたじゃない。じゃあ鷲尾くん、次は明石くんの服を脱がしていって」
 嬉々とした祢々子の指示にも、清司はもはや反発しなかった。相手のTシャツの裾を半ズボンから引っ張り出し、そのまま脱がしていく。士郎も大人しく両腕を掲げてこれに従った。女子の命令で、男子同士が服を脱がし合う……普段の男子女子戦争ではあまり見られない光景であろう。
 この場にいる三人が、全員戦死したメンバーだからこそ、実現できた光景かもしれない。生存していないからこそ、祢々子は一人で体育用具室にやって来たのだし、士郎も清司も交渉のために同意の上で恥を晒している。レアな映像が記録できる喜びに、祢々子のボルテージは鰻登りになっていった。
「早く早くっ。次はズボンを下ろすの!」
 そして興奮しているのは祢々子だけでなく、清司もまた同様だった。見世物にされているとはいえ、好意を寄せている男子の服を脱がす事ができるのだ。耶美が姫乃の使用済みスクール水着でオナニーしたように、彼もまた士郎と愛し合う姿を想像しながらオナニーした事もあったはず。はやる気持ちを抑えきれず、逡巡もなく士郎の半ズボンを引き摺り下ろした事を非難するのは酷というものだ。
 こうしてあっという間に、士郎はブリーフ一枚の姿となった。相変わらず、青いラインの入ったお子様パンツである。祢々子がニヤニヤとそのアップを撮影していく。
「ふふ、パンツはお馴染みの可愛いブリーフだねぇ。中身は少しは成長したかな? 鷲尾くん、最後の一枚、お願いね!」
 さすがに申し訳ないと思ったのか、屈んでいた清司が顔を上げた。士郎と視線を交わす。だがそれは意味のない躊躇いである。祢々子を満足させるためには、この程度で恥ずかしがっていては話にならない。彼が頷くのを確認して、清司は腰のゴムに指をかけ、ゆっくりとブリーフを引き下ろしていった。
 以前、虹輝をかばって桃香に負けた時に晒し者にされた、士郎の包茎おちんちんが再びその姿を暴かれる。祢々子がここぞとばかりにアップでファインダーに収めていった。
「あは、ちょっとは大きくなってる感じかなぁ? まだしっかり先っぽまで皮に覆われてるけど、だいぶ中のおちんちんの形が分かるようになってきたし、毛もちょっぴり濃くなってるみたいだね。うん、立派立派」
 小馬鹿にしたような祢々子の言葉は、即ち士郎のおちんちんが大して成長していない事を意味している。彼女は自分の携帯を取り出し、画像フォルダの中から、以前撮影した士郎のおちんちん画像を表示させた。ディスプレイ一杯に撮影した、どアップ画像である。それを士郎がいま実際に丸出しにしているおちんちんの隣に並べる。一月以上も前のおちんちんと現在のおちんちんとを並べて見比べようという意地の悪い仕打ちだった。
「へぇーえ、こうやって並べると、まぁ少しは成長してるのが分かるね。ま、元々すごく小っちゃいおちんちんだったから、成長してもぜんぜん小っちゃいままなんだけど。だって……ふふふ、携帯の画面に実物大ですっぽり収まっちゃうんだもんねぇ。小さ過ぎ!」
 祢々子がケラケラと笑って勝ち誇っても、士郎も清司も何も言い返せなかった。彼女の機嫌を損ねるのは得策じゃないというのもあるが、何よりおちんちんを丸出しにした男の子というのはとても弱い生き物なのだ。
 どんなに強くてカッコ良くて、男子軍のリーダー的存在であっても、パンツを脱がされて丸裸になれば、たちまち女の子にも負けてしまう情けない男子に成り下がる。男の子にとっておちんちんとはそれほど大切な存在であり、絶対秘密の場所であり、最大の弱点でもあった。女の子に見られるなど、本来であれば決してあってはならない事態なのである。まして写真に撮られて弱みを握られるなんて……想像を絶する恥ずかしさのはずだ。
 そして当然、次は清司の番である。
 靴下と上履きを残して素っ裸にされた士郎が、今度は直立不動の清司の服を一枚ずつ脱がしていく。もちろんその間、士郎は両手を使っているから、おちんちんを隠す事も出来ない。取引として自ら望んだ事とはいえ、無念さや恥ずかしさは痛いほど伝わってきていた。――祢々子にとってそれは痛快以外の何物でもなかったが。
 半袖のカッターシャツの前をはだけ、袖から腕を抜き、ベルトを緩めてカプリパンツのボタンを外した。これを脱がせば清司も下着一枚だ。「いいか? 下ろすぞ?」と声をかけ、士郎が静かに八分丈のズボンを引き摺り下ろしていく。
「あれ?」
 祢々子がキョトンとした声を上げた。一瞬戸惑ったようだが、すぐに状況を呑み込んだようだ。ニヤニヤとレンズをズームしていく。
「ひゅうーひゅうー、鷲尾くんったら、カッコイイ下着穿いてるんだねぇ。トランクスって言うんでしょ? この前、プールの時にはブリーフだったのに」
 彼女が指摘した通り、清司のパンツは柄物のトランクスだった。これなら白地のブリーフと違って汚れも目立ちにくい。以前プールで桃香の策略に負け、下着の汚れまで嘲笑されたのがよほど堪えたのだろうか。あの一件によって下着を変えたであろう事は想像に難くなかった。
「前に祢々子たちに馬鹿にされたから、ママに頼んで買ってきてもらったのかな? 男のプライドってやつ? クスクス、かーわいい」
「う、うるさい……」
「いくらパンツがカッコ良くなっても、中身が前のままじゃ逆に間抜けだよねぇ。少しはおちんちんも成長してるといいんだけど。――明石くん、そろそろやっちゃって頂戴」
 いくら成長期と言っても、たかだか数週間で見違えるほど変わるわけではあるまい。それを承知の上でわざと祢々子は煽り立てているのだ。
 もし急激に立派になっていたのなら、それはそれで面白い展開だった。一度見た相手の裸でも、時間が経てば大きく変貌するから、何度見ても見飽きる事が無い。それが第二次性徴期特有の羞恥なのだ。身体の成長の過程を見られる事は、ただ裸を見られる事よりずっと恥ずかしい。成長していない事を見られるのはさらにその上を行く恥ずかしさだ。
 士郎の指がトランクスのゴムを広げ、徐々にずり下げていく。身体を硬直させて羞恥に耐える清司。以前、毛も生えていないとさんざん祢々子たちに笑いものにされたあの可愛らしいミニサイズの包茎おちんちんが、改めて下着の端から顔を見せた。果たして、その成長具合は――。
「ぷっ」
 祢々子が思わず失笑する。カメラは冷徹に真実を映し出し、永久に劣化しないデジタルデータとして全てを記録し続けていた。
「そうだとは思ってたけど、見事な包茎おちんちんだね。ぜーんぜん成長してないじゃん。せめて毛くらい生えてればまだ格好はついたかもしれないけど……産毛も生えてないんじゃどうしようもないなぁ」
 トランクスが足から抜き取られる。丸出しの子供おちんちんに向けられる容赦ない嘲笑。耐えかねたのか、清司はたまらず祢々子に言葉を返した。
「お、お前だって毛なんか生えてなかったじゃないか。俺たちの前でウンチ漏らしたくせに、偉そうな事言うなよ」
「あれぇ? そういうこと言うんだ? 祢々子に仲間になってほしかったんじゃないのぉ?」
「ぐ……」
「それにぃ、祢々子が生えてないなんて、どうして断言できるのかなぁ?」
「なに言って……。前に俺たちに見られただろ」
「それってもう何週間も前の話じゃん。あれから結構時間経ってるんだから、もしかしたら祢々子にも毛が生えてきてるかもしれないよ? あー、でも鷲尾くんにはそれを確認する方法なんて何もないよねぇ。だって祢々子は服着てるから、生えてるかどうかなんて外から見ただけじゃ絶対わからないもん。今のお二人さんみたく、みっともないすっぽんぽん丸出し状態だと、生えてるかどうかも一目で分かっちゃうけどさぁ」
 祢々子はさも楽しげに言い放った。
 確かに彼女は以前、男子軍の罠によって、士郎や清司たちの目の前で大便をパンツの中にお漏らしするという醜態を晒した。それは女の子として取り返しのつかない汚点だろう。あの惨めな姿を記録した動画や画像は、今もクラスの男子全員が所有し、いつでも好きな時に見ているに違いない。その敗北の事実は決して消える事は無かった。
 だが、今この瞬間において。
 祢々子が一枚たりとも服を脱いでおらず、逆に士郎と清司はほとんど洋服を身に着けていない素っ裸という状態で。
 そんな過去の失態に、いったい何の意味があるというのだろう。
 衣服を身にまとう文化とは、己の地位や名誉を象徴する装飾品が、長い年月を経て服飾に変化していったものだという説がある。現代においても、衣服とは自らのステータスであり、同時に身体の秘密を他者の視線から守る鎧でもあった。だからこそ、服を着ている者と着ていない者との間では、絶対的な立場の違いがあるのだ。
 今、祢々子は服を着ている。
 そして士郎と清司は服を着ていない。
 両者の間には、天と地ほどの立場の差があった。その事実の前には、祢々子が過去に晒した恥など、何の効力も持ちえない。祢々子は圧倒的な勝者であり、主人であり、この場を支配する者。対して、男子二人は決定的な敗者であり、奴隷であり、この場で服従する者。それが紛れもない事実なのである。
「明石くん。鷲尾くんのおちんちんを口で可愛がってあげて」
 クラスメイトの女子の命令に、粛々と士郎が従っていく。抵抗しようとしないのは、自発的に仲間になってもらうよう、祢々子の機嫌を損ねまいとする彼なりの配慮だった。だが同時に、服を着ている祢々子に無意識のうちに隷従しているからでもあるだろう。それほどまでに、裸にされるという仕打ちは致命的な羞恥を与える行為なのだ。
 直立不動の清司の前に跪き、士郎はおずおずと彼のおちんちんに顔を近づけていった。よく子供おちんちんは、有名なスナック菓子になぞらえて『とんがりコーン』などと揶揄されたりもするが、まさに清司のそれは紛れもない『とんがりコーン』であった。包皮に覆われたシルエットは親指ほどの円錐形。亀頭の形は判別できず、陰毛も全く確認できない。そのくせ一丁前に射精はできるのだから人間の身体とは本当に面白いものだ。
 士郎の視線を感じ、清司の『とんがりコーン』はムクムクと天を仰いで硬度を増しつつあった。わずかに大きさはアップしているが、それでも可愛らしいサイズには違いない。もちろん勃起しても皮はしっかりと先端まで包まれたままだ。士郎が舌を出し、包皮の先端にそっと触れる。
「……あっ」
 愛する人に舐めてもらった快感に、おちんちんがピクンと跳ねた。
「気持ちいいか、清司?」
 聞かれるまでもない。士郎の問いに、彼はコクンと頷く。もう祢々子が見ていようと関係ないようだった。とにかく快感を得たい。そんな欲望で心が一杯になったのか、はしたないおねだりを自分から始める始末だ。
「は、早く……。して……くれ」
「そう焦るなよ。ちゃんと咥えてやるから」
 包茎おちんちんは、亀頭と包皮の間に尿や精液が流れ込み、恥垢となって異臭を放つ事もあるという。女子の性器もきちんと洗わないと、ヒダの隙間に恥垢が溜まるが、それと同じだ。ある程度清潔にしておけば健康には問題ないものの、愛撫とあれば抵抗を感じる人も少なくないかもしれない。
 だが士郎は何の気負いもなくパクリと清司のおちんちんを口に含んだ。唇をすぼめて根元をしごき、舌先で先端をソフトタッチする。もしかしたらおしっこの塩味が口に広がるかもしれないのに、よくそこまでできるものだ。本当に相手に好意を持っていなければ難しいだろう。
「凄……気持ち……。いいっ!」
 刹那、清司が腰をガクガク震わせて、思わず両手で士郎の頭を押さえつけた。彼の口の中で、おちんちんの先端から白濁液が飛び出す。士郎がたまらず目を白黒させた。
「え? もうイッちゃったの? ちょっとぉ、早過ぎでしょ鷲尾くん? 十秒持たなかったじゃない! サイテー、超早漏!」
 呆れたような祢々子の声も、清司には届いていなかった。想像を絶する快感が全身を貫き、腰が抜けてぺたんとその場で尻餅をつく有様だ。想いを寄せる相手のフェラチオがまさかこれほどの快感を生むとは……本人もさぞ驚いているだろう。
 一方の士郎は、生まれて初めて他人の精液を口に含み、どうしたものかと思案していた。こんな事もあろうかと、ランドセルの中にはティッシュ箱も入れてあったが、しかし折角の精液を吐き出してしまうのも芸がない。迷った末、コクリと飲み込んでしまった。
「うわ、明石くん、ひょっとしてザーメン飲んじゃった?」
「ああ……漫画じゃよく飲んでるだろ? うっひゃぁ、やっぱりちょっと変な味だな……」
「やだー、精液って性病のウイルスを媒介するから、飲んじゃ駄目なんだよ。あんなの漫画の中だけだって。まぁ鷲尾くん相手なら大丈夫とは思うけど」
「お前が『漫画の中だけ』とか言うかな……」
 飲んだ方が祢々子のウケもいいだろう、と思ったのも理由の一つだったのだが、士郎としては肩透かしを食らった格好だった。彼女も意外とこういう所では現実的でシビアである。
「まぁいいや。じゃあいよいよ本番と行きましょ」
 カチンコの代わりに指を鳴らし、祢々子監督がクライマックスの撮影に入る。言うまでもなく、士郎と清司の本番セックスシーンだ。
 ノリノリになったのか、やけっぱちになったのか、ともかく士郎も自分から進んでアクションをとった。未だ放心状態の清司を四つん這いにして、お尻を高々と上げさせる。開かれた両足の間に割って入り、尻たぶを掴んで左右に大きく広げていった。お尻の谷間に隠されていた、清司のピンク色の肛門が、差し込む夕日に照らされてヒクヒクと蠢いている。
 耶美のような美少女でも肛門はグロテスクなすみれ色だったのに、清司のそれは花びらのように可憐で美しい佇まいだった。士郎が顔を近づけ、ぺろりと舌で舐めさする。
「ひゃぁっ?」
 少女と聞き紛うような愛らしい悲鳴を上げ、ようやく清司が我に返った。自分が四つん這いにされ、あまつさえ肛門を丸出しにして、好きな男子にそこを舐められているという現状を改めて自覚する。
「やめ……駄目だ士郎……。そこ……汚い……」
「汚くなんかないさ。清司のなら、俺は平気だぜ?」
 確かに清司の言う通り、そこには僅かに便汚れも付着しているようだった。まさか士郎と愛し合う事になるなんて思ってなかったのだから仕方ない。体育用具室にシャワールームでも完備されていれば話は別だが。
 それでも士郎は気に留めなかった。もう一度、丹念に肛門を舐め上げる。清司の肛門なら、たとえ汚れていても平気だという彼の言葉は……間違いなく一切の嘘偽りが無いようだった。むしろ便汚れを拭い去るかのようにピチャピチャと舌を這わせていく。
「暮井、俺のランドセルにワセリンが入ってるから、取ってくれないか」
「わせりん? ああ、ハンドクリームみたいなやつ? へぇ、そんなものまで準備してるなんて、明石くん周到だねぇ」
「昨日、虹輝に保健室を任せて、放課後いろいろ買い出しに行っておいたんだよ」
 祢々子からワセリンのケースを受け取ると、士郎はそれをたっぷりと人差し指にまぶしていった。昨日の放課後に準備していたという事は、姫乃が保健室で目を覚ます前にあれこれ買っていたという事になる。今回の『祢々子切り崩し計画』が本当に姫乃の発案だったのかどうか、少々怪しいものである。言い出したのは彼女かもしれないが……少なくとも、士郎自身そういう展開をある程度予想していたのは間違いなかった。
 士郎の人差し指が、ゆっくりと清司の肛門に挿入されていく。彼のお尻の穴が少し汚れていたのは、今日排便を済ませていたから。つまり裏を返せば、いま清司の腸内には邪魔な物が何も残っていないという事だ。ワセリンの助けもあって、その直腸はすんなりと士郎の指を受け入れ、熱い肉壁で揉み解すように締め上げていった。
「うわっ……凄ぇ……。ギチギチに咥え込んでくる」
「い、言うなよ……。恥ずか……しい」
「鷲尾くんのお尻の穴はエッチだねぇ。それが指じゃなくておちんちんだったら、どんなに気持ちいいんだろ? ――あはは、ひょっとして想像しちゃった? 明石くん、おちんちん勃っちゃってるよ?」
 祢々子に指摘されて士郎が頬を赤らめる。指摘された通り、彼の幼いペニスはすっかり挿入のための準備を整えつつあった。男相手でもきちんと大きくなるものなのか。いや、清司相手だからこそ、の反応なのかもしれない。
 士郎は自分のおちんちんにもたっぷりとワセリンを塗り込んでいった。清司の肛門も程よくほぐれたようだ。後はもう、その大事な場所に逸物をぶち込むだけである。
「入れるぞ……清司」
「あ、ああ……。その、あんまり慣れてないから……優しく、してくれ」
 清司は目を閉じてじっと羞恥に耐えていた。慣れていないのは事実にしても、以前忠一に犯されて非処女になったのだから、彼は立派な経験者だろう。まぁ睨まれるのが分かっているので、祢々子もあえてそんな水を差すような事は言わなかったが。
「ところでさ、明石くんって童貞なの?」
 逆に士郎の方に声をかけた。彼は慎重に清司のお尻に狙いを定めている。
「ああ、セックスって初めてだな」
「それだけおちんちんが小っちゃかったら、楽に入ると思うよ。馬鹿ネズミさんもそうだったし。ねぇ、ノンケなのに男子相手に童貞捨てるってどんな気分? 女の子の方がいいとか思わないの? せっかくの筆おろしなのにもったいなくない?」
 邪魔するつもりはないのだが、口を開くと自然と意地悪な質問が飛び出していった。何だかラブラブな雰囲気になってきたから、どうにかして恥ずかしい思いをさせたくなってきたのだろう。どうも祢々子はこう見えてサディストの気もあるようだった。
 だが士郎は即座に「別に」と答える。
「そりゃ、女子に興味ないわけじゃないけどさ。でも、清司が相手なら気にしない。俺の初めてが清司だなんて、悪くないと思うぜ? むしろ嬉しいくらいだ」
「士郎……」
 清司が肩越しに背後の士郎を見上げる。その頬は真っ赤に染まっていた。……馬鹿馬鹿しい、見ていて呆れるほどのラブラブ振りではないか。祢々子は肩をすくめ、諦めて撮影に徹する事にした。
 そしてとうとう、士郎の包茎おちんちんの先端が、清司の肛門の入り口を捉える。包皮に包まれた亀頭がわずかに肉の門をこじ開けつつあった。
「ここで……いいんだよな。いくぜ、清司?」
「ああ……。来て、くれ……士郎」
 清司のお尻を抑えていた手に力を込める。ぐぐっと腰を突き出し、士郎のおちんちんが肛門の中へとねじ込まれていく。
「あ、入って……くぁっ!」
「大丈夫か? いったん抜くか?」
「心配……するなって。いいから……そのまま……」
 忠一に犯された時は、ワセリンなど用意していなかったから、今より遥かにキツかったはずだ。清司は苦痛に耐えているというより、愛する人の分身が自分の身体に埋まっていく、その快感をしっかりと噛みしめて味わっているようだった。
「ね、根元まで……入った、ぞ?」
 士郎の腰が清司の臀部に密着する。ついに二人は、一つに繋がったのだ。
「こ、れが……セックス、か……」
 正確にはアナルセックス――しかも男同士のセックスだったが、士郎にとっては紛れもない初体験であった。紛う事なき童貞卒業である。あまりの快感に、腰を動かす事も忘れて直腸の感触を味わっていた。
 一方の清司も未知の感覚に戸惑っているようだった。以前忠一のおちんちんに貫かれた時は、苦痛と汚辱の感情しか湧いてこなかったのに、今回はまるで充足感が違う。愛する男子のおちんちんというだけでこれほど違ってくるものなのか。……そんな困惑が手に取るように観察できた。
 祢々子はさも楽しげな顔で清司の痴態を撮影していたが、こっちの事など最早どうでもいいらしい。どれだけ恥を晒してもいい。嘲られてもいい。今この瞬間、士郎との快感を味わうことができたなら、何がどうなっても構わない……。
 昨日、媚薬を塗られた耶美が、どうして姫乃のスクール水着であれほど乱れ、オナニービデオまで撮られる失態を晒したのか。今の清司を見ていると、その理由が何となく想像できるのだった。
「うご……かすぞ、清司」
「ああ……。ゆっく……り」
 ようやく士郎が抽送を開始する。
 しかしいくら彼のおちんちんがミニサイズだからと言っても、締め上げる肛門の力をかわせるほどの小ささではなかった。肉茎を絞られ、たちまち絶頂へと押し上げられていく。射精の瞬間は、呆気ないほど早く訪れた。
「だ、駄目だ……もう、出……ああっ!」
 僅か数回動かしただけで、士郎の腰が震え、清司の直腸内に精液がぶちまけられる。その熱さにおののく清司。表情には困惑の色が見て取れた。彼としては、もっと士郎との愛の営みを楽しみたかったというのが本音だろう。士郎も清司に負けないほどの早漏だった。初めてのセックスでそこまで要求するのも酷というものだが。
 快感のあまりへなへなと腰砕けになり、士郎がその場で尻餅をつく。おちんちんを抜き取られた清司の肛門はパックリと口を開け、中出しされた精液がわずかに漏れ出していった。
「情けないなぁ、鷲尾くんも明石くんも早すぎ。ちょっとは我慢したら? そんなんじゃパートナーを全然満足させられないよ?」
 祢々子が見下したような口調で士郎の姿を撮影する。射精を我慢する事の難しさは、女の子には到底理解できない感覚だ。まして五年生の男の子の筆おろしである。自制がきかないのは当然だった。
 かばうように清司が向き直る。
「……いいんだよ、早くても回数こなす奴もいるからな」
 そのまま士郎の股間に顔をうずめ、おちんちんを口に含んでいった。さっきまで自分の腸内に入っていた性器。いくら便塊が残っていなくても、幼い肉棒にはわずかな汚れも付着していた。それを丹念に舐め上げ、綺麗にしていく。愛しい人の大事な場所だ。どんなに汚くても清司は気にするそぶりを見せなかった。
「ほら、もう元気になってきたぜ?」
 口を離すと、士郎のおちんちんは再び硬度を取り戻していた。狭い肛門で抽送を繰り返したためか、天然のコンドームだった包皮がわずかにめくれ、先端が露出しかかっている。清司がいたずらっぽく指で弾いた。
「士郎、これもう剥けかかってるぞ? 一度剥いてみるか?」
「え? いや……いいよ。剥いた事なんて……ないし」
「へぇー、おちんちんの皮の下って見た事ないなぁ。ちょっと剥いてみてよ、鷲尾くん」
 五年二組の男子で、未だにおちんちんを露わにした事が無いのは、虹輝ただ一人である。もう一人の生存メンバーである礼門は、みどりを凌辱した際にそのペニスを自慢げに見せつけていた。
 実はこのクラスの男子で包茎でなかったのは、見られていない虹輝を除けば、礼門一人だけだった。祢々子はその時更衣室にいたので、皮の剥けたおちんちんを生で見た事は一度もない。せいぜい、父親と一緒にお風呂に入る時に見るくらいだ。ぜひとも、同級生の亀頭を直接拝んでみたかった。
「や、やめろ……よ、清司。そんなの……」
「なんだ、怖いのか士郎。心配するなって。無理しなくても剥けそうだ」
 清司が包皮を上下に動かす。それはオナニーする時の仕草にそっくりだったが、皮を剥かれるという未知の感覚は、士郎を慄かせるには十分だった。男子軍のリーダー格という普段の様子からは想像もつかない、情けない表情で自分の股間を見つめている。
「俺も剥いた事ないけど、ほとんど自然に剥けかかってるんだ。あとはもうちょっと手で押し下げてやれば……ほら、剥けた」
「あひっ」
 天に向かってそそり立つおちんちんが、ついに秘密のベールを脱ぎ去り、その全てを露わにした。祢々子の構えるカメラが決定的瞬間を隙なく撮影していく。恐らく、両親はおろか本人さえ見た事のない、おちんちんの秘密の中身が――、生まれて初めて、外気に触れた瞬間だった。
 ピンク色の亀頭はまだ発育途中といった様子で、実に初々しい。おしっこや精液が熟成された恥垢が、薄くまとわりついていた。漂ってくる独特の匂い。しかし清司にとっては決して不快な匂いではなかった。
「い……た……。戻して……くれ……頼むから……」
 泣きそうな顔で士郎が懇願する。未知の感覚にすっかり萎縮しているようだ。しかし包皮がおちんちんを締め上げる状態……いわゆる嵌頓包茎でない限り、別に怖がることは無い。むしろこのまま放置して慣らしておいた方がいいくらいだった。
 そもそも、おちんちんを包む皮膚は、元々勃起した状態を基準に生成されている。平常時は小さくなっているから、皮膚は余ってしまうのだ。この皮膚が二重に肉棒を包んでいる状態が、包茎なのである。
 当然、包茎時に先端に位置している皮膚は、剥いた状態だとおちんちんの中ほどに移動する事になる。包皮輪とか包皮口と呼ばれるこの場所は、初めて剥いた時はどうしてもおちんちんを強く締め上げてしまうわけだ。ペニスと包皮の構造や位置関係をイメージする事さえ難しい、祢々子のような女の子には、何がそんなに痛いのかさえよく分からなかった。
「……綺麗だぜ、士郎の」
 清司が亀頭に舌を這わせる。異臭を放つ恥垢を丁寧に舐め上げていった。
 最近は、育児書などでも『おちんちんムキムキ体操』などと言って、幼い頃から剥き癖をつけようというアドバイスがなされる事が多い。日本では『仮性包茎』という造語が作られ、平常時から皮が剥けていないと異常とされる風潮があるが、実際には勃起時に剥けていれば機能的には何の問題もなかった。恥垢の汚れにしても、人間には元々身体の汚れを自然に排出する機能があるのだ。よほどの異常がない限り、普通に清潔に保っておけば、子供の頃から無理に剥いて中まで洗う必要は無かった。
 清司の唾液で包まれ、士郎のおちんちんが清められていった。今まで包皮越しにしか得られなかった刺激が、ダイレクトに亀頭に伝わってくる。たまらず腰を震わせる士郎。
「駄目……だ、もう……。ああっ!」
 瞬間、亀頭の先端の尿道口から、再び精液が噴出していった。白い飛沫が清司の顔面に降り注ぎ、半開きの口の中に入っていく。
「わ、精液ってその穴から出るんだぁ……初めて見た。フフフ、いい画が撮れたわぁ」
 祢々子が感心したように撮影を続けるが、もはや士郎も清司も彼女の存在など視界に入っていなかった。頬に付いた精液をぺろりと舐め取った清司が、たまらず士郎を押し倒す。うつ伏せにして、強引に尻たぶを割り開いていった。
「も、もう我慢できない……。士郎、入れさせてくれ!」
「ちょ、た、タンマ……待てって、清司っ?」
 置いてあったワセリンを指ですくい、士郎の肛門にねじ込んでいく。
「へぇ、鷲尾くんってウケ専かと思ったら、タチもいけるんだ。リバだったんだね。祢々子的には明石x鷲尾のカップリング推しだったんだけど、鷲尾x明石も悪くないかも」
 祢々子の揶揄など気にも留めず、士郎の肛門をほぐしていく。同性愛の世界では、セックスで受け身になる側を、ウケとかネコとか呼称するのだ。逆にリードする側をタチなどと言い、両方担える者はリバーシブルを略してリバと呼ばれる。
「言っただろ……。一度始めたら、途中で止めろって言われても、もう止まらないってな」
 自分の包茎おちんちんにもワセリンを塗り込み、清司が士郎の穴へと挿入していった。サイズがサイズだけに、案外すんなり咥え込まれていく。
 これで清司も晴れて童貞卒業。士郎に至っては、童貞と処女を同時に喪失したわけだ。快感に耐えられず、清司が激しく腰を振り始める。
「何よもう……祢々子の事なんか置いてけぼり? 失礼しちゃうわ」
 しっかり撮影は続けながら、彼女は口を尖らせてぼやいた。いくらからかいの言葉をかけても反応してくれないのは少々残念である。だが一生モノの貴重なお宝映像が撮影できることに違いは無い。蒸し暑い体育用具室の中で、ひたすら身体を重ね合う二人の少年の姿を、祢々子は丹念に記録していった。
 何より、この映像は祢々子一人が独占できるのだ。桃香でさえ見る事は無い。それは無上の優越感を彼女に与えていた。
 今までは男子を虐める時でも、必ず桃香が中心となり、祢々子はみどりと一緒にそのおこぼれに預かるだけだった。それに関して不満に思った事は無い。人には向き不向きがあるのだ。桃香は派閥の中心にいるタイプだし、祢々子は取り巻きが向いている。桃香を押しのけて自分が輪の中心に立とうなどという、不相応で大それた考えを持つつもりは一切無かった。
 しかし桃香を出し抜いて、自分一人で男子を服従させる快感が、これほどのものとは予想外だった。今回はあくまで交渉の上で合意があったからこそできた事。祢々子一人で男子を罠にかけて虐める事などできないだろう。それは分かっていたが、桃香を裏切る事が、意外と爽快感を伴う事は、自分自身驚いていた。
 祢々子は右手でカメラを操作しながら、左手をショーツの中へと潜り込ませていく。男子の前でオナニーする事に一瞬躊躇したが、どうせその男子二人はもっと恥ずかしい姿を晒しているのだ。今更オナニーくらい何だというのだ。こんな扇情的な光景を見せられて、自慰を始めない道理は無かった。
 ウサギさん柄の木綿のショーツが、モコモコと艶めかしく動く。幼い指でスリットを撫でると、たちまちはしたない水音が響き始めた。
「すげ……清司、激し……過ぎ!」
「士郎、ああ……。好きだ、士郎!」
 男子二人もすっかり自分たちの世界で盛り上がっていた。士郎を背後から抱きすくめ、清司が右手で彼のおちんちんを、左手で乳首を刺激していく。首筋を舌で愛撫すると、士郎が肩越しに振り向いた。そのまま当然のように唇を重ね合う。祢々子の愛液と二人の唾液の絡み合う音が、狭い室内に響いていった。
「ああ、もう、俺……」
「いいぜ……。イこう、一緒に……」
 清司の腰と右手の動きがさらに加速する。清司は二回目、士郎に至っては三回目の射精だというのに、その瞬間はあっという間に訪れた。
「あああぁぁっ!」
「い……くぅぅぅっ!」
 二人のおちんちんの先端から、快感の迸りが飛び立っていった。同時に祢々子もオルガスムスに達する。
「ひゃぁぁああっ!」
 全身を痙攣させる三人。
 次の瞬間、ぐったりと脱力していく。
 だが――。これで終わりではないだろう。未知の快感を覚えたての二人は、こんなものではまだまだ満足しない。祢々子が見ていようと見ていまいと……満足しようと満足しまいと、精力の尽き果てるまでお互いを求め合うに違いなかった。
 ムッとする熱気の中、汗まみれの裸の少年二人の粗い呼吸が、いつ果てるともなく続いていた。




 同じ頃、五年二組の教室では、桃香たちによる作戦会議が開かれていた。居合わせているのは、鮫島と礼門の二人だけ。桃香はリズミカルに足を動かしながら、二人に自然教室での作戦を説明していたのだ。
「――というのが、白鷺姫乃暗殺計画の全貌ってわけ。どう? 悪くないでしょ?」
 自分の席に腰かけたまま自慢げに鼻を鳴らす。
「なるほど。悪くねぇ」
 礼門は感心しきりと言った様子だった。前回の麻酔薬作戦が失敗した事で、彼は姫乃凌辱のために桃香の知略が不可欠であることを痛感している。頭脳戦は得意ではないが、彼は馬鹿ではない。自分の身の程はわきまえていた。姫乃を凌辱するまでは、たとえ桃香の子分のような扱いを受けても、粛々とそれを受け入れる覚悟はあるのだ。
「けど暮井と宇崎には声をかけなくて良かったのか? 作戦の頭数にも入ってねぇみたいだが……」
「あの二人は駄目よ」
 上履きを上下させつつ、桃香があっさりと切り捨てる。
「どうせ今頃、男子軍に懐柔されてあたしを裏切るよう仕向けられてるはずよ。最初からあの二人になんか期待してないわ」
「言うねぇ。宇崎が俺たちを恨んでるのは当然だろうが、暮井まで裏切るのが前提ってわけか。さっすが桃香様だぜ」
 礼門がおどけてオーバーに肩をすくめて見せた。
「……てことは羽生。先生も頭数に入ってないから、裏切るのを前提って事なのかい?」
 割って入ったのは鮫島だ。彼は事務机でテストの採点をしながら、じっと桃香の作戦に耳を傾けていた。
「鮫島先生は姫乃にしか興味ないんでしょう? その点に関して、二人の裏切りは心配してないわ。ただ、きっと姫乃は斑鳩先生を仲間に引き入れようとするはず。だから鮫島先生は昨日みたいに派手には動けないのよ。ま、手伝ってくれなくても、他の先生や一組の連中にバレないよう、フォローと後始末さえしてもらえれば十分だわ」
「なるほどね。そういう事なら先生も、近いうちに斑鳩先生の弱みをどうにか握っておかないとマズいなぁ。おちおち白鷺をオモチャにもできん」
 とても教師とは思えないような鬼畜なセリフを、飄々と言い放つ。どうにも心の内が読みにくい男だった。桃香が自分の足元を見ながら尋ねる。
「でも不思議ね。鮫島先生は姫乃を凌辱したいんでしょう? 昨日の郷里の作戦が上手くいっていたら、姫乃はこの馬鹿ゴリラにレイプされていたのよ。どうせあの子はまだ処女だろうけど……自分以外の男に持っていかれても良かったの?」
 男性はやたらと『初めて』にこだわるという。和姦強姦を問わず、相手が処女なら喜ぶし、ファーストキスを奪う事にも執着する。セックスのみならず、あらゆる面において『その女性にとって初めての男』になろうとするのだとか。逆に女性は『その男性にとって最後の女』になりたがる傾向がある。自分と付き合うまでの女性遍歴に興味は無いが、いざ自分と付き合い始めた以上、他の女性には目移りしてほしくなかった。
 これはセックスが子孫を残す手段だと考えれば、ある意味当然だ。子種をまき散らす側の男性にとって、処女の女性は、確実に自分の子孫を残せる絶好のパートナーとなる。DNA鑑定で自分の子供かどうかを調べられる現代社会ではナンセンスな発想だが、非処女なら既に他の男の子供を宿しているかもしれなかった。生物学的本能としては、処女を好むのはオスとして当然なのである。
 一方女性は、一度子供を宿すと、妊娠・出産という命がけの行動を経なくては子孫を残せない。堕胎手術などという技術が無かった時代は特にそうだ。だから子種を受け入れた相手には、責任をもって自分のパートナーになってもらわなければ困るのである。
 そう考えると……白鷺姫乃に異常に執着する鮫島が、彼女の処女を奪う事にこだわっていないのは、異常と言わざるを得なかった。
「なんだ? 郷里はどうしても白鷺の処女膜をぶち破りたいのか?」
 ストレートな物言いに面食らいながらも、礼門は素直に頷いた。
「そりゃ……そうだろ。他の男が食った後の白鷺なんか、犯したってあんまり面白くねぇ」
「ハッハッハ、お前らは子供だな」
「何ぃ?」
「分からんのか? 処女にこだわるのは、非処女になった時点でその女の価値が下がると思っているからだ」
 採点の赤ペンの動きを止め、鮫島が礼門と桃香を一瞥する。
「お前たちは白鷺姫乃がどれほどの存在なのか、まるで分かっちゃいない。あの女は、たかが処女喪失した程度で価値が下がるような、そんな凡夫の存在ではないのだ。白鷺を食いたければ好きなだけ食うがいい。お前たち程度では白鷺を穢す事は出来んだろうがな。お前たちが満足した後で、先生がゆっくりと白鷺を可愛がってやるさ。彼女に――」
 その瞳に、狂気の光が宿った。
「本当の地獄を、見せてやる」
 礼門が、そして桃香さえもが、異常な迫力に気圧される。もしかして……。鮫島を仲間に引き入れた事は、取り返しのつかない失敗だったのではないだろうか。一瞬、桃香はそう思った。彼が姫乃のみに執着している以上、姫乃以外の人間には実害が及ばない。そう考えて男子女子戦争の秘密を話したのだが……。
 姫乃を穢すためなら、何をしでかすかわからない。そんな怖さが、鮫島にはあるのだ。
「あの……桃香様……」
 彼女の足元で、おずおずと、か細い声が漏れ出してきた。
「あ、足を……止めないで下さい。もっと、虐めて下さい。お願いしますぅ……」
 実は桃香の足元には、根墨忠一が素っ裸になって寝転がっていた。さっきから彼女が足をリズミカルに動かしていたのは、仰向けに蟹股になった忠一のおちんちんを、上履きで踏みつけていたからだ。鮫島の迫力につい足の動きを止めたのを、忠一が懇願してきたのである。
「うるさいわね、ご主人様に命令する気?」
 ムッとした桃香が、足をおちんちんから離す。
「あ、ああっ! そんなつもりじゃなかったんですぅ、申し訳ありません桃香様ぁ!」
「スパイとしてバレた時点で、もうあんたの利用価値なんて何も無いのよ。それをお情けでまだ飼ってやってるっていうのに……奴隷の分際で何様のつもりよ!」
「申し訳ありません! 許して下さい、桃香様!」
 慌てて忠一が起き上がり、土下座して許しを乞うた。額を床に擦り付けて泣きながら無礼を詫びる。だがもう、そんな情けない姿を見ても、桃香の心には何の感情も湧いてこなかった。嫌がる男子を服従させ、そのプライドをズタズタにするから楽しいのだ。最初から服従に快感を見出している男子を虐めても面白くもなんともない。
 スパイとして利用できる間は重宝していたが、それも昔の話である。桃香は自分から姫乃たちに忠一の正体をバラし、清司を倒す際にとうとう男子軍にも種明かしをした。それは、正体が判明するのが時間の問題だったからだ。
 士郎たちはどうか知らないが、少なくとも姫乃たちは薄々、忠一がスパイだと目星をつけていた。そう桃香は睨んでいる。
 だから動かぬ証拠を突きつけられる前に……あるいは忠一の存在を敵勢力に利用される前に、こっちから正体を明かして最後のひと働きをさせたのだ。清司の戦死を勝ち取り、耶美がスパイだという確証も得られたのだから、結果としては万々歳であった。
 ……最後に、根墨忠一という、利用価値のない男子が一匹手元に残ってしまった点を除いては。
 こうやっておちんちんを踏みつけている間は、彼もストレス発散にだけは役立っていた。しかし今ではもう完全に飽きてしまっている。何せ桃香は昨日、宿敵の姫乃の親友である耶美を徹底的に辱める事に成功したのだ。耶美を素っ裸にひん剥いて、公開オナニーショーをさせ、ついには泣きながら土下座させてやった。その充足感に比べれば、忠一の土下座など何の面白みもない、見飽きた光景なのである。
 もし耶美が忠一の代わりに桃香の飼い犬になってくれれば、こんな楽しい話は無いのだが……まぁ無理な相談だろう。
 耶美がどれほど姫乃を想っているのかは昨日嫌と言うほど見せつけられた。確かに彼女は桃香に屈服し、「二度と逆らいません」と隷属の誓いを立てたが、あんなものはその場のノリで言わせたに過ぎない。士郎や清司が桃香に負けた時も似たようなセリフを言わせたものだ。しかし彼らは未だに男子軍の一員として、いちいち桃香に歯向かってきている。
 今日は学校を休んだものの、明日くらいになれば、きっと耶美も顔を見せるだろう。そして今まで通りクールビューティとして、そして姫乃の右腕として桃香を戦死させようとしてくるに違いない。クラス全員に軽蔑の目で見られても、姫乃のために働けるなら、全く気にも留めない。耶美はそういう人間だった。彼女を飼い犬にするには、姫乃を倒すくらいの大事業を成し遂げなければならないのだ。全く持って厄介な話である。
 ――そう、桃香が思っていた、まさにその時。
 ガラリと教室のドアが開け放たれた。
 三人が一斉に入り口に視線を向ける。どうせ忠一は机の陰に隠れているから気にしなくていい。それよりも、こんな放課後に一体誰だ?
 無言で五年二組の教室に入ってきたのは……。
「あら……珍しいお客さんね。悪の巣窟にいったい何の御用かしら、耶美ちゃん?」
 誰あろう、甲守耶美その人であった。
 欠席したにも関わらず、わざわざ放課後に学校まで駆けつけてきたのか。よほどの用事があったのだろう。昨日の醜態などまるで無かったかのように、無表情のまま歩み寄ってくる。
「おう甲守、体調はもう良いのか? 先生心配したんだぞ?」
「へへ、明後日は自然教室だ。こんな所に来てないで、家で毛深い陰毛の手入れでもしてた方がいいんじゃないか?」
 白々しい鮫島の労いも、見下した礼門の嘲りも無視し、耶美はまっすぐに桃香の前へと進み出た。視界の端に、すっぽんぽんで土下座する忠一の姿が入る。だがわずかに一瞥するものの、やはり眉ひとつ動かさずに彼女は視線を戻した。すっかり元のクールビューティに戻ったようだ。
「……お願いがあります」
 冷静沈着な声が響く。
「お願い? あたしに? 何かしら?」
 口元にニヤリと笑みを浮かべ、桃香は足を組んだ。『お願い』などという言葉を桃香に向けて発するなど、以前の耶美では考えられない事だった。実に興味深い。果たして、彼女の『お願い』とは――?
 無表情のまま、感情のこもっていない口調で、耶美は言い放った。
「私を、桃香様の飼い犬にして下さい」
 言うなり、その場で膝を着き、忠一と並ぶように土下座の姿勢を取る。何のためらいもなく額を床に擦り付けた。
「へぇ……面白い事を言うのね」
 桃香は全身を駆け抜けるゾクゾクした感触を楽しんでいた。忠一の土下座では決して得られない快感。昨日さんざん味わったあの悦びを、こんなに早くリフレインする事ができるとは。
 平伏する耶美を見下ろし、声が震えないように注意しながら、桃香は主人として凛と言い放った。
「詳しく聞かせてもらおうかしら。説明しなさい、耶美?」
 
 
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